今日の日経新聞ピックアップ(2022/11/24)

  1. Deep Insight韻を踏む「魔の11月」

    「歴史は繰り返さないが、しばしば、韻を踏む」= 歴史はそっくりそのまま繰り返すことはないが、よく似た事象はしばしば出現するという意味。

    ・世界の市場関係者がこわごわと見つめているチャートがある。業績の低迷や不祥事に苦しむ欧州金融大手、クレディ・スイス・グループのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)。債務不履行で生じた損の穴埋めを保証する商品で、倒産への懸念が高まるほど保証料率も上がる。
    ・2%前後で推移していた5年物の料率は9月、4%に迫った。10月には事業売却などの再建策を公表したが3%台で高止まりし、市場は万一への警戒を解かない。
    ・数奇な運命だ。場面を1997年の東京にさかのぼろう。クレディは、日本の金融危機の象徴になった山一証券が11月の破綻直前、最後に救済を求めた1社だった。頼れる欧州の覇者は、25年を経て危機の導火線に姿を変えた。
    「歴史は韻を踏む」。この名言は、金融危機にもいえる。98年の米大型ファンドの破綻で金融機関のリスク管理「ストレステスト」が普及した。2008年のリーマン危機後には米国の銀行による自己勘定での投資が制限された。
    ・それでも世界は、クレディの問題や暗号資産(仮想通貨)交換業大手、FTXトレーディングの破綻に揺れる。手を打っても危機は震源を変えて襲ってくる。世界のカネ余りも金融引き締めで終わり、危機に引火する条件も整った。
    「魔の11月(Dark November)」人々は1997年11月をこう呼んだ。三洋証券、北海道拓殖銀行、山一と大型金融機関の破綻が連鎖した。衝撃の足音が再び聞こえる今、大きな代償を払ったにもかかわらず教訓を生かせなかった事実に気付く。
    ・「マーケットは侮れない。銀行も潰れるのだと目覚めた」。北海道銀行の元頭取で特別顧問の堰八義博氏は、97年を振り返る。幻に終わった拓銀との合併交渉を同年担い、「政府は大手行を潰さない」という神話の崩壊を間近で見た。不良債権を恐れる株や金融市場の動揺は政府も抑え切れず、企業を延命することの限界を知った。
    ・あれから四半世紀。去るべき企業が去り、企業の新陳代謝は進んだのか。答えはノーだ。
    廃業率も、背中合わせの関係にある開業率も、日本は米欧から大きく見劣りしたままだ。
     
     根強く幅をきかすメインバンク制の下、体面を気にする銀行が不振企業を延命しているからと言われている。経済協力開発機構(OECD)加盟国中、日本の1人当たり労働生産性は97年に19位だった。2020年は28位と順位を落とし、競争力の地盤沈下は進んだ
    ・企業はどうすれば逆境を勝ち残れるのか。魔の11月は、その答えも残した。荒れる株式市場から逃げずに向き合うのだ。
    ・上場企業を対象に、1997年11月から先月まで株式時価総額をどれだけ増やしたかを見よう。増加率5位が家具大手のニトリホールディングスで、117倍に増やした。6位が調剤薬局最大手のアインホールディングスで103倍。両社はメインバンクの拓銀を失ったが、株式市場の信頼を引き付けて復活した北海道企業だ。
    ・「倒産ぎりぎりまで追い込まれた」。ニトリの似鳥昭雄会長は今月、拓銀の後ろ盾を失ったことによる信用悪化を明かした。取り組んだのは、借り入れに依存しない財務づくりだ。売上高に対する負債の比率は97年2月期の38%から直近の11%に落とした
    ・一方、株式市場の関心が高い営業利益率は5%から17%に高めた。低コストの東南アジアへの生産委託という手法も生んだ。目ざとく株を大量買いしたファンドマネジャー、清原達郎氏は2004年、「長者番付」の首位となり年収100億円と騒がれた。
    「危機→市場と向き合い復活」という勝ちパターンはその後、日本を代表する企業がバブル崩壊から立ち直る過程で引き継いだ。
    ・「成長を加速させるフェーズに移行する」。11月11日、投資家向け説明会でオリンパスの竹内康雄社長が宣言したのは、暗い歴史からの脱却だった。信用が失墜した11年の不正会計事件を機に、投資家の視点を重視して取締役会を活性化。カメラや顕微鏡の事業売却につなげ、収入のほとんどを本業の医療で稼ぐメドが立った。23年3月期は過去最高益も、目標の20%の営業利益率も視野に入る。
    ・同社、同じく危機から復活したソニーグループや日立製作所には、ニトリやアインと重なる行動がある。成長資金の確保や財務の安定を狙い、公募増資をしたのだ。危機下の増資は投資家の批判も浴びたが、株を売る過程で成長戦略も再建への覚悟も鍛えられた。
    ・名うての投資家は、逆風の今こそ変化に敏感だ。「この国は良くなった」。10月に来日したコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の創業者、ヘンリー・クラビス氏は女性起業家と会ううちに驚いた。誰もが就職先を捨てて起業しており、同氏が抱いていた「終身雇用と男性優位」という日本の企業観と一線を画していた。
    安泰な暮らしを保証した大会社が突然消え、日本人に自立を迫ったのも魔の11月だ。アニマルスピリッツの芽は、ようやく世界的な投資家の心をつかみつつある。
    ・歴史が韻を踏むなら、危機が訪れても市場と向き合って這(は)い上がる企業が出るし、たくましい企業は大化けする。ホームランを狙う投資家は動いている。1997年11月は真っ暗ではなく「日本は変わる」という高揚感もあった。遠ざかった世界との溝を埋める最後の機会が今、訪れている。

    「歴史は繰り返さないが、しばしば、韻を踏む」= 歴史はそっくりそのまま繰り返すことはないが、よく似た事象はしばしば出現するという意味。

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