今日の日経新聞ピックアップ(2022/11/21)

  1. 背水の「1.5度」目標 COP27閉幕
    温暖化ガス排出余地、4000億トンに 30年に超過の懸念

    ・第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)は脱炭素化の取り組みで大きく進展せず閉幕した。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の推計では、異常気象を一定程度に抑えるパリ協定の「1.5度目標」の実現には残り4000億トンしか温暖化ガスを排出できない。今のままでは2030年にも超過しかねない。瀬戸際の脱炭素目標に世界が協調して取り組む知恵が戦時下で問われている
    ・温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」は気温上昇を産業革命前に比べ1.5度以内にする目標を掲げる。この一線を越えると災害リスクが高まる。
    ・IPCCは1.5度目標を実現するのにあとどれくらいの二酸化炭素(CO2)の排出が許されるのかを示している。産業革命以降、計2兆8000億トンまでしか排出できないが、19年までに既に2兆4000億トンを排出したという。残された排出枠は4000億トン。世界の年間排出量は400億トン程度で、10年間で超えてしまいかねない。
    1.5度目標の達成には30年までに10年比で45%減らし、今世紀半ばにゼロにしなければならない。日米欧など主要先進国はおおむねこの分析に沿った目標を掲げている。課題は世界の排出量の3分の2を占めるようになった新興・途上国で、多くは目標が不十分だ。
    ・今回のCOP27の合意文書は「23年末までに目標を再検討して強化するよう要請する」と盛り込むのにとどまった。排出量で世界首位の中国、3位のインド、4位のロシア。新興・途上国のいっそうの取り組みが欠かせない。
    ウクライナ侵攻が引き起こしたエネルギー危機は、協調が必要なときに足元の電力・資源確保といった自国優先主義をはびこらせた。
    ・「アフリカが欧州のガスステーションになっている」。ケニアにあるシンクタンク、パワーシフトアフリカのアロー事務局長はCOP27でこう不満をあらわにした。
    ・ロシア産ガスの代替調達先を探す欧州は、アフリカ諸国でのガス田開発を加速させる。5月にはドイツのショルツ首相がセネガルを訪問。イタリアもアフリカ諸国でのガス事業を検討する。
    ガス火力発電所は石炭を使うよりも排出量は少なく、CO2を貯留するといった措置をとればクリーンだと認定される。ただ化石燃料であることにはかわりなく、長期に買い続けてもらえるかはわからない。アフリカではガス開発でなく、再生可能エネルギーへの投資を求める声が強まる。
    ・米国でも自国優先の傾向が続く。COP27で初めて独立した議題となった気候変動の「損失と被害」(ロス&ダメージ)。地球温暖化に伴う海面上昇や干ばつなど対策をとっても防げない影響への金銭支援を指す。ケリー大統領特使(気候変動問題担当)は「合意は難しい」と当初、言及した。
    ・最終的に折れたが、バイデン政権は気候変動対策に熱心でも米国は海外支援には慎重だ。議会の承認が必要なためで、中間選挙で上下院がねじれ状態となり、気候変動対策での巨額支援の実施はハードルが上がる。
    ・排出量の多い石炭を活用する動きも相次ぐ。「燃料に使える外貨を考えると我が国は液化天然ガス(LNG)を買う余裕はない」。パキスタンのシャバズ・シャリフ首相は7月初旬、こう語った。ガス火力は同国の発電の半分弱を担う。足元ではガスよりも価格の安い石炭を使った発電を増やしている。
    国際エネルギー機関(IEA)は23年の世界の石炭消費量が前年比0.3%増の80億3200万トンと過去最大になると予想する。再生エネの設置容量も爆発的に増えるが、それでも1.5度目標の実現は遠い。
    ・ウクライナ侵攻で世界の分断はますます強まった。ただ、熱波や山火事、洪水などの被害は世界で目に見えて増え、それは途上国だけでなく、どの国・地域にも大きな脅威となる。分断や対立を超え、人類共通の課題として気候変動問題に取り組む重要性が高まっている。
  2. きょうのことばCOP27 世界の温暖化対策を主導
    ▽…気候変動対策について話し合う国際会議。締約国会議を意味する「Conference of the Parties」の略語で、1995年以降、基本的に毎年1回開かれている。今回は27回目のため「COP27」と呼ぶ。
    ▽…会議は92年のリオデジャネイロの国連環境開発会議(地球サミット)で各国が署名した気候変動枠組み条約に基づいて開催されている。今は198の国と地域が条約を批准している。COPは地球温暖化の対策について国際的な目標や協力体制を決める会議として最高決定機関といえる。
    ▽…京都で開いたCOP3で決まった「京都議定書」は先進国に温暖化ガスの削減を義務づけた。米国が離脱するなど機能しなくなり、2015年のCOP21で新たに「パリ協定」を採択産業革命前からの気温上昇を2度未満に抑え、1.5度以内にするよう努力する目標を定めた先進国だけなくすべての国に排出削減の努力義務を課した。各国はこの目標を意識して対策に取り組んでいる。
  3. Market BeatESG、17年目の覚醒  投資力磨き、変化に懸ける
    ・ESG(環境・社会・企業統治)投資が覚醒し始めている。これまでは過去の実績に依存したESG評価で投資先を判断していたが、ウクライナ危機と金融引き締めで通用しなくなった。今では評価が低くても改善が期待できる企業へ投資の軸が移ろうとしている。変化を先読みして投資するのは株式投資の基本だ。国連がESG投資の推進を打ち出して17年目。ようやく投資として当たり前の姿になろうとしている。
    ・「ESGとリターンの両立を目指す」。UBSアセット・マネジメントが注目するのはESG評価の改善が期待できる銘柄だ。松永洋幸執行役員は「ESGの改善は業績の改善に先行する」と指摘する。米モーニングスター・ダイレクトによると、改善銘柄に投資する同社の欧州籍ファンドでは米銀大手ウェルズ・ファーゴや米石油・ガスのデボン・エナジーなどを組み入れる。
    ・不正営業が発覚したウェルズ・ファーゴは2020年にかけて経営陣を刷新している。ESG改善の兆しが表れ、米MSCIのESG評価は7段階中最低のトリプルCから2つ上がりダブルBになった。
    ・デボン・エナジーも同業買収後に社外取締役中心の取締役会に変えた。ESG評価は上から4番目のトリプルBから1つ上がった。両社ともに昨年末比の株価の上昇率は米S&P500種株価指数を上回る。
    ・ESGに改善の兆しがみえれば、その企業が中長期の経営課題に対応し始めたことを示す。収益も上向くとの期待につながりやすい。
    ・グローバル企業を見渡してみても、この傾向は同じようだ。世界の主要企業約1500社のうち、リフィニティブのESGスコアが15年には100点中50点未満と低評価だったが、21年に70点以上と高評価に転じた改善銘柄群の株価は15年比で平均2.1倍になった。15年も21年も70点以上と高評価が続く銘柄群の(1.6倍)を上回る。
    ・ESGの改善に注目したファンドは増えている。米ゴールドマン・サックスの調べによると、欧州では1月から8月まででファンド数が2倍以上になった。UBSアセットは10月、国内でも初めて同様の投資信託を設定した。
    ・改善余地に注目が集まる背景には、現在主流のESG高評価銘柄に投資するファンドの苦戦がある。
    ・過去数年、ESG投資はこうした高評価の銘柄に集中していた。運用残高上位のESGファンドをみると、ESG評価が90点台の米マイクロソフトや80点台の米アルファベット、米アマゾン・ドット・コムなど、ハイテク株の組み入れが目立つ。ハイテク産業はもともと温暖化ガスを大量に出さないため高評価を得やすい。
    ・ESG評価は過去の実績であり、今後の伸びしろを示してはいない。株価が今後の成長期待を織り込んで形成されることを考えれば、高評価銘柄への集中投資は非効率といえる。
    金融緩和下でハイテク株に大量のマネーが流れ込んだことで投資効率の問題は表面化しなかったが、ウクライナ危機で化石燃料の見直し機運が高まり、金融環境も引き締まったことで状況は一変した。ハイテク株が崩れ、新たにリターンを得られる投資基準として、ESGの改善余地に注目が移ろうとしている。
    ・「ESG評価の変化に注目が集まるのは、投資としてようやく成熟してきた証拠」とシティグループ証券の阪上亮太氏は指摘する。ただ、投資家はESG対応の変化の実態を見極めることが求められる。
    ・10月、TIAA(全米教職員年金保険組合)と傘下の資産運用会社の運用方針に対し、約300人の加入者が反発していることが分かった。
    ・TIAAは対話を通じてESG対応の改善が見込めるとして化石燃料企業に投資しているが、加入者側は具体的な根拠や計画が示されていないと主張。「責任投資原則(PRI)」に違反しているとして、PRIの運営団体に調査を申し立てた。万が一PRIの枠組みから外れればTIAAのイメージ失墜は避けられない。
    ・国連がPRIを公表しESG投資が本格的に始まった06年以来、環境や人権意識の高まりと金融緩和下の余剰マネーによって市場は急拡大してきた。もともとESG評価が高く、好業績が続いたハイテク産業への選別を伴わない集中投資はリターンが出たため問題視されなかった。そんなESGバブルともいえる環境はウクライナ危機と金融引き締めによって終わった。
    いまや投資力を磨き続けなければESGの向上と高リターンの両立はできない。投資家による企業の選別力が何よりも問われる局面に入った。
  4. 仮想空間で知財保護へ 政府、商標・意匠権の適用議論
    ・政府はメタバース(仮想空間)における知的財産権保護に向けた法整備の検討を始める。現行法では仮想空間における商標権や意匠権などの扱いが曖昧で企業がビジネスを展開する上でリスク要因となっている。21日にも官民連携会議を立ち上げる。
    ・連携会議は民間事業者や大学などから有識者を招く。メタバースに関わるビジネス現場からの意見も踏まえて協議する。
    ・メタバースはインターネット上に存在する仮想の空間だ。仮想空間では利用者が自分の「分身」であるアバターで遊んだりコミュニケーションしたりできる。ゲームやビジネスで活用が広がっている。
    ・メタバースでの知的財産権の取り扱いは曖昧だ。例えば、仮想空間内では非代替性トークン(NFT)を活用して商取引ができる。実在する商品や建物を再現したものもある。
    仮想空間の商品や建物であっても、利用者が現実世界で受け止める会社や商品のイメージに影響する。これらに対する商標権や意匠権の適用が論点となる。現行法で権利を保護できる範囲や新たに必要な対策に関しての議論が不可欠だ。

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