今日の日経新聞ピックアップ(2022/11/17)

  1. CO2ゼロ宣言 企業の53%、本社SDGs調査  前回比2割上昇 達成へ問われる実効性
    ・日本経済新聞社がまとめた2022年の「SDGs経営調査」では、温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を宣言している企業が53.3%と、前回調査から約2割上昇した。政府が50年の実現を宣言して以降、21年から宣言企業数は大幅に増えている。今後は目標達成に向けた実効性ある取り組みが求められる。
    政府は20年、カーボンニュートラルを50年に実現することを宣言。温暖化ガスの排出量を30年度に13年度比で46%削減するとした石炭などの化石燃料に大きく依存する日本は対策に前向きでない国に与えられる「化石賞」に選ばれるなど、依然として厳しい立場にある。国のエネルギー政策だけでなく、企業が率先して排出量を削減できるかも重要になっている。
    ・カーボンニュートラル宣言をした472社のうち、22年に宣言したと回答したのは128社で27.1%だった。最多は21年に宣言した255社で54%だった。21.22の両年で宣言した企業が8割を占め、20年に政府が宣言した影響が大きかったようだ。
    ・住友重機械工業は今年、50年のカーボンニュートラル目標を宣言した。燃料として重油を使うのを取りやめ、部門ごとに省エネへの投資も含めた排出量削減計画書を作成している。ゴールデンウイークなどの大型連休で3日間以上完全休業にするなどして固定電力削減を進める計画だ。同様の宣言をした荏原は、23年にも藤沢事業所で大規模な太陽光発電システムを稼働させる。熊本事業所など国内拠点に順次導入していく。
    ・二酸化炭素(CO2)を大量に排出せざるを得ない業界も試行錯誤を続ける。大成建設はCO2を吸収させた新型コンクリートを実用化した。CO2排出量の多いセメントを使わず、CO2などを原料にした炭酸カルシウムを採用、建材としての実質的な排出量はマイナスになる。同社はこのほど排出量を費用に置き換える「インターナルカーボンプライシング」制度も導入し、財務や設備投資でも排出量削減を加速させたい考えだ。
    ・排出量を削減し、さらに吸収に転ずる「カーボンマイナス」を宣言した企業は27社で全体の3%。23年までにグループの使用電力を100%再エネ由来に切り替えるセイコーエプソンは昨年までにグループの49%で完了。兼松はパリ協定で奨励された途上国の持続可能な森林経営を目指す「REDD+」で、インドネシア農家によるカカオ栽培の普及を支援する。貧困農家の生計を改善しつつ森林伐採も抑えて排出量削減を進める。
    ・ただ、カーボンニュートラル宣言をした企業のうち79.2%が目標設定を「2050年以降」としているほか、宣言の基となる排出量の算出範囲について、自社とその直接取引先に限る「スコープ1+2」が最多の58.9%だった。政府の50年宣言を達成するには主要企業がさらに前倒しで、かつ取引先を広く巻き込んでいく必要がある
    脱炭素で注力する取り組み(複数回答)で「アンモニアなど新燃料の使用」(8.1%)や「水素の活用」(17.2%)、「二酸化炭素回収・貯留などの技術活用」(10.0%)など新技術を挙げた企業もあった。実用化には制度設計で国の環境整備も欠かせない。
  2. 「ジェラートピケ」、米ファンド傘下に   「勝ち組」アパレル M&Aで成長狙う
    ・室内着の「ジェラートピケ」などを展開するマッシュホールディングスは16日、米投資ファンドのベインキャピタルに株式の過半数を譲渡すると発表した。マッシュは新型コロナウイルス下でも成長を続けるアパレルの「勝ち組」。環境の変化に対応できずファンドの資金力を頼って再建を目指すこれまでのM&A(合併・買収)とは一線を画している。
    ・「グローバル視点での中長期的な事業成長の加速を実現する」。マッシュはベイン傘下で海外展開など成長戦略を進める方針を示した。
    ・M&A助言のレコフによるとアパレル業界の国内企業同士のM&Aは、過去10年の1件当たり金額が平均1億~8億円にとどまる。経営不振に陥った企業にファンドが投資し、閉店や事業の縮小などのリストラを進める「救済型」も多い。
    企業価値を2000億円規模と評価されたマッシュは超大型案件だ。新型コロナ下の外出抑制や営業自粛で業績が大きく落ち込んだアパレルも目立つ中で、成長を続けてきたことが背景にある。
    ・けん引役のジェラートピケは、もこもことした素材を使った着心地の良さ、パステルカラーを基調としたデザインが人気だ。上下セットのパジャマが1万~2万円程度と決して安くない価格だが販売を増やしている。
    デザイン力への評価も高い。一般に1ブランド2~3人といわれるデザイナーがマッシュは10人ほどいる。2022年8月期の連結売上高は1023億円と初めて1000億円を突破。13年8月期比で3.4倍となった。

    収益力を担保に
    成長軌道に乗っているのにファンド傘下入りを決めたのは、それぞれに利点があるからだ。
    ・創業者の近藤広幸社長は特別目的会社(SPC)に保有株全てを売却し、その後再出資する形をとる。4割程度の大株主として残り、引き続きマッシュの経営にあたる。
    ベインの買収はLBO(レバレッジド・バイアウト)ローンと呼ぶ、マッシュの資産や収益力を担保にした銀行借り入れを使う。近藤氏は創業者利得の一部を確定しつつ、LBOローンで再出資の際の持ち出し資金を抑えられ、将来の上場時の値上がり益も狙える。
    バブル崩壊後の1990年代後半に日本に本格上陸したプライベートエクイティ(PE=未公開株)ファンドの役割も変わりつつある。当初は経営不振の企業に資金を提供し、リストラなどで再建する事例が多かった。
    不振企業の投資機会が減り、数が増えたファンドの間の競争が激化し、成長企業の支援に軸足を移すようになっている。

    IPOを支援
    ・マッシュが3~5年後に目指す新規株式公開(IPO)もその一つだ。財務や企業統治などで経営に直接関与するPEファンドはIPO実務のノウハウも持つ。ベインのような外資系の大手ファンドは主要各国に拠点を設けているため、自社のネットワークを生かして投資先企業の海外進出も支援できる。
    ・アパレルは流行に左右されやすい。2020年にはかつて世界最大のアパレル企業だったレナウンが法的整理となり、大手銀行から「アパレルは業界全体が厳しいというイメージが拭えない」との声もでる。マッシュが価値向上につなげられれば、アパレルに新たなM&Aの風が吹きそうだ。

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