今日の日経新聞ピックアップ(2022/11/16)

  1. 「ジェラートピケ」のマッシュ、ベインが買収 2000億円
    ・室内着ブランド「ジェラートピケ」などを手掛けるアパレルのマッシュホールディングス(東京・千代田)を、米投資ファンドのベインキャピタルが買収することが15日、わかった。買収額は2000億円規模とみられる。ベインの経営資源を活用し、海外展開や経営体制の整備を進めて上場を目指す。
    ・「ジェラートピケ」は女性を中心に支持を広げている
    ・投資ファンドによる国内アパレルのM&A(合併・買収)としては最大規模となる。新型コロナウイルス下で室内着が巣ごもり需要を捉えて成長しており、評価が高まった。
    ・マッシュは1998年創業で非上場。ジェラートピケはもこもこした柔らかい肌触りが特徴で、パジャマなどが若者を中心に人気を集めている。そのほか女性向け外出着の「スナイデル」、自然素材にこだわった化粧品や雑貨の「コスメキッチン」などを手がける。
    ・ベインはマッシュ創業者の近藤広幸社長が保有する全ての株式を取得。買収後、近藤社長は4割程度を再出資して引き続きマッシュの経営にあたる。ベインは役員を派遣し経営を支援する。
    ・マッシュの連結売上高は1023億円(2022年8月期)と前の期比14%増えた。新型コロナ禍でアパレル業界全体が落ち込む中で、コロナ前の19年8月期比で30%増と成長している。営業利益は98億円、営業利益率は10%近くあり、業界平均(約5%)と比べ高い。8月末時点の店舗数は646店舗で、中国や米国にも進出している。
    ・新型コロナの感染拡大が収束に近づき、巣ごもり需要も一服している。株式上場を目指すなかで、さらなる成長には、ファンドのノウハウを借りながら海外展開を一段と進める必要があると判断した。
    ・ベインは13年にカナダの高級ダウンブランドのカナダグースに出資し、17年にニューヨークとトロントの株式市場に上場させるなど、アパレルの経営実績や上場ノウハウを持つ。マッシュには国内での出店余地もあるとみている。中国を中心とした海外事業の拡大やデジタル化を進め、企業価値を高めた上で3~5年後の新規株式公開(IPO)を目指す。
    近藤氏は社長としてブランド管理や商品の企画・開発などに集中する。財務管理やガバナンスなどの経営管理業務やデジタルマーケティング、海外展開などはベインの協力を仰ぐ。
    ・国内でのファンドの役割は当初、経営不振企業の立て直しなどが多かった。最近では今回のように、成長企業に出資し、資金やノウハウを提供して一段の事業拡大を支援するケースが広がっている。
    ・ベインは国内でも複数のマッチングアプリ運営会社や、医療IT(情報技術)システムのリンクウェル(東京・港)に出資するなど、スタートアップや成長企業への投資を拡大している。
  2. 記者の目三菱重工、「エネ移行期」を成長源に 現金創出力カギ、新たな稼ぎ頭開拓急務
    ・三菱重工業が現金創出力を改善している。エネルギー危機などを背景にガスを燃料とする高効率な発電用タービンの受注などが好調なためだ。株価は次世代型原発への先行期待もあるが、直近はガス火力という現実解が本業に貢献する。脱炭素の流れで石炭火力ビジネスの先細りリスクは避けられない。タービンの水素発電への転換など、脱炭素「移行期」の成長事業の開拓は時間との闘いを迫られる。
    ・1日発表の2023年3月期の連結業績予想で、受注高が通期4兆円と3000億円上積みした。発電用タービンなど受注製品が寄与した。受注製品は納品までに数年かかる製品が多く、受注額の一部を前受け金として先に受け取る。今期の現金創出力を示すフリーキャッシュフロー(FCF)の改善要因だ
    ・今期のFCFは期初に見込んだ1000億円の赤字から現時点で変更はない。受注好調を背景に稼ぐ力が改善し、今期計画に織り込んでいない政策保有株や不動産の売却も想定される。2期連続のFCFの黒字化が視野に入っているもようだ。
    FCFの改善はガスタービンなどの事業(前期売上収益は6168億円)がけん引する。欧州連合(EU)が環境面で持続可能な事業を定めた「タクソノミー」や直近のエネルギー危機で現実的な解決策として見直されてきた。石炭火力などの事業(同4798億円)は先細るリスクがある。
    ・10年以降、国産ジェット旅客機「三菱スペースジェット(MSJ)」など巨額の損失リスクが頻発してきたが、ほぼ解消された。10年ほど前からCF重視の経営を進めてきたことも大きく、財務は安定する。有利子負債が自己資本の何倍かを示す負債資本倍率(DEレシオ)も9月時点で0.5倍と、財務健全の目安とされる1倍を下回る。
    泉沢清次社長はエネ移行期の成長領域の投資対象について「水素(タービンの水素発電への転換)や二酸化炭素(CO2)の回収・再利用・貯留(CCUS)が主体になる」という。エナジー・環境関連の新分野で31年3月期に3000億円の売上収益もめざす。
    ・安全性を高めた新型原子炉「革新軽水炉」を電力会社4社と共同開発すると発表済みだが、こうした次世代原発への本格投資はさらに先になる。
    CO2回収などの脱炭素技術の開発に31年3月期まで9年間で、年間事業利益の10倍以上の2兆円規模を投じる計画だ。
    ・ガスタービンの排熱を使って蒸気タービンも回す「GTCC」と呼ぶ発電プラントで世界最高水準の発電効率を誇るなど高い技術力も抱えるが、新たな市場で新興勢に抜き去られる恐れもある。回復してきた現金創出力を生かして投資し、新たな稼ぎ頭を開拓するスピードが欠かせない。

    EUタクソノミー
    企業の経済活動が地球環境にとって持続可能であるかどうかを判定し、グリーンな投資を促すEU独自の仕組みのことである。タクソノミーは「分類」という意味で、持続可能な経済活動に取り組む企業の明確化を目的としている。気候変動対策と経済成長の両立を目指す「欧州グリーンディール」の中核をなし、分類の具体的なプロセスを定めたタクソノミー規則(Regulation)はEU加盟国全てに適応され、国内法よりも優先される。
  3. CO2地下貯留、三井物産が整備
    アジア太平洋で年1500万トン 35年めど

    三井物産は工場や発電所から出る二酸化炭素(CO2)を集めて地下に貯留する「CCS」権益を、2035年までにアジア太平洋地域を中心に年1500万トン分確保する。日本全体の脱炭素には50年に年約1億2000万トン分が必要とされ、そのうち1割強を占める規模となる。枯渇した油田などを転用することが多いCCSの適地は日本には少ない。CO2回収から輸送、貯留までを請け負い、日本企業の脱炭素を後押しする。
    ・CCSは「二酸化炭素回収・貯留(カーボンキャプチャー・アンド・ストレージ)」の略。工場や発電所から出た排ガスを液剤などと反応させることでCO2を回収し、高圧で地下にため込む。従来は生産量が減った油田やガス田などで生産量を高めるための手法に使われていた。
    ・近年は欧米や日本では脱炭素の重要な手段と位置付けている。将来的には電気自動車(EV)なども普及するが、CO2を排出する火力発電などが経済活動に不可欠なためだ。CCSは世界で大規模な開発計画が相次いでいる。
    ・三井物産は日本からCO2を輸送しやすいアジア太平洋地域を軸に複数のガス田などでCO2の貯留権益の獲得を進める。22年から海外エネルギー大手などと事業化調査に着手した。インドネシア国営プルタミナとはスマトラ島中部にある同国最大規模の陸上油田・ガス田地帯で貯留できる量を調査する。またマレーシア国営石油ペトロナスとは同国外からのCO2受け入れを目的とし、貯留量やCO2運搬船の航路などを検証する。
    ・タイでもタイ石油公社(PTT)系が持つガス田でCCSの実証実験を始める計画だ。英シェルとも日本を含むアジア太平洋地域で調査を始めた。24年ごろまでCCSに適した地下貯留層を探したり、地下調査技術の有効性を確かめたりする。
    ・三井物産は個別のプロジェクトについて想定貯留量を明らかにしていないが、一連の取り組みを通じて35年までにアジア太平洋地域で年間1500万トン分の権益を確保する方針だ。
    ・獲得した権益を活用して、三井物産は30年にも日本企業などを対象にしてCCSサービスを始める計画だ。発電所や製鉄所などから出るCO2を回収して液化CO2として運搬船で輸送し、地下に貯留するまでを請け負うことで対価を得る仕組みを想定している。松井透常務執行役員は「CCSサービスを当社の注力領域の一つにし、脱炭素に貢献する」と話す。
    ・経済産業省は日本のカーボンニュートラルの実現には50年時点で少なくとも年約1億2000万トンのCCSが必要になると試算する。国内では北海道苫小牧市の貯留層にCO2を圧入する実証実験を16年に始めたが、具体的な取り組みは一部にとどまる。経産省は国内で30年までのCCS事業化を目指すが、他国のように枯渇ガス田などが少なく、適地の確保が課題となっている。
    ・一方、ガス田や油田の開発も盛んなアジア太平洋岸の各国ではCO2を貯留できるかどうかの地下構造に関するデータも豊富だ。CCSの適地の見当をつけやすく、三井物産は権益を効率的に拡大しやすいとみる。
    ・CCS普及には課題もある。一つは排気から効率的にCO2のみを回収する技術の確立だ。発電所や工場によって排気中のCO2の濃度などが異なり、それぞれに適した手法を見つける必要がある。回収工程のコストが大きく、低減が欠かせない。欧米やオーストラリアなどではCCS事業者に対して政府が補助金などの支援策を用意している。東南アジアでもこうした支援策が必要となりそうだ。
    ・豪シンクタンクのグローバルCCSインスティテュートによると、世界で稼働中のCCSは約30件で、足元でも160件以上の大規模開発計画がある。米国ではメキシコ湾海底下に大規模なCCS計画があるほか、ノルウェーでは欧州各国から集めたCO2をいったん陸上貯蔵してから地下に貯留する計画が進む。英国では国内各地にCCSを設ける計画だ。
    総合商社では三菱商事も三井物産と組んでオーストラリア沖で適地を調査する。丸紅はJパワーと豪石炭火力発電所から出るCO2のCCS事業に参画し、日本での事業化に備えて知見を蓄積する。伊藤忠商事は日本製鉄などと液化CO2を海上輸送する実証実験に取り組む。専用船をつくって京都府から北海道まで運ぶ計画だ。

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