今日の日経新聞ピックアップ(2022/9/15)

  1. Deep Insightテック業界に多様性の警告
    ・浴びるスポットライトが強い分、できる影も濃い。称賛と警戒。いまテクノロジー業界で、中国の字節跳動(バイトダンス)ほど二面性が際立つ存在はない。
    ・2012年に創業し、大量のデータを扱う機械学習をてこに成長してきた。同社の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」は10億人が使う。広告収入は24年に約3兆4000億円に達し、「ユーチューブ」と肩を並べると予測される。
    利用者ごとの関心をとらえ、コンテンツをレコメンドするアルゴリズムが武器だ。米社によれば企業価値は約20兆円と、起業家イーロン・マスク氏率いる米宇宙会社スペースXをしのぐ。有力な未上場企業、ユニコーンの中で首位だ。
    ・中国当局は、バイトダンスなど中国のIT(情報技術)企業から入手したアルゴリズムの情報を公表した。ただ、このほかに各社から機密情報も得たのではないかとの報道がある。当局は統治に役立つとアルゴリズムに関心を示す。次に何が起きるか不透明だ。
    恋活・婚活マッチングアプリ「ペアーズ」のエウレカ(東京・港)。独自のアルゴリズムで相性を数値化し、出会いを促す。日本総研との共同調査では、21年6月までの1年間に結婚した人の7%がペアーズがきっかけだった
    ・人生の節目にかかわる会社ゆえに、さまざまな主張や考え方を認める社内風土を重視する。「スキルセットが同じなら、(女性や外国人など)マイノリティーをより高く評価して採用する。意図的に多様性を生み出す」。石橋準也最高経営責任者(CEO)は話す。
    ・220人いる従業員の男女比は6対4だ。アプリに機能を加えるときは、幅広い属性の従業員が社内でテストする。上級幹部は男性が多いが、出身国や育った環境、職歴の違う人材をそろえる。
    ・英ジャーナリストが書いた「多様性の科学」(21年)は優れた人材を集めても属性が偏れば大きな問題を見逃し、悲惨な結果を生みかねないと分析するアルゴリズムなどITを駆使するテック業界に向けた警告の書とも思える。
    ・バイトダンスは世界の従業員数や男女比が非公開だ。日本のティックトック利用者のデータを管理するメインサーバーをシンガポールに置くが、レコメンドシステムの運用体制は明かしていない。
  2. グローバルオピニオン欧州、脱ロシア産ガスに道筋を
    ・エネルギー価格の高騰は、欧州経済とその政治家にとって大惨事だ。ただ、現在の欧州の混乱は、欧州連合(EU)の無策が引き起こしたものだ。EUには強固で統一され、一貫したエネルギー戦略が求められている。
    ・EUのエネルギー政策は長年、場当たり的で、その原因の大半はロシアが引き起こしたものだった。
    ・09年1月にはロシアがウクライナ経由のガス供給を停止し、欧州18カ国への供給が2週間にわたって混乱した。EUはガスと電力に関する「第3次エネルギー・パッケージ」を採択。多様化、市場化、エネルギー部門の送電事業と発電事業の分離を提唱し、ガス会社や電力会社にパイプラインや送電網の所有を禁じた。ロシア国営ガス大手ガスプロムはバルト海のパイプライン売却を余儀なくされ、リトアニアとポーランドは液化天然ガス(LNG)基地の建設に動いた。
    しかし、ドイツはこうした動きを気にかけなかった。同国は逆方向に進み、当時のシュレーダー首相はロシアからのガスパイプライン「ノルドストリーム1」を承認した。14年にロシアがクリミアを併合した後も、シュレーダー氏や他のドイツ要人は「ノルドストリーム2」の建設を主張した。
    ・さらにメルケル前首相は11年の福島第1原子力発電所の事故を受け、安全で十分に機能しているドイツの原子力発電所の閉鎖を決めた。ロシアが今年、欧州へのガス供給を停止するまで、ドイツはロシアからの欧州のガス輸入の約3分の1を占めていた。さらに悪いことに独企業は国内のガス貯蔵施設の大半をガスプロムに売却。ガスプロムは昨年、露骨な価格操作でそれを空にしてしまった。多くの欧州諸国が長年ロシア産ガスへの過度の依存を懸念していたが、今や欧州全体がドイツの無責任な行動の結果に苦しんでいる

    ・ではどうすべきか。ガスプロムほど市場操作でEUに苦痛を与えてきた企業はなく、信頼できない相手なのは明らかだ。理想を言えば、EUはガスプロムがEU域内の経済活動に参加できないようにするか、制裁を科す必要がある。さらにEUは加盟国に十分なLNG基地の整備を要求すべきだ。
    ・また、多くのEU諸国間のエネルギー接続は不十分か、全く存在しない。スペインやポルトガルには豊富なLNG基地があるが、フランスへのパイプラインの供給能力は限られている。フランスが安価なスペイン産ガスを国内市場に入れないという狭量な政策をとっているためだ。
    ・同様にスウェーデンやノルウェー北部の電力価格は、これらの国の南部より安い。水力発電によるものだが、南部と結ぶ送電線が十分にない。EUはこれらの国に送電網の拡張を義務付けるべきだ。
    ・もう一つ、ウクライナには天然ガス、電力、石油など膨大なエネルギー資源があるが、欧州の貿易障壁のために売れ残っている。EUは急ぎ市場を開放すべきだ。
    ・欧州委員会は欧州のエネルギー政策についてより広範な責任を負い、エネルギー市場が機能し、欧州を無責任で無能な各国の政治家から守る必要がある。今後1~2年の間に欧州は(エネルギー面で)ロシアから完全に独立を宣言できるようにしなければならない
  3. 独の失敗に学ぶ
    ドイツがロシア産天然ガスへの依存を高めてきたのは、ドイツの油断であり失敗だった。脱炭素・脱原子力を優先しエネルギー安全保障上の脆弱性に目をつぶった。その代償をドイツ国民だけでなく程度の差こそあれ世界の国々が支払うことになった。
    ・しかし、危機のそもそもの発端はロシアのウクライナ侵攻にある。ドイツの失敗の原因や背景を分析し教訓とすることの意義は大きいが、失敗をあげつらうだけでは、対ロシア制裁網の分断を意図するロシアの思惑にはまる。マクロン仏大統領はドイツとの間で電力・ガスの相互融通協力を打ち出した。フランスは原子力大国だが、多くの原子力発電所がトラブルなどで稼働できず電気料金が高騰している。両国は補完関係にある。
    ・ドイツの脱原子力は2011年の東京電力福島第1原発事故が契機だ。日本は事故後、政策として多様な電源確保に努めてきたが、現実には化石燃料への依存を高めエネルギー自給率は先進国の中で最低レベルだ。ドイツの脆弱性は他人事とは言えない。
  4. 独立系VC、脱炭素で300億円投資
    国内最大級ファンド

    独立系ベンチャーキャピタル(VC)の環境エネルギー投資(東京・品川)が、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)など脱炭素関連事業を手掛けるスタートアップに投資するファンドを新たに設定する。銀行や保険会社などから資金を募り、最終的な運用額は300億円を目指し、国内最大級になる見通しだ。脱炭素技術の重要性が増す中、有望な新興企業を育てる機運が高まってきた。
    ・新ファンドには第一生命保険やみずほ証券、名古屋銀行、中小企業基盤整備機構などから、すでに約160億円の出資が決まっている。
    ・投資領域は(1)再生可能エネルギーや蓄電池など「エネルギー分野」(運用額の50%程度)(2)EVなど「輸送分野」(同25%)(3)住宅設備を通信でつなげるスマートホームなど「社会関連分野」(同25%)――の3つ。創業まもない企業を中心に1社あたり数億円を投じる。投資期間は10年で、一部海外企業も投資対象になる。
    ・投資先が社会に与える効果(インパクト)を国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の17項目に照らし合わせて開示する。たとえば、投資先の再生エネの発電量やEVの販売台数などが想定される。投資実行時に企業のESG(環境・社会・企業統治)面も評価して改善点を示し、将来の新規株式公開(IPO)やM&A(合併・買収)に向け達成状況を確認する
    環境エネルギー投資は2006年に設立した環境やエネルギー分野を専門とする国内唯一のVC。これまで4つのファンドを設定し、合計で約350億円を運用している。
  5. そこが知りたい化石燃料依存からどう脱却?
    次世代エネ転換、段階的に 出光興産社長 木藤俊一氏

    ・脱炭素の潮流を受け、石油元売り企業が化石燃料に依存した事業構造からの転換を急いでいる。出光興産は6月、グループ会社が運営する山口製油所(山口県山陽小野田市)の停止を決め、跡地を水素などを受け入れる次世代エネルギー拠点として活用する構想を描く。ウクライナ危機を発端に世界のエネルギー市場が大きく揺れるなか、足元の戦略と今後の展望を木藤俊一社長に聞いた。

    ――二酸化炭素(CO2)を排出する化石燃料への逆風が強まっています。
    「過去数十年間、石油や石炭、天然ガスなどは便利で効率のいい安価なエネルギーとして様々な産業や人々の生活を支えてきた。ロシアによるウクライナ侵攻以降の価格高騰が経済社会活動に大きな影響を与えていることからも分かるように、化石燃料が急になくなることはないだろう」

    ――化石燃料から次世代エネルギーへの移行はどんな時間軸で進みますか。
    「化石燃料を中心に現在のエネルギー需要を満たしつつ、将来に向けた移行を進めるには時間がかかる。日本は原子力発電所が思うように動かせず、火力発電に頼っているのが現実だ。出光もオーストラリアに石炭鉱山を持つが、新規開発がなければ2030年代後半には掘り尽くす計算で、石炭事業は段階的に縮小させる。石炭に混ぜることでCO2排出量を抑えられる木質ペレットやアンモニアなど、環境負荷の低い燃料に徐々に置き換えていく」

    ――カーボンニュートラルの実現に向けてどのように取り組みますか。
    「当面は化石燃料の燃焼時に発生するCO2を地中に貯留したり、他分野に利活用したりして減らす植物由来のエタノールを使った再生航空燃料(SAF)も生産し、既存燃料からの切り替えを進める。今後は製油所を次世代エネルギーを扱うカーボンニュートラルの基地に転換していく」

    ――水素やアンモニアなどの次世代エネルギー普及には収益性も課題です。
    「どんな燃料でもサプライチェーン(供給網)を一新する必要があり、すぐに商用化するのは難しい。大量生産して幅広く供給するには大きな技術革新やコストダウンが必要だ。当面は公的な支援を受けながら実証を重ねる必要がある」

    ――給油所はどうなるのでしょうか。
    「自社で扱う超小型電気自動車(EV)の貸し出し拠点や、脳ドックなどの医療サービス、料理宅配などを展開し、幅広い分野の地域インフラとして活用する。ガソリン需要が減っても、付加価値を高められる給油所が生き残っていく」

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です