株式投資型クラファンの制度変更
株式投資型CF ネットで少額の資金調達
(日経新聞 2023/10/18 朝刊記事)
▽…スタートアップなどが非上場株式を発行しインターネットを通じて多くの人から少額ずつ資金を調達する仕組み。スタートアップ企業の成長資金を円滑に供給することを目的に2015年の金融商品取引法の改正に伴い創設された。個人投資家が成長の見込める非上場のスタートアップに投資しやすくなった。
▽…スタートアップは株式投資型クラウドファンディング(CF)を取り扱う仲介業者を介して個人投資家から資金を調達する。仲介業者がサービスを始めた2017年から23年8月末までに総額124億円を超える資金調達が行われた。利用企業は「シード」や「アーリーステージ」の企業が多い。
▽…企業にとっては借金を抱える銀行融資と異なり、広く薄く出資を募り資本を増やして資金調達できるメリットがある。金融庁は企業の調達可能額や個人の投資額の上限をそれぞれ引き上げる方針だ。個人、企業双方の選択肢を広げて、個人マネーが企業の成長投資に向かう循環を作る狙いがある。
個人の新興投資、上限拡大 1社100万円超も
金融庁、企業調達額は5倍に
(日経新聞 2023/10/18 朝刊記事)
金融庁は未上場のスタートアップに個人マネーがまわりやすくする。現在1社につき一律50万円までとしている個人の年間投資額の上限を年収などに応じて100万円以上に引き上げる。企業の調達額の上限も5倍にする。個人の運用手段と資金不足がネックになりがちなスタートアップ双方の選択肢を広げ、成長が見込める事業を後押しする。
金融審議会(首相の諮問機関)の作業部会での議論を経て2024年にも金融商品取引法施行令(政令)を改正する。「貯蓄から投資」とスタートアップの育成は岸田文雄政権が掲げる主要政策の一つ。
金融庁は多くの人から少額ずつ資金を集める株式投資型クラウドファンディング(CF)=総合2面きょうのことば=と呼ぶ投資の規制を緩和する。金商法の改正で2015年に創設され、CF仲介業者が17年からサービスを始めた。資金を集めたい企業はFUNDINNO(ファンディーノ)やイークラウドといった仲介事業者を通じて投資家から資金を募る。
個人投資家は投資先が上場したり第三者へ売却されたりすると投資額を上回るリターンが期待できるほか、配当や株主優待を受けられる場合もある。一定の条件を満たす未上場企業に投資した場合に株式譲渡益や所得にかかわる税控除を受けられる。
現在は個人投資家が株式投資型CFで1年間に投資できる上限は年収などにかかわらず一律1社50万円。これを年収や純資産に応じた上限をつくり、同100万円以上の投資ができるような仕組みにすることを検討している。米国では年収や純資産に応じた上限が規定されている。
あわせてスタートアップが株式投資型CFで調達できる総額も年間1億円未満から5億円未満に引き上げる。スタートアップ情報分析のINITIALによると1億円以上の資金調達をするスタートアップは14年の25.7%から約10年間で48.8%(23年上期)とほぼ倍増した。足元では1億~5億円未満の資金調達をする企業の割合が32.9%と最も多い。
米国の500万ドル(約7.5億円)や欧州の500万ユーロ(約7.9億円)など海外に比べ現行の日本の調達上限は低い。米国では22年に約738億円、英国では20年に約1001億円の資金調達があったのと対照的に、日本では17年から23年8月末までで取扱件数606件、調達総額は約124億円にとどまる。
規制緩和で調達可能額を引き上げることで、スタートアップの成長段階を問わず使いやすい仕組みにする。草創期の企業から資金需要が高まる上場間近の企業が資金調達しやすくなれば、結果的に個人投資家の投資先の選択肢も広がる。
企業の情報開示の負担も軽くする。提出が必要な有価証券届出書の記載内容を簡素化するほか、財務諸表は直近5年分でなく同2年分のみ記載すればよくする。
規制緩和は投資家保護とのバランスが重要になる。流動性が高い上場株に比べて非上場株式投資はリスクが高い。多くの一般投資家が少額投資するCFは投資先が破綻した場合に影響が広範囲に及ぶ可能性がある。金融庁幹部も「非上場株式のリスク評価は簡単ではない。投資家保護に留意しながら制度設計する」と話す。