「中堅企業」新設 資本金が1億円超から10億円
賃上げ減税延長へ 中小向け、赤字企業も対象
政府調整 首相「学び直し補助拡充」
(日経新聞 2023/09/03 朝刊記事)
首相は1日、働く人が新しいスキルを学ぶ重要性を考えるシンポジウム「日経リスキリングサミット2023」(日本経済新聞社主催)に出席。企業トップや有識者らとの座談会に臨んだ。
9月中にもとりまとめる経済対策について「賃上げの機運を継続することが経済の好循環を実現する上で重要だ。賃上げや投資を持続させられる対策を用意する」と表明した。2023年度補正予算案に計上する措置や、年末にかけての税制改正論議で取り上げる内容を盛り込むとみられる。
首相は地方の中小企業を中心に投資やリスキリング、非正規社員の正規化を促す策を講じると説明した。大企業と比べてノウハウや経営体力の不足する中小企業の後押しは経済全体の底上げにつながる。
中小企業の賃上げを促す税制には、従業員への給与支給総額を前年度から1.5%以上増やした場合に給与増加額の15%を法人税から差し引く仕組みがある。教育訓練費を前年度から10%以上増やせば10%の控除率を上乗せする。
この措置は23年度末に期限が切れる。経済産業省は賃上げやリスキリングへの取り組みを継続させる狙いから24年度の税制改正要望に延長を盛り込んだ。6年間延ばす案があり、政府・与党内で調整する。
繰越控除も検討する。賃上げを実施した決算期が赤字などによって税額控除の恩恵を受けられない場合、控除しきれない分の繰り越しを認める制度を中堅・中小企業向けに導入する案がある。
中小企業のうち所得金額がゼロまたはマイナスとなった社は21年度で6割程度あった。賃上げ率が1.5%未満の企業を対象に経産省がアンケート調査を実施したところ3割程度が「繰越控除があれば1.5%以上引き上げた」と答えた。
賃上げに積極的な中小企業には設備投資への補助金も手厚くする。税制と補助金の両輪で賃上げが持続する環境を整える。
現在は大企業と中小企業(資本金1億円以下)で条件を分けている。中間規模の企業が税制優遇を適用しやすくなるよう資本金が1億円超から10億円までの「中堅企業」の枠を新たに設ける方向だ。
経産省によると12年度から21年度にかけて中堅企業の従業員数の伸びは大企業を上回った。中堅企業が49万8000人、大企業は49万人だった。雇用を支える役割の大きい中堅企業の賃上げを後押しする。
首相は座談会で個人のリスキリング支援に5年間で1兆円を投じる政府の方針を説明し、中小企業による活用を訴えた。
「働き手の主体的なリスキリングを促すため5年以内をめどに過半が個人経由で給付される改革に着手する」と強調した。賃金や雇用の拡大余地が大きい観光、物流、IT(情報技術)などの分野で補助率や補助の上限を広げる方針も示した。