2070年「将来推計人口」

少子化加速、備え不可欠 2070年どうなる

(日経新聞 2023/04/27 朝刊記事)

国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」は2070年に向けて人口減社会へ突き進む日本の姿を映した。少子化の加速は社会のあらゆる仕組みに影響を与える。推計が期待する通りに外国人が増える保証はない。社会保障を巡る現役世代の負担を是正し、働き手を確保して経済成長を保たなければ、社会機能の維持もままならなくなる。

<日経新聞 2023/04/27 朝刊記事>

政府は60年代に人口1億人を維持する目標を掲げる。達成するには出生率を1.80にまで引き上げる必要がある。前回推計では合計特殊出生率を1.44と仮定したが、6年たった今回は1.36と下方修正した。

足元では21年に1.30と、前回推計で出生率を低く見積もった場合の1.25に近い状況で推移する。これまでの推計人口は実態より甘いことが多く、それに基づく少子化対策も後手に回ってきた。これ以上の政策の緩みは許されない。

0~14歳、1割以下続く

政府は子育て支援拡充などで出生率の維持・向上を目指すが同時に人口減社会への備えも進めることが不可欠といえる。

特に深刻なのは将来の日本を支える0~14歳が人口全体に占める割合の大幅な低下だ。この層は1950年代半ばから70年代前半は2~3割で安定し、高度成長の基盤となった。今回の推計は50年に0~14歳が1割を切り、その後も1割以下で推移するとした。

一方で65歳以上の割合はおよそ4割で高止まりする見通しだ。65歳以上の人数は2020年の3.5人に1人から70年には2.6人に1人になる。

社会の担い手が先細れば、医療や介護など現役世代が高齢者を支える現行の社会保障制度も維持が難しくなる。

20年度時点で国内総生産(GDP)比の医療費の割合は初めて8%を超えた。75歳以上の後期高齢者の医療費などがかさみ、健康保険料率は高まるばかりだ。

年金制度の持続性にも響く。厚生労働省は24年に今回の推計を踏まえ、公的年金が将来どの程度もらえるかを含む「財政検証」を示す。厚労省は高齢化率が前回推計時からほぼ横ばいだったのを踏まえ「推計が年金財政に与える影響は限定的だ」とみる。

外国人が予想通り入ってこなければ、新たな財政検証も甘い推計に基づく試算となりかねない。現役世代の割合が下がれば、現役世代の賃金水準に対する年金額の割合(所得代替率)もさらなる低下が懸念される。

現役世代の負担がこれ以上増えれば、家計不安などから少子化が一層進むおそれもある。高齢者層でも所得に応じて保険料を引き上げるなど、世代間の給付と負担のバランスの是正を検討する余地はありそうだ。

生産年齢人口3000万人減

経済の行く末を占う15~64歳の生産年齢人口の状況も悪化する。今回の推計に基づくと70年に4535万人と、これから50年間で3000万人も減る計算となった。購買力の高い層の減少で内需が低迷すれば成長の阻害要因になる。

経済成長を維持するため、政府は高齢者や女性の労働参加率を高めて社会全体の生産性の向上を狙う。22年までの10年間で65歳以上の高齢者の就業率は5ポイント以上、子育て世代の女性の就業率も10ポイントほど上昇した。

労働参加の裾野は広がっているものの、1人当たりでみた労働生産性の伸びは鈍い。デジタル化やイノベーションの活性化をさらに進めれば生産性の伸びしろも大きくなる。

外国人の受け入れ拡大も選択肢の一つだ。厚労省の試算では医療・福祉分野の人手は40年時点で96万人が不足する。

物流や飲食・小売りといったサービス業ではすでに外国人労働者は貴重な戦力だが、アジア各国でも賃金は上がり、日本の賃金水準の相対的な高さは失われてきている。国際的な人材獲得競争で日本は「選ばれない国」になりつつある。

外国人、9人に1人に

今回の推計では外国人が日本の人口の下支えになる構図が鮮明になった。70年には9人に1人が外国人となる見通しだ。職場や教育現場で外国人とともに過ごす風景が日常的になる。

摩擦を避けるためにも働く外国人の家族も住みやすい社会づくりに向けて外国人政策の拡充が必要となる。移民の受け入れ論議も避けて通れない。

大正大の小峰隆夫客員教授は「外国人を安い労働力と捉えるなら持続性がない。日本人との同一賃金など、労働条件を整えて日本で働きたい外国人を増やす必要がある」と指摘する。

「日本は生産年齢人口の減少分を女性や高齢者の就業者を増やして補ってきたが、これも限界がくる」とも話す。そのうえで「人口減を所与と考え、人口減でも幸せに暮らせる社会を目指すべきだ」と提起する。

世界に先駆けて迎える人口減社会を前に、日本がどのような有効策を示すのかを国際社会は注視している。

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