CVCの現況 アンケート回答

大企業×新興 成果なお途上
「社内協力に課題」5割 本社調査

(日経新聞 2023/04/05 朝刊記事)

大企業がスタートアップとの連携で大きな成果を出すのに苦労している。日本経済新聞社が実施したアンケート調査では、回答企業の5割が「社内の事業部門の協力」を得にくい点を課題に挙げた。ベンチャーキャピタル(VC)がスタートアップ投資で慎重姿勢を強めるなか、積極姿勢を維持する大企業は少なくない。新規事業の創出などにつなげる仕組みづくりが求められる。

調査は2021年に続いて2回目。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設けている主要企業約130社を対象に実施した。1月にアンケートを送り、3月までに68社から回答を得た。

一般的にVCによるスタートアップ投資では「財務リターン」の獲得が最大の目的になるのに対し、CVCは「戦略リターン」を重視する。各社が設定した戦略リターン(複数回答)は「将来の新規事業創出」が82%と最も多く、「出資先の技術・サービスを活用した既存事業の強化」が79%で続いた。

戦略リターンは「ほぼ想定通り」との回答が59%と最も多く、一定の成果は出ているようだ。ただ、想定を「大きく上回る」と「やや上回る」は計1割程度と、前回調査(同3割)から後退した。スタートアップとの連携では37%が「順調に進んでいる」と回答したが、「順調ではない」も9%あった。

連携の進捗が「どちらとも言えない」とした三井不動産は「マイナー出資が基本で、協業を進めるためのM&A(合併・買収)を含めた踏み込みができていない」。投資機会は多いが、事業を大きく変えるようなスタートアップとの協業を果たせていないという。

人材交流工夫も

新規事業の創出を巡っては社内連携に頭を悩ます大企業が多い。51%がCVC運用での課題として「事業部門の協力を得にくい」ことを挙げた。「経営トップの理解を得にくい」や「CVC部門への権限委譲が十分でなく、投資の意思決定に時間がかかる」との回答も2割近くあった。

<日経新聞 2023/04/05 朝刊記事>

こうした状況を打破するための工夫も広がり始めている。TBSホールディングス(HD)のCVC、TBSイノベーション・パートナーズでは3カ月に1回のペースで、スポーツや技術など他の事業部門の人材を受け入れている。

CVCの投資家と一緒に投資先企業の成長戦略を考えるほか、どんな新規事業を生み出せるかといった提案もしてもらう。同社の片岡正光シニアアドバイザーは「協業のイメージを持ってもらう」と狙いを説明する。

学研HDは事業部門の責任者の合意を得たうえで出資するという方針を採っている。スタートアップの資金調達に無理には合わせず、1カ月程度の時間をかけて連携の可能性を検討した上で出資を決める。

スタートアップは事業成長に時間がかかり、短期的な成果を求めにくいケースも多い。このため全体の54%が定量的な目標を「設定していない」と回答した。MS&ADベンチャーズは定量目標を置かず、事業開発段階ではPoC(実現性を確かめる概念実証)の回数を重視している。

市況悪化が影

足元の市況悪化を受けて財務リターンにも陰りが出る。調査では「投資元本を大きく上回る利益が出ている」と「投資元本をやや上回る」を合わせて39%だった。前回調査から11ポイント下がった。

財務リターンが前年と比べ「悪化している」は24%に上った。新規株式公開(IPO)市況の低迷に伴い、投資先企業のバリュエーション(企業価値評価)が下がっている。投資先の業績不振を指摘する回答も目立つ。

VCほどは財務リターンを求めないとはいえ、CVC運営への影響も避けられない。あるCVCでは「足元の景気悪化を受け、より短期的な事業シナジーを意識した投資に切り替えるように経営層からの圧力が強まった」という。

社内外の理解と協力を得て、中長期的な視点で新規事業や相乗効果の創出に取り組めるかどうか。大企業とスタートアップの二人三脚の難しさは増している。

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