持続力 Sustainability があっての ESG

Next Worldフェアネスを問う(3)
「ESG+S」を探して

(日経新聞 2023/03/29 朝刊記事)

株主第一と決別

グリーンハッシング。口の前に指をあて「シー」と沈黙を求める行為になぞらえた造語は、企業が環境アピールを控え始めた風潮を映す。

地球環境に配慮し、脱炭素社会をめざす。欧州から世界に広がる機運に待ったをかけたテキサス。では、ESGへと向かううねりは逆流できるようなものなのか。

「企業は地球に対して、労働者に対して、自国の住民に対して、そして世界の住民に対して責任がある」。米著名投資家のハワード・マークス氏は、自己資本利益率(ROE)ばかりを追いかける株主第一主義との決別を強調する。

マネーの打算

裏側にあるのは自己犠牲の精神というよりむしろ冷徹な打算だ。株主第一主義がもたらした富の偏在は、共産主義革命が吹き荒れた100年前と同水準。労働者への還元ぶりを示す労働分配率は過去最低に沈む。

<日経新聞 2023/03/29 朝刊記事>

利益を社会や環境へ向かわせるESG主義は、もうけすぎにブレーキをかけつつ、世間にくすぶる不満を鎮める。つまり、マネーの持続性を高めることになる。そんな深謀遠慮がESGマネーというフェアネス(公正さ)を膨らませる。

マネーに迷いはある。米スターバックスは2022年春に自社株買い停止を表明し、労働者への分配にかじを切った。社会の視線を意識した発想と行動はESGに傾く投資家と重なり合う。

しかし、株式市場の評価はやはり気にかかる。わずか半年後に「3年間で約200億ドル(約2兆6000億円)を株主に還元する」と自社株買い再開を宣言。従業員と株式市場の双方に目を配る試行錯誤は続く。

ゆがみが目立つ資本主義のフェアネスを増す修正は欠かせない。そして、ESGに反する投資で地元産業が栄えても、地球が壊れてしまっては元も子もないのでは? テキサス州のヘガー会計監査官に問うてみた。

返ってきた答えは「脱炭素ビジネスに反対でない」。反対論者でも、ESGを全否定はできない。「だが、既存産業への理解は必要だ」。行きすぎたESG偏重がもたらす弊害への警鐘だ。

脱ROE主義の象徴であるESG。ただし持続力(サステナビリティー=sustainability)あってこそ。地域や働き手といった幅広い関係者に目を配る「ESG+S」へ。求められる次なる進化だ。

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