エネルギーキャリア 水素を運べ

ECとしてのアンモニア。産学官連携の仕事として、その合成触媒を研究されている大学の先生を支援し社会実装に向けた活動をしています。
水素キャリアとしては様々な方法が検討されており、その特徴が記事になっていました。

ENEOS、水素の常温輸送 実用化へ
25年度にも大型装置 排出ゼロへ低コストに

(日経新聞 2023/01/31 朝刊記事)

ENEOSホールディングス(HD)が水素を石油タンカーで常温輸送するための技術を2025年度にも実用化する。トルエンに水素を結合させた液体を製造する実証設備を2月に稼働。商用生産に向け、25年度にも装置を大型化する。川崎重工業は超低温で水素を輸送する大型運搬船の開発を進める。次世代エネルギーの本命とされる水素を巡り各社が安価で安全な輸送技術の確立を急ぐ。

ENEOSHD傘下のENEOSは30日、水素とトルエンを結合させたメチルシクロヘキサン(MCH)を製造する実証プラントをオーストラリア東部ブリスベンで2月に稼働させると発表した。MCHの製造技術ではENEOSが世界で先行する。今回稼働する電解装置の能力は150キロワットとこれまで実験で使っていた装置の150倍の規模に相当するという。

従来、MCHを製造するにはタンクに貯蔵した水素を合成装置でトルエンと結合させる必要があった。ENEOSが新たに開発した電解装置では水とトルエンをそれぞれ電気分解し、水素を経ることなくMCHを製造できる。水素タンクや合成装置が不要で大幅にコストを削減できるとみる。

また電気分解に太陽光発電由来の電気を使うことでMCHの製造過程では二酸化炭素(CO2)が発生せず、グリーン水素の供給が可能となる。

ENEOSは今後、8カ月間の実証実験で電解装置の運転や制御技術を確認する。25年度をメドに5000キロワット級の大型電解装置を開発し、大量生産に乗り出す。生産量などは今後詰める。

MCHは既存の石油タンカーで輸送でき、輸送コストも安価に抑えられるという。ENEOSは新手法を活用し、日本での販売価格を30年には水素1キログラムで330円程度と、21年時点での政府の試算に比べて3割以下に引き下げることを目指す。

水素を常温で輸送する技術はMCH以外にも複数の候補がある。最も実用化に近いとされるのがアンモニアとして輸送して、消費地で水素を製造する方式だ。アンモニアは既に肥料として使われているため、サプライチェーン(供給網)が確立しており、輸送コストも安価に抑えられるとみる。だが毒性の高いアンモニアは取り扱いが難しく、ENEOSはMCHで輸送する手法の方が普及が早いとみて、技術確立を急ぐ。

一方、液化した水素を運搬する技術の開発も進む。川崎重工は22年に世界ではじめて液化水素の海上輸送に成功。20年代半ばをメドに、大量輸送によりコストを大幅に圧縮できる巨大運搬船の実用化を目指す。

水素を液体の状態に保つにはタンク内をマイナス253度以下の超低温に維持しなければならず、運搬船にも大規模な設備が必要だ。だが、常温輸送と違って消費地でMCHやアンモニアなどから水素を取り出す必要はない。川崎重工もENEOS同様、30年ごろには水素の国内販売価格を1キロ330円程度に引き下げることを目指す。

海外でも水素の輸送技術確立に向け、各社がしのぎを削る。特にロシア依存からの脱却に向けて水素を基幹エネルギーとして位置づける欧州では水素の常温輸送に向けた動きが加速している。

独ハイドロジーニアスLOHCテクノロジーズとオランダの石油化学品貯蔵タンク運営大手ボパックは4日、水素の常温輸送のための合弁企業を設立すると発表した。両社はドイツ西部のドルマーゲンやオランダのロッテルダムで大規模なプラントの建設を計画しており、海外から輸入した水素を取り出して工業や発電に活用する。

三菱商事やJERAも出資しているハイドロジーニアスは、ベンジルトルエンに水素を結合させ、液体有機水素キャリア(LOHC)と呼ばれるMCHに似た液体を製造する技術に強みを持つ。同社のダニエル・タイヒマン最高経営責任者(CEO)はドイツでの水素の調達コストを1キログラムあたり3ドル(約390円)と、現在の半額程度に抑えるメドがついたと明らかにしている。

水素の輸送を巡って様々な手法が実用化を競っているが、現段階では本命不在の状況だ。当面は用途や地域によってすみ分けが進む可能性が高い。脱炭素社会の実現に向け、水素は発電や製鉄、自動車の燃料など幅広い分野で利用が計画されている。

水素を自給できる米国や、パイプラインも使える欧州と異なり、船舶を使った供給に頼らざるを得ない日本にとって、運搬技術の確立が産業競争力の維持に欠かせない。

水素消費、アジアが最大に 日中韓印で50年需要の4割
豪州は輸出の要へ着々

(日経新聞 2023/01/31 朝刊記事)

アジアは世界で最大の水素消費地域になることが確実視されている。世界の水素関連企業でつくる「水素協議会」と米マッキンゼー・アンド・カンパニーがまとめたリポートによると、2050年の世界の水素・派生品の需要は6億6千万トン。中国、日本、韓国、インドの4カ国だけでも全体の4割以上を占める。

日本や韓国は需要の大半を輸入でまかなうことになる見通しだ。生産国と連携しての運搬方法の確立や、供給網整備が課題となる。

水素生産・輸出の要として台頭しようとしているのがオーストラリア。石炭や天然ガスといった化石燃料の一大輸出国ながら脱炭素への移行をにらみ、19年に「国家水素戦略」を策定。30年までに主要輸出国になることを目指している。

クイーンズランド州やタスマニア州などで水素の生産・輸出拠点をつくる計画が複数あり、豪政府の投資額は5億2500万豪ドル(約480億円)に上る。鉄鉱石大手のフォーテスキュー・メタルズ・グループや石油・ガス大手のウッドサイド・エナジー・グループも豪国内で水素生産の計画を進めている。

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