今日の日経新聞ピックアップ(2022/12/16)

  1. ゼロゼロ融資 残ったツケ(下) 企業再生の動き乏しく
    金融機関、損失計上に及び腰 過剰債務問題、将来に禍根

    ・「針の穴に糸を通すようなディールだった」。今秋、ある地方の中堅印刷会社が大手企業の傘下に入った。この印刷会社は新型コロナウイルス禍で受注が大きく落ち込み、年明けにも50億円超の負債を抱えて破産に追い込まれる恐れがあった。金融機関をはじめ関係各所がギリギリの調整を進めた末、スポンサーの下での再生計画で合意した。
    画期的だったのは、4月に運用が始まったばかりの「中小企業版事業再生ガイドライン」を活用し、裁判所や公的機関の直接介入なしで計画をまとめたことだ。手続きが非公開のため信用が傷つくリスクは低い。簡便なためスピーディーに進めることができる。
    ・計画策定に携わった森・浜田松本法律事務所の石田渉弁護士は「時間勝負の中小企業再生で、ガイドラインが活用される場面は増えるだろう」と話す。
    コロナ禍から約3年がたち、再生目的のM&A(合併・買収)が目立ち始めた。調剤薬局「さくら薬局」を運営するクラフト(東京・千代田)は10月、投資ファンドの日本産業推進機構(東京・港)から経営支援を受けると発表。クラフトは過剰債務を抱え、今春に私的整理の一種である事業再生ADR(裁判以外の紛争解決)を申請していた。
    ・11月には同じくADRを申請していた後発薬大手の日医工が、事業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(東京・千代田)などをスポンサーとする再生計画を公表した。
    ・再生型M&Aが増えているのは、新型コロナの影響が和らぎ、将来の事業計画を立てやすくなったためだ。低金利下のカネ余りで、ファンドをはじめ買い手側の資金余力が高まっていることも大きい。
    コロナ後の事業再生に必要な仕組みはそろいつつある。政府は私的整理における債権者の全員同意の前提を変更し、多数決で決められるよう法整備を進める。再生時の足かせとなりやすい、経営者個人が会社の連帯保証人となる慣習も、金融機関側に見直すよう促している。
    ・ただ、実質無利子・無担保の「ゼロゼロ融資」により推定約16万5000社まで膨れ上がったゾンビ企業に対し、再生の動きはごくわずかだ。投資ファンドのニューホライズンキャピタル(東京・港)の安東泰志会長は「2009年に中小企業金融円滑化法(通称、返済猶予法)が施行されて以降、金融機関は貸し付け条件の変更や資産査定で柔軟な対応ができるようになったため、損失を計上してまで不良債権処理に動くインセンティブが働きにくい」ことが理由だと指摘する。
    過剰債務を抱えた企業は設備投資や人員増強をしようとしても、追加の資金調達が難しい。身動きが取れないまま時間がたてば事業価値は下がり、スポンサーも見つかりにくくなる。金融機関が問題を先送りするほど、取引先企業にとってより厳しい結末となる恐れがある
    ・日銀によると、金融機関を除く民間企業の借入残高は6月末時点で約470兆円。不良債権問題が深刻化していた1999年以来の高水準だ。小泉純一郎政権は2002年に金融再生プログラム(通称、竹中プラン)を発表し、主要銀行に巨額の不良債権処理を迫った。身動きがとれなくなる前に過剰債務問題に立ち向かわなければ、日本経済は「失われた20年」を再び送ることになりかねない。
  2. 街の電力需給、EVで調整
    米ヌービーが10州で送電網に接続 提供者に報酬、空車活用

    ・家庭や事業者の電気自動車(EV)を使い、町の電力需給を調節する取り組みが米国などで進む。米スタートアップのヌービー(カリフォルニア州)は10州で電動バスなどを使う事業を手掛ける。電力事業者がEV所有者に報酬を払い、逼迫時などにEVの電池から送電網に流す。再生可能エネルギーの拡大に伴う需給調整の課題に対応できると期待を集める。
    ・10月、米カリフォルニア州サンディエゴ郡で公立学校を運営するラモナ統合学区は、8台の電動スクールバスと双方向に電気をやりとりできる充電装置を導入した。EVと送電網をつなぐビジネスを手掛けるヌービー社と、電動バスを手掛ける企業との共同プロジェクトだ。

    ・電力需給が逼迫した場合や緊急時にバスの蓄電池に蓄えた電気を送電網に戻す。電力事業者がバスの所有者に1キロワット時あたり2ドルの報酬を渡す。所有者は電気料金が安い時間帯に充電した電気を活用できるわけだ。
    ・EVの電池の残量を把握する仕組みになっており、送迎などでEV所有者が必要とする電池残量は確保できる。電池残量や充放電はスマートフォンのアプリやパソコンから管理可能だ。

    ・ヌービー社によると、電動バス1台で年間最大7200ドルのコスト削減につながる可能性があるという。テッド・スミス社長は「温暖化ガスの削減に貢献し、さらに地域の電力供給を安定化できる」と強調する。
    EVから送電網に電気を戻せる仕組みは「V(Vehicle=自動車)toG(Grid=送電網)」や「V2(ツー)G」と呼ばれる。一般的なEVの充電施設は、電力をEVに送るだけで、EVから電力を取り出すことはできない。
    ・EVの普及で、搭載する蓄電池にためられる電力は無視できない規模になってきた。米カリフォルニア州では新車販売に占めるEVとプラグインハイブリッド車(PHV)の割合は約2割にもなる。同州は2035年にガソリン車の新車販売を禁止する。
    ・シンクタンクの米天然資源保護協会(NRDC)の試算では35年には同州を走るEVなどは1400万台に達し、理論上は全家庭の3日分の電気をためられるようになるという。同州も「VtoGはゲームチェンジャーだ」(ニューサム州知事)として普及を後押ししている。
    ・需給調整では定置型の蓄電池も重要だが、設置場所や導入コストの回収が課題となっている。普及するEVを有効活用し、低コストでの需給調整を実現する方法が模索されている。
    ・ヌービー社は、米デラウェア大学が開発したEVから送電網に電気を送る制御技術をもとに10年に創業した。17年には豊田通商が出資した。
    ・これまでに米国10州や英国などで実証プロジェクトを進めてきた。最近、力を入れるのが電動スクールバスを使う事業だ。スクールバスは利用する送迎時間などが決まっていて管理しやすいだけでなく、電池容量が一般的なEVよりも大きい利点がある。
    ・22年夏にはカリフォルニア州を襲った熱波で電力需給が逼迫した際に、別の学区のバスから約300世帯分の電力を供給したという。「近い将来、ごみ収集車や配送車両、郵便車、港や空港の車両などにもサービスを拡大していく」(スミス社長)
    ・米スタートアップ、フェルマータ・エナジー(バージニア州)は乗用車のEVを使うサービスを展開する。9月、再エネ事業を手掛けるファーストライトパワーのマサチューセッツ州にある水力発電所に、2台のEVと専用の充電器を設置した。電力需要が急増した際には、必要な電力を送電網に供給する。
    ・8月には、EVインフラを手掛けるレベル(ニューヨーク州)などとニューヨーク市でVtoGの実証プロジェクトを始めた。電力需要が多い午後2~6時にEVの電力を送電網に送り返す。
    ・フェルマータ社はEVから建物に電力を送るVtoB(Building)の事業で実績を積んできた。電気代が高い時間帯にEVから建物に電気を送って電気代を節約する。コロラド州の自治体などでの2つのプロジェクトでは、1台の乗用車で毎月約300ドルを節約できたという。
    ・デイビッド・スラツキー最高経営責任者(CEO)は「双方向の充電システムでEVの蓄電池の価値が高まる。EV所有者が送電網に貢献しながら利益を上げられる」とみる。これまでは自治体や企業向けだったが、23年には一般家庭向けの事業を開始する予定だ。

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