今日の日経新聞ピックアップ(2022/12/15)
- ゼロゼロ融資 残ったツケ(中) 規律まひ、「ゾンビ企業」生む
国際基準で16万社、国内の11% 必要ない資金貸し付けも
・「いわゆる『三つの防衛線』が有効に機能することが重要」。今から3カ月前の9月30日、監督局長名で出した1通の通達文には、行政文書では異例の表現が書き込まれていた。「現場のリスク管理」「管理部門のけん制」「内部監査部門の検証」がいとも簡単に破られてしまう不祥事案が発生したからだ。
・監督局長が通達を出した9月30日、東海財務局は名古屋市に本店を置く中日信用金庫に業務改善命令を出した。実質無利子・無担保融資(通称、ゼロゼロ融資)を受けやすくするため、取引先企業の業績を改ざんしていた。中日信金の調査によると、ゼロゼロ融資の取扱件数約3700件のうち79件で見つかった。
・約2%は氷山の一角なのかどうか――。今回の通知は3メガから地方銀行、信金、信用組合まで全業態に対し、管理状況を改めて確認するとともに、必要な体制を構築するよう求める措置だ。
・「ほかにないと信じている。が……」と金融庁幹部は嘆息する。深刻なのは貸すことに対する感覚が軽くなっているモラルハザードだ。
・帝国データバンクの最新データ(2020年度)によると、日本には約16.5万社の「ゾンビ企業」がある。経営実態があることが確認できている約146.6万社に占める割合は11.3%に上る。従業員20人以下の小規模企業では約7割だ。非公開企業の5%しかない米国と比べ、日本はゾンビ企業大国に映る。
・ゾンビ企業は再生可能性の乏しい中小企業を指す造語と思われがちだが、63カ国・地域の中央銀行が加盟する国際決済銀行(BIS)が貸出先のリスクを算定する定義がある。「3年以上にわたってインタレスト・カバレッジ・レシオ(ICR)1未満、かつ設立10年以上」だ。営業利益で貸出利息を支払えるか測る指標で、1を下回る企業はゾンビ企業とされる。生産性の低い企業を指している。
・一方、東京商工リサーチの21年度のゾンビ企業比率は0.43%。日銭(営業キャッシュフロー)が入り、資産が超過していれば対象外とする日本固有の定義を採用すると、その数は20分の1以下に減ってしまう。返済可能性を重視した指標だ。
・このギャップは日本と世界の常識の違いを浮き彫りにしている。米連邦準備理事会(FRB)の2021年7月の調査によると、米国は平均5年未満、最長8年で事業継続を断念している。「銀行が有利な条件で信用を提供していない」ため、行き詰まった企業は破産を選ぶ傾向にある。
・日本は米リーマン・ショック後の09年に中小企業金融円滑化法(通称、返済猶予法)を施行。不良債権と認定する基準だった「返済先送り」を不問にした。これが倒産封じに効果を発揮する。13年に法律は失効したが、事実上延長し続けていたところに新型コロナウイルス禍が襲い、政府はゼロゼロ融資を出した。「(BIS基準の)ゾンビ企業の約8割が借りている」(帝国データバンク)
・「貸さぬも親切」という哲学を見失った金融機関。ある信金の理事長が証言する。「必要のない資金までゼロゼロ融資で借りさせていたと聞いた」。ノーリスク融資の弊害は出ており「借りた金は返す」という企業側の規律までむしばみかねない。帝国データバンク東京西支店の松尾忠支店長は「計画的と疑うような倒産も起きてきた」という。