今日の日経新聞ピックアップ(2022/12/11)
- ESGの効果を財務数値に 企業、投資家向け可視化
日立、「稼ぐ力」1ポイント上げ/SOMPO、営業目標達成2割上昇
・ESG(環境・社会・企業統治)の取り組みが財務や株価に与える効果を数値で投資家に示す企業が増えてきた。日立製作所は投下資本利益率(ROIC)を約1ポイント押し上げたと分析し、SOMPOホールディングス(HD)は社員の働きがい向上で、目標を達成する営業店の割合が約2割高まるとした。ESG投資の普及から5年前後が経過し、明確な効果を問う投資家が増えている。
・日立は京都大学と、ESGの取り組みが、企業の稼ぐ力を示すROICをどう高めるのかを推計した。同業他社のデータをもとに、ESGの取り組みをしなかった場合の「仮想の日立」のデータをつくり比較した。
・その結果、日立による温暖化ガスの排出量、産業廃棄物や水の使用量の削減といった取り組みは、2017~20年度までの4年平均のROIC(QUICK・ファクトセットによると7.1%)を約1ポイント押し上げる効果があったという。
・ROIC上昇には、エネルギー管理システムを使ったコスト削減や、二酸化炭素(CO2)削減を取引先に求める企業などとの取引拡大が寄与していると想定される。今後はESGの取り組みと財務項目ごとの因果関係を分析する。京大の砂川伸幸教授は「企業の経営判断を支える分析モデルを作りたい」と話す。
・SOMPOは会社の経営方針や職場への満足度を示す「従業員エンゲージメント」などを活用し、働きがいと財務価値のつながりを示す取り組みを進める。
・まず約550店の損保の営業店で「家族・知人に当社への入社を勧めるか」という問いを基にスコアを算出した。スコアが高かった上位25%の営業店は、スコアの低い下位25%に比べ、予算目標を達成した割合が約2割高かったという。将来はスコアが1%改善した場合、売り上げがどのくらい増えるかを数値で示すことなどを目指す。
・ESGの取り組みは企業の持続的な成長を支えるとみなされている。企業統治に問題があれば不祥事が起きやすい。社会に支持されなければ不買の対象になり、長い目でみると売上高や利益を左右する。「非財務情報」として重視され、投資家にわかりやすいよう数値で示す工夫が情報開示の新たな世界の潮流となっている。
・エーザイの元最高財務責任者(CFO)の柳良平氏は、ESGの改善は将来の企業価値に反映されると仮定して、CO2排出量や女性管理職比率などの指標と株式市場での企業評価を示すPBR(株価純資産倍率)との関係を分析した。
・日清食品ホールディングスは柳氏の分析手法を活用し、約270のESG指標がそれぞれ何年後のPBRと連動するかを調べたところ、多くの項目が企業価値と関係することがわかった。例えば、CO2排出量が1%減少すると8年後のPBRが1%上昇するという関係があったという。
・JR東日本も同様の分析をし、従業員1人当たりの年間平均研修時間を1%増やすと、その年のPBRが0.54%向上すると示した。
・ESGと財務指標をひも付ける取り組みは海外企業が先行した。独ソフトウエア大手SAPは14~18年にかけて従業員のエンゲージメント指数やCO2排出量など4つの指標が財務に与える影響を分析した。18年時点では従業員のエンゲージメント指数が1ポイント改善すると、営業利益を5000万~6000万ユーロ押し上げるとした。
・仏食品大手ダノンは20年にCO2排出をコストとみなした場合の利益を公表した。CO2排出1トンあたりの費用を35ユーロと仮定し、実際の利益からコストとして差し引いたところ、排出を考慮した利益は実際の半分程度だった。一般的な企業会計の利益とは異なるが、排出削減を進めてこの利益を増やし、投資家にアピールする。
・企業価値のうち財務諸表の数字だけでは説明できない部分が増えた。米オーシャン・トモによると、米主要企業では時価総額の90%が無形資産なのに対し、日本企業は32%で、非財務情報に基づく評価の割合が日本は低い。ESGが業績とどう結びつくかを説明することが求められている。
・企業ごとに重要なESGの取り組みは異なる。投資家からは「漠然としたESG情報ではなく、企業の収益に影響のある情報の開示がほしい」との要請が高まっている。 - グーグルとメタ、海底ケーブル新設5割に出資
世界の通信インフラでも存在感
・国際通信を担う海底ケーブルで、2025年までの3年間に新設されるものの5割に米国のグーグルとメタが出資することが分かった。海底ケーブルはインターネットの根幹インフラで、世界のデータ通信の99%が通る。巨大IT企業はクラウドサービスなどでも世界シェアが大きく、公共的なインフラへの存在感が高まる。
・米調査会社テレジオグラフィーなどのデータを基に、国際通信に多く使われる1000キロメートル以上のケーブルの出資元を日本経済新聞が集計した。
・23~25年に世界で新設されるケーブルは31万4000キロメートル。そのうち45%分の運営会社にグーグルとメタが出資している。14~16年は20%だった。メタは約11万キロメートル(両社の共同出資分含む)、グーグルは約6万キロメートル分に出資する。グーグルは5000キロ以上の長距離で、単独出資5本を含む最多の14本を抱える。
・多数の光ファイバーを束ねる海底ケーブルは、世界のデータ通信の「大動脈」といえる。敷設には1本数百億円かかり、経由国の通信会社が共同出資するケースが多い。
・両社は完成済みを含めて01~25年に整備されるケーブル(125万キロメートル)の23%を押さえることになる。25年までの15年間の敷設距離でも、メタとグーグルが首位と2位。英ボーダフォンや仏オレンジなど、海底ケーブルの整備を担ってきた世界の通信大手を上回る。
・ネット企業はインフラへの存在感を高めている。ネット経由でサーバーを提供するクラウドサービスはアマゾン・ドット・コムやマイクロソフト、グーグルの米テック大手で7割近い世界シェアを持つ。日本の行政機関も米企業のクラウドを利用するなど、公共的な役割が高まっている。
・世界でネットサービスを提供するグーグルとメタは、ケーブルの最大の利用者でもある。他社のケーブルを借りるより、動画など大量のデータを高速かつ安定的に送受信しやすい。通信会社に支払う利用料も減らせる。
・カナダの通信分析会社のサンドバインによると、21年1~6月の世界のデータ通信量の54%を動画が占めた。うちグーグルの動画共有サイト「ユーチューブ」が15%、メタのSNS(交流サイト)「フェイスブック」は7%だった。
・メタバース(仮想空間)の普及などで、通信量は膨らむ見通し。資金力のあるグーグルやメタがケーブル網拡大を担うことで、通信環境の改善や高速化、通信コスト低減などが期待できる。
・ただ、スマホのソフトやアプリの配信、SNS(交流サイト)などで高いシェアを持つ巨大テック企業に対しては、企業間の競争促進や消費者保護の観点から、世界で規制が強まる。
・海底ケーブルは公共財としての性格が強く、敷設や保有は各国当局の規制を受けた通信会社が担ってきた。テック企業が自社サービスの通信状態や料金を優遇するようなことがあれば、競争環境がゆがみかねない。
・グーグルは「世界の通信が迅速・安全になる。ケーブル会社間でデータ容量を共有し、特定企業だけが利益を得ることはない」とコメントした。メタも「ネットインフラは人々をつなぐのに不可欠。利用者に良い体験を提供し、コストパフォーマンスの高い環境を普及させる」としている。