今日の日経新聞ピックアップ(2022/12/7)
- (社説)スタートアップ育成目標を画餅にするな
・岸田文雄内閣が「新しい資本主義」の成長戦略の柱として、「スタートアップ育成5カ年計画」を決定した。新興企業への年間投資額を2027年度までに現状の10倍超の10兆円前後に増やすとする数値目標を明記した。目標が画餅に帰さないよう官民挙げて尽力してほしい。
・企業価値が10億ドル(約1400億円)以上の「ユニコーン」と呼ばれる有力新興企業は米国で600社を超えるのに対し日本では4社と、経済規模の割に極端に少ない。計画ではユニコーンを100社に増やす長期目標も示した。期限は設けなかったが、必達の数値目標と位置づけるべきだ。
・多くの新企業が生まれ育つ循環を起こすには、数多くある構造的な阻害要因を一つ一つでなく、一気にまとめて解消する必要がある。計画に80を超える施策を盛り込んだのは正しいアプローチだ。容易ではないが、政府は進捗管理を徹底し、着実かつ迅速に各施策を実行に移してほしい。
・計画はスタートアップに参画する人材の育成、資金供給の強化、政府や大企業とスタートアップとの連携強化を3本柱に据えた。効果が期待できる施策も含まれる半面、全体として力強さに欠ける印象も拭えない。
・起業に参画する人材を増やすには、個人のキャリア選択としてリスクの軽減とリターンの拡大を同時に進める必要がある。計画では、銀行融資に経営者個人の保証を求める慣行を廃して創業リスクを軽減し、ストックオプション(株式購入権)報酬制度の改善でリターンを強化するとした。
・しかし、それだけでは不十分だ。米国には新興企業の創業者、従業員、エンジェル投資家などの個人株主がその企業の株を売却して得た利益を年間1000万ドル(約14億円)まで非課税にする制度がある。自民党はその日本版の導入を提言したが計画への採用は見送られた。導入を検討すべきだ。
・スタートアップ投資を担うベンチャーキャピタル(VC)の資金拡充策も足りない。日本のVCの資金源は事業会社や金融機関がほとんどで、5年以上の長期運用になるVC資金として最適とはいえない。米国のように年金や財団などの「忍耐強い資金」をVCに流入させる具体策が必要だろう。
・5カ年計画は完成形とはいえない。岸田内閣はスタートアップ政策の拡充を続けるべきだ。