今日の日経新聞ピックアップ(2022/12/3)

  1. 三井住友が企業再生投資
    2000億円、事業承継後押し 規制緩和で過半出資も

    三井住友フィナンシャルグループは、経営再建や事業承継を目指す企業への出資を加速させる。傘下の投資会社を通じ、今後数年以内に2000億円程度を投資する。銀行法改正による出資規制緩和で、過半出資して企業価値を高めたのちに売却する手法を使えるようになった。過半出資による企業再生は投資ファンドが先行してきた。メガバンクが初めて参入することで、産業の新陳代謝を促す可能性がある。
    ・三井住友銀行が2020年に設立した子会社のSMBCキャピタル・パートナーズを通じ、事業の再生や承継が必要な企業に出資する。同社はこれまで過半に満たない少額出資(マイノリティー出資)による企業支援を手掛けてきた。メガバンクで初めて、議決権の過半数を握る出資(マジョリティー出資)による再生・承継手法を導入し、出資先企業の再生を主導していく。
    ・少額出資での再生・承継は25年までに1000億円、過半出資は27年までに1000億円の投資残高を目指す。過半出資案件は1件あたり30億~200億円の出資を想定している。過半出資の1号案件として11月、鶏卵大手のイセ食品(東京・千代田)とスポンサー契約を結んだ。
    ・銀行は従来、事業会社への出資が原則5%までに制限されていた。ただ、事業の再生や承継を進めていくには銀行の潤沢な資本が不可欠との判断から、段階的にルールが緩和されてきた。19年や21年の法改正では事業再生目的で100%出資する際の要件が緩められ、事業承継目的での子会社化も認められた。
    ・三井住友は過半出資した企業に人材を送り込み、経営改善を通じて企業価値を高める。現行規制で株式保有が認められる10年以内に新たな出資者に株式を譲渡し、キャピタルゲイン(売却益)を得る。新規株式公開(IPO)も選択肢に入れる。5~10年後には純利益ベースで150億円規模の収益を目指す。
    ・企業の株式の過半を取得し、価値を高める手法は投資ファンドなどが手掛けてきた。三井住友の参入の背景には、デジタル化や気候変動対応による企業の経営環境の変化や経営者の高齢化で、市場の急拡大が見込まれることがある。
    ・M&A(合併・買収)助言のレコフによると、21年の事業承継M&Aは約640件で、10年前に比べて4.6倍となった。帝国データバンクが22年11月に発表した調査によると、後継者不在の企業の割合は57%で、事業承継M&Aに対する企業側の需要は大きい。
    新型コロナウイルス禍で始まった実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済が本格化するにつれ、中小企業の再生に向けたM&Aの需要も高まる可能性もある。
    ・地銀などでも傘下の投資ファンドを通じて企業に過半出資する手法が広がっている。東洋大学の野崎浩成教授は「銀行の情報収集能力を生かしてデットとエクイティの両面で企業の再生を支援する流れは銀行にとっても社会にとっても利益が大きい」と話す。ただ、銀行にとって事業会社の経営は未知の領域だ。三井住友は専門人材を増やしているが、企業価値の向上を担いきれるのか、不透明な面も残されている。
  2. きょうのことば事業承継 M&A型が増加
    ▽…企業のトップが経営を次の世代にバトンタッチすること。中小・零細企業のオーナーや自営業者が後継者を見つけて事業を託すことを指す場合が多い。中小・零細では子どもをはじめとした親族に経営を譲る場合が多かった。ただ、近年はM&A(合併・買収)を受けて外部の企業やオーナーに託すことも増えている。
    ▽…日本政策金融公庫総合研究所が全国の中小企業を対象として2019年に実施したアンケートによれば、本人の承諾を得て後継者が決まっている企業は1割強にすぎない。半分強が「廃業予定」としていた。廃業予定企業のうち3割弱が「子どもに継ぐ意思がない」「適当な後継者が見つからない」など後継者難を理由に挙げた。
    ▽…技術やブランドを持った企業が持続的に発展していくための手段として、M&Aによる第三者への承継が増加している。事業承継目的で過去最大級のM&Aは22年11月に発表されたオリックスによる健康食品大手ディーエイチシー(DHC、東京・港)の買収だ。買収総額は3000億円規模とみられる。事業承継M&Aは中小企業だけが対象ではなくなりつつある。
  3. 国際競争力低下に危機感
    10兆円ファンド、157大学の3割検討 資金力が研究成果を左右

    政府が創設した10兆円の「大学ファンド」の運用益が配分される「国際卓越研究大学」について、少なくとも44大学が申請を検討していることが日本経済新聞の調査で明らかになった。回答した157大学の約3割を占めた。最終的な認定は数校という狭き門を多くの大学がめざす背景には、国際競争力低下への危機感がある。海外大との資金力の差が研究成果に表れており、巨額支援でてこ入れを図りたい考えだ。
    ・大学ファンドが支援する国際卓越研究大学は2023年秋ごろから順次認定され、段階的に増えても数校にとどまる。これに対し、国公私立大44大学が申請を検討。国立大関係者は「予想より多くの大学が前向きで、厳しい競争になる」とみる。
    文部科学省の選考基準は、他の論文への引用数が上位10%に入る論文が5年間で(1)1000本程度以上かつ総論文数の1割程度以上(2)研究者1人あたり0.6本程度以上――のいずれかを求めた。トップレベルの研究大学に加え、中小規模の大学にも門戸を開いた。
    ・選考基準は11月15日に公表され、各大学は23年3月末までの公募に向け研究体制強化の計画を練る。文科省幹部は「研究実績だけでは選考しない。世界トップレベルの研究力に到達するためのビジョンと財務戦略の具体性を重視する」と強調する。
    ・国内大学が認定に向け動く背景には海外との資金力の差がある。海外有力大は独自基金の運用益を重要な研究分野の投資につなげている。米ハーバード大は4.5兆円規模の基金を持ち、収入の39%にあたる20億ドル(約2700億円)を運用益が占める。
    ・日本の大学は外部資金の獲得力が弱く、自由に使える予算が少ない。20年度の独自基金の規模は慶応大870億円、早稲田大300億円、東京大190億円にとどまる。ファンドの助成金は大学独自基金の増強に向け、一部を使わず積み立てられる仕組みもある。
    ・大学の資金力は研究成果を左右する。文科省によると理工系を中心とした16~20年の引用数上位の論文は東大5920本、京都大3977本、慶応大1276本に対し、ハーバード大3万495本、米スタンフォード大1万4210本、英オックスフォード大1万3813本だった。
    ・国全体でみても研究力の低下は顕著だ。文科省科学技術・学術政策研究所によると、引用上位10%に入る論文数は1998~2000年は米国、英国、ドイツに次ぐ4位だったが、18~20年は中国やインド、韓国にも抜かれ12位に下落した。
    政府は「骨太の方針」で「イノベーション創出の拠点である大学の抜本強化を図る」と強調、世界最高水準の研究環境整備を成長戦略の要と位置づけている。スタートアップ企業の輩出や高度人材の育成など、認定校にかかる期待は大きい。
  4. 認定校は最長25年支援
    大学ファンドは国内トップクラスの大学を支援するため科学技術振興機構(JST)に設けられたファンドで、財政投融資が主な財源だ。運用は外部の専門機関に委託し、国が「国際卓越研究大学」と認定した数大学へ運用益を配分する。日本の研究力を高め、成長分野での技術革新を強化する狙いで2020年12月の追加経済対策に盛り込まれた。
    ・支援対象校に認定されるためには有力論文数などについての基準を満たし、国の審査を通過する必要がある。対象校は大学の支出額ベースで年平均3%の事業成長を求められ、実行できる研究体制の強化計画、大学のガバナンス(統治)改革の具体案も審査のポイントとなる。
    ・支援期間は最長25年間。助成金は翌年度への繰り越しが可能で、強化計画の進捗状況は文部科学省に毎年報告する。6~10年ごとに支援継続の可否が評価され、巨額の助成に見合った成果が得られていないと判断されれば支援が打ち切られる。

    ※ファンドは5兆円規模で運用が始まっており、22年4~9月の運用収益率はマイナス3.67%だった。支援策はファンドが安定的に運用益を出すことが前提だが、先行きには不透明感がある。助成の成果が出ているか、大学の活用状況のチェックも重要だ。
  5. JERA、三重で太陽光発電稼働  国内では初
    ・東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAは、三重県で同社として国内初の太陽光発電を稼働させた。最大出力は50キロワット。今後4年間で国内に計100万キロワット以上を開発する計画があり、今回は第1号となる。
    ・JERAは海外で太陽光発電の実績があるが、国内ではなかった。出資する太陽光発電開発のウエストホールディングス(HD)と、火力発電所の跡地も活用して計7000カ所を開発する。投資額は1600億円を見込む。
    JERAは火力発電量で国内首位で、再生可能エネルギーを25年までに国内外で計500万キロワット開発する目標を掲げている。
    ・太陽光発電は夜間や悪天候の時に発電量が落ちる。JERAは出力が安定した火力発電の電力と組み合わせて運用する。電力は他社に売る。スタートアップのbajji(バッジ、東京・台東)と協力して太陽光発電の稼働状況や二酸化炭素(CO2)削減量のデータをまとめ、非代替性トークン(NFT)として売り出す実証も検討している。
  6. 水素生成装置を事業化 パナソニックHD楠見社長
    「省エネ技術で競争力発揮」

    パナソニックホールディングス(HD)の楠見雄規社長は、日本経済新聞社のインタビューで水素生成装置の事業化を明らかにした。燃料電池開発で培った技術ノウハウなどを活用するという。2050年の二酸化炭素(CO2)削減の目標達成に向けては、製品供給を通じ顧客のCO2排出削減につなげる「削減貢献量」を重視。グループ全体でGX(グリーントランスフォーメーション)を推進する。
    ・楠見社長は日本経済新聞社が2日に開催したオンラインイベントで表明した。
    ・水素生成装置の事業化に関して楠見社長は、コスト競争力を高める必要性に言及。「水素を安価につくるための研究開発を進めている」と述べた。水素が普及する条件としては、インフラ整備も含めた国の支援の重要性を指摘した。
    ・楠見社長は脱炭素分野で注力する製品としてエアコンなどの空調をあげた。「電力消費量が比較的多い空調領域は、省エネ技術で競争力を発揮できる」とみる。
    省エネ製品は売り上げに貢献するだけではない。ヒートポンプ式温水暖房機や燃料電池などの販売を通じ、顧客のCO2削減につながる領域を自社の削減貢献とみなす。
    ・電気自動車(EV)用電池で、米カンザス州の新工場建設に40億ドル(約5400億円)を投じる。楠見社長は「米国と中国で独立したオペレーションができる。デカップリング(米中などの分断)の影響を受けないように動いている」と述べ、車載関連のサプライチェーン(供給網)構築では地政学リスクを考慮したことを明らかにした。
    ・ただ競合する中国企業や韓国企業は大規模な投資を打ち出している。楠見社長は「シェアを取ることが目的ではなく、収益をきちんとあげられるかが重要だ」と収益重視を強調した。

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