今日の日経新聞ピックアップ(2022/12/1)

  1. 第4の革命 カーボンゼロ試練の先に(下)削減停滞、先進国も痛み 進まぬ途上国支援
    ・「人類を(温暖化という)危険にさらしているのは富裕国とはっきり言うべきだ」(中央アフリカのトゥアデラ大統領)
    ・「地球の破壊にほとんど関与していないのに、我々は最も苦しんでいる」(セーシェルのラムカラワン大統領)
    ・6年ぶりのアフリカ開催となった第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)。途上国首脳は次々と先進国にいらだちをぶつけた。
    ・2020年までに気候変動対策で年1000億ドル(約14兆円)を途上国に拠出するとの公約が未達なことが一因だ。経済協力開発機構(OECD)によると、実際の拠出額は20年に833億ドル。今回の会合で英国やドイツが表明した支援を足してもなお届かない。
    COP27は気象災害で「損失と被害」を受けた途上国を支援する基金の創設を決めた。支援対象国の選定や各国の拠出額など詳細はこれからで、資金が実際に途上国に渡るかはまだみえない。

    中印に拠出要求
    ・現状では各国が約束した温暖化ガスの排出削減目標を実現しても、気温上昇を産業革命前から1.5度以内に抑える「パリ協定」の目標に届かない。先進国の多くは既に50年までに排出を実質的になくす「カーボンゼロ」を表明済み。脱炭素には途上国の協力が欠かせない中、大半の途上国は財政難により気候対策は後回しになりがちだ。
    COP27では中国とインドも途上国を支援すべきだとの声も広がった。アンティグア・バーブーダのブラウン首相は8日、ロイター通信に「中国とインドが主な汚染者だと皆が知っている。汚染者は支払わなければならない」と述べた。
    中国とインドは途上国のまとめ役として支援義務から外れてきた。気候災害が頻発するなか、中印の特別扱いを疑問視する途上国が増えた。
    ・「生計が立たないまま数百万人が冬を迎える」。今夏の大雨と洪水で国土の3分の1が水没し、1700人以上が死亡したパキスタン。シャリフ首相は7日、エジプトで国連のグテレス事務総長らに支援を訴えた。国連は復興に8億1600万ドルが必要と推計した。
    ・気候災害で途上国が受けた損害は先進国にも跳ね返る。海面上昇やハリケーン、熱波、山火事は地球規模。異常気象で住み家を追われる「気候難民」も忍び寄る危機だ。

    避難民2億人も
    ・スイスが拠点の国内避難民監視センター(IDMC)によると、21年に気候が原因の災害で避難を余儀なくされたのは世界で2230万人と、紛争や暴力による避難民(1440万人)より多かった。50年までに2億1600万人に膨らむと世界銀行は予測する。
    ・「気候難民が何億人にも膨らみ、世界中で国境や治安を圧迫するのを(途上国支援により)食い止める。その価値がどれほど大きいかをあなた方に問いたい」。大西洋の島国バハマのデービス首相はCOP27に集った首脳に呼び掛けた。
    ・欧州にはアフリカ発の気候難民が押し寄せるリスクがある。欧州議会調査局は3月「サービスやインフラが逼迫する」と警告した。実際、15年に中東から流入した難民の波は欧州で拒絶反応をうみ、ポピュリズム政治や右傾化の温床になった。
    ・国際通貨基金(IMF)は10月、再生可能エネルギーへの急速な移行は世界の経済成長率を30年にかけて年0.15~0.25ポイント押し下げるとしつつ、「移行が遅れればコストははるかに大きくなる」と警告した。
    ・ドイツの非政府組織(NGO)ジャーマンウオッチによると、気候災害が大きな国のランキングで日本は18年に1位、19年に4位。2年連続で上位10カ国に入った先進国は日本だけだ。気候災害は人ごとではなく、我々に覚悟と行動を迫る。
  2. ESG、環境M&Aシフト
    野村やシティ、人員増 投資銀業務のカギに

    ・世界の金融機関が投資銀行業務でグリーン対応を急いでいる。野村ホールディングスや米シティグループはM&A(合併・買収)の担当者を増やすなど陣容を拡大した。スイスのUBSはESG(環境・社会・企業統治)助言組織を設置。金融引き締めで落ち込む投資銀行ビジネスのなかでもESG関連は堅調だ。グリーン対応力は銀行の競争力をも左右しそうだ。
    今年に入り、投資銀行業務には逆風が吹いている。ウクライナ危機や世界的な金融引き締めで企業の資金調達環境が悪化した。リフィニティブによると世界全体のM&Aは1~9月に前年同期から34%減、株式での資金調達も62%減となった。
    だが、ESG関連は堅調だ。1~9月の再生可能エネルギー企業の買収などESG関連のM&Aは20%減、株式調達も35%減にとどまった。
    ・電力業界に限れば環境関連のM&Aは活発になっている。グローバルデータによると7~9月で181億ドル(約2.5兆円)と前年同期の8倍になった。
    ウクライナ危機で安全保障の観点から、他国に頼らない再生エネ拡大を急ぐ動きが出ているのに加え、「長期で脱炭素を目指す動きは変わらない」(国内大手電機)として、企業は脱炭素化に向けた事業戦略を着実に推進している。
    ESG関連の投資銀行業務は環境債など債券発行支援が大半だったが、M&Aや株式調達にも拡大している。世界的な脱炭素圧力の強まりを受け、企業の間では再生エネなど市場成長が期待できるグリーン事業の取り込みや事業再編を進める動きが広がっている。顧客企業の脱炭素化の支援は、投融資先の2050年温暖化ガス排出実質ゼロを掲げる金融機関にとっても欠かせない。
    ・再生エネ関連ではM&Aが目立つ。米モルガン・スタンレーは英BPによる再生可能天然ガス大手の米アーキア・エナジーの買収を支援した。バンク・オブ・アメリカやJPモルガンも東京電力ホールディングスによるユーラスエナジーホールディングスの株式40%の豊田通商への売却などを手掛けた。
  3. 高炉から転換、欧州で進む
    電炉は車やビル解体時などの鉄スクラップを溶かし、鉄鋼材にリサイクルする手法だ。高炉は鉄鉱石と石炭に熱風を吹き付けて鉄をつくる。純度が高い半面、CO2排出量が多く、欧州勢などが電炉への転換を急ぐ。
    ・英リバティー・スチールグループはチェコの製鉄所に電炉2基を導入する。約500億円を投じて2025年にも稼働し、27年までに同製鉄所のCO2排出量を80%以上減らす。スウェーデン大手のSSABも電炉などへの転換を進める。
    日本の鉄鋼業のCO2排出量は産業部門の4割を占める。JFEスチールは9月、岡山県の高炉を電炉に転換すると表明。市場調査データを扱うグローバルインフォメーションによると、世界の黒鉛電極市場は27年に21年比45%増の84億ドル(約1兆2000億円)になる見通しだ。
    ・昭和電工の22年1~9月期の黒鉛電極事業の売上高は前年同期比51%増で、営業増益だった。脱炭素は追い風だが、鉄鋼業界は景気に左右されやすい。市況に苦しみ、赤字に転落した過去がある。データ解析を電炉の生産性や電極品質の向上につなげ続けるサイクルをつくり、その成否が収益安定の試金石にもなる。

    黒鉛電極 電炉の基幹部材で、通電で先端温度がセ氏3000度に達する。最大直径32インチ(約80センチメートル)の円柱形の棒を通常3~4本つなぎ合わせて使う。石油精製の残渣(ざんさ)やコークス(石炭)製造で生じる副産物を原料につくる。

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