国立大学の「独立」の功罪

2004年4月の国立大学法人化から20年。
産学官連携の業務に携わっている中で、大学の状況を間近で見ていてもその功罪については日々考えさせられる。

功は、文部科学省からの「独立」によって、産学連携や研究の発展を促され、大学や研究者の自立心や独立心を育んだこと。

罪は、大学に配る運営費交付金の1割強減による研究環境の悪化と、それを補うための外部資金調達への奔走。

<朝日新聞デジタル 【そもそも解説】より>

日本の科技立国の再建にむけては、国・大学・研究者が課題を共有し解決していく必要がある。

科技立国 反転の糸口(1) 研究力の向上 最後の好機
資金不足で大学の層薄く 自立と国際開放に光

(日経新聞 2024/4/9 朝刊記事)

<日経新聞 2024/4/9 朝刊記事より>

2004年4月に国立大学が法人化して20年がたった。大学の自由度を高め、研究の充実を目指したが、日本の研究力は世界4位から13位に転落した。一方で大学発スタートアップの活躍、産学連携の増加など前向きな動きも出始めた。「科学技術立国」への反転攻勢に向けた糸口を探る。

「トップ10%論文が少ない日本はイノベーションの種が枯渇しており、経済にも影響する」。3月11日、東京大学の後藤由季子教授は、科学技術振興機構(JST)が都内で開いた緊急シンポジウムで訴えた。

テーマは「なぜ、我が国の論文の注目度は下がりつつあるのか、我々は何をすべきか」。ほかの論文で引用された回数がトップ10%に入る注目論文数で日本は13位に沈む。注目論文は特許に引用される頻度が高くイノベーションの種だ。

非英語圏で研究者人口や予算規模が日本より少ないドイツは4位と健闘し、韓国は10位で大きく順位を上げた。違いは何か。日本経済新聞が学術論文の分析などを手掛けるクラリベイト・アナリティクス・ジャパンに依頼し、研究の総量を示す論文数を比較すると、日本は中堅以下の大学の研究活動が劣っていた。

国は国立大学を文部科学省から「独立」させ、産学連携や研究の発展を促した。一方で、大学に配る運営費交付金を1割強減らした東北大学の島一則教授は「地方大学では研究環境が悪化して研究を進めにくくなった」とみる。

ドイツは05年以降に基礎研究を手厚く支援した。大学の研究を支援する機関や主要な公的研究機関の人件費などに充てる基盤的な経費は21年に05年比で約2倍だ。22年の科学技術予算(名目額)は00年比でドイツが約3倍、韓国は約8倍に増やした。日本は当初予算で1.3倍にとどまる。

ドイツと韓国は科学研究を国力の源泉と見なして重点投資し、財源確保を可能にする経済成長を実現した。低成長と財政悪化に苦しむ日本は選択と集中で競争を促したが、うまくいかなかった。

トップダウンで流行の研究テーマに与える資金を増やしたが、研究者の自由な発想に基づく研究を支援する資金は減った。東大の後藤教授は「AI(人工知能)が2番手以降(の技術)を効率よく開発できる時代になる。新しい芽を作る研究が大事だ」と指摘する。

運営費交付金の減少の影響で無期雇用のポストは減り、若手の割合は低下した。教授のもとに准教授らが配置される講座制も残る。ノーベル化学賞候補として有名な中部大学の山本尚卓越教授は「若手の柔軟な発想を封じる」と批判する。研究時間も減り続けている。

<日経新聞 2024/4/9 朝刊記事より>

落日の科技立国だが、明るい兆しもある。国立大学の法人化は大学や研究者の自立心や独立心を育んだ

米テスラなどと競う自動運転技術を名古屋大学が生んだ。官民から300億円以上を調達した同大発ティアフォー(名古屋市)は英半導体設計のアームや台湾の鴻海科技集団など約50社と協力する。03年度に1000社もなかった大学発スタートアップは4000社に迫る。創薬を手掛ける東大発のペプチドリームなどは上場した。

大学などの知を世に出すために起業と両輪となる産学連携も加速した。総務省によると22年度に企業が大学などに拠出した研究費は1180億円と03年度比41%増えた。

企業が大学などに出す資金は欧米に比べて1桁少なかったが、「イノベーションには巨額の資金が必要だと、経営者の意識も変化している」(産業技術総合研究所の石村和彦理事長)。

ソフトバンクグループなどは東大のAI関連研究に10年間で最大200億円を拠出する。米マイクロン・テクノロジーは広島大学などに5年間で6000万ドル(約90億円)を出し、半導体研究などを進める。

研究力を向上する方策も見えてきた。国際水準の研究環境を用意すれば、海外トップ大学に負けない人材が集まる。

この20年の科学技術政策で「最大の成功例」と文科省の複数の関係者が口をそろえる「世界トップレベル研究拠点プログラム」には北海道大学などの計18拠点が選ばれた。注目論文の割合は15~20%と東大平均の12%を超え、英ケンブリッジ大学などと並ぶ。

公用語を英語にして外国人の割合を3割以上にした。東大カブリ数物連携宇宙研究機構のエミリー・ナルドニ特任研究員はケンブリッジ大などの招きを蹴ってきた。同機構には「量子論」や「宇宙ひも理論」でトップレベルの研究者が集まり、「世界の頭脳と交流できる」(ナルドニ氏)。

待遇を国際水準に引き上げる大学も相次ぐ。名古屋大学は23年度に原則45歳未満の卓越教授制度を導入し、給与は2000万円台と従来の2倍にした。九州大学も優秀な若手に年1000万~1200万円を出す。

JSTの橋本和仁理事長は「今が日本の科技力復活の最後のチャンスだ」と強調する。国は世界水準の大学を数校指定し、ファンドの収益から年約3000億円の助成を目指す制度を設けて、24年度にも東北大へ助成を始める。23年度から地方大の支援も始めた。

世界トップ級の大学を育成しながら、研究の裾野を広げる中堅以下の大学を生かす必要がある。国、大学、研究者が危機感を共有し、科技立国の再建へ動く。

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