中小企業の休廃業、2023年は最多
23年の休廃業5万社、10年で最多
中小で新陳代謝進む
(日経新聞 2024/3/31 朝刊記事)
休業や廃業、解散を決めた企業が2023年に約5万社となり、比較できる13年以降で最多となった。物価や人件費が上昇するなか、新型コロナウイルス禍の補助金もなくなり、市場からの退出を選ぶ企業が増えている。失業者の増加を招かないよう円滑な事業譲渡や人員受け入れの取り組みが重要になっている。
東京商工リサーチによると、23年の休廃業・解散企業は前年比0.3%増の4万9788社だった。直近で最多だったのは、コロナ感染が広がった20年の4万9698社だった。21年はコロナ補助金や実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)などの公的支援で4万4000社台まで減っていた。22年以降は4万9000社台に戻った。
休廃業・解散企業のうち、48%は直前の決算期が赤字だった。赤字企業が占める割合は16年の36%を底に年々上昇している。人件費の削減や補助金の活用で経営を続けてきた企業でも、足元のコスト高に耐えられずに赤字転落する例が増えた。
産業別では飲食店やホテルなどのサービス業が1万6286社と全体の33%を占め、建設業が16%、小売業が12%と続いた。いずれも人手のかかる業種だ。人手不足が休廃業・解散の判断につながっている。
人材サービス大手ディップによると、24年1月のアルバイト・パートの平均時給は1386円と前年同月比167円増え、過去最高を更新した。神奈川県横須賀市の酒卸・小売業を営む経営者は「昨年秋に時給を上げたがアルバイトの面接に人が来ない。春に大学生アルバイトが2人辞めてしまう。今後十分な人手を確保できるか不安だ」と人員確保の困難さを語る。
黒字でも後継者が見当たらずに店をたたむケースは少なくない。休廃業・解散企業の代表者の年齢別では70代が全体の4割強にのぼる。
一方、失業率は低水準だ。2月の完全失業率(季節調整値)は2.6%と低位にとどまる。休廃業や解散が増えても失業率が上がらない理由のひとつに、休廃業や解散する企業の規模の小ささがある。有限会社や個人経営など従業員が少ない企業の休廃業・解散が増えている。
事業承継やM&A(合併・買収)で従業員が他社に移るケースもある。
自動販売機向けの飲料品を扱う都内の卸売業者は23年夏、同業の中堅企業に事業を譲り渡した。コロナ禍で自販機の売り上げが減り、値上げや採算性の低いエリアからの撤退に取り組んだものの業績は回復しなかった。40年近く営業してきた。
経営者の男性は従業員の雇用確保を優先して事業譲渡を決めた。支援したメインバンクのきらぼし銀行が債権放棄に応じたことも寄与し、約30人の従業員のうち20人以上が譲渡先に移った。きらぼし銀融資管理部の牧岡大介副部長は「企業再生の弁護士と連携しながら、銀行と企業が抜本的な経営改革を決断できた」と話す。
休廃業や解散を選ぶ企業は一段と増えそうだ。金利のある世界に戻ると、超低金利下で抑えられてきた債務の利払いは増える。ピクテ・ジャパンは24年に企業の利払い費が最大で前年比4割増えると予測する。
政府はコロナ禍の資金繰りから事業再生へと支援の軸足を移している。独力で再生計画を描くのが難しい企業は望む、望まないに関わらず退場を迫られる可能性がある。従業員の雇用を確保するためにも円滑な事業譲渡やM&Aを支援する枠組みが重要になる。