初めて認識する中小企業の労働分配率

資本金1000万円以上~1億円未満の企業と定義される中小企業の「労働分配率」が、中堅企業ましてや大企業のそれと大きく異なることを初めて認識した。

労働分配率は経常利益や人件費、減価償却費、支払利息などの合計を分母におき、人件費を分子にして計算する。企業が生んだ付加価値のうち、給料などで従業員にどれだけ分配したかを示す。

現在は低水準で推移しているので賃上げ余力はあるように見えるが、記事の文章のように、中小においても継続して賃上げ余力を確保していくためには、分母が減らない構造転換(=稼ぐ力の底上げにより人件費を上げても経常利益も維持増加)を推し進める事が大切と感じた。

1人当たり人件費が3%、借入平均金利が2%上昇すると、中小企業でも経常利益は35.1%下押しされる。生産性や稼ぐ力の向上が伴わない無理な賃上げは長続きしない。公正な取引慣行の徹底や省力化投資などを通じて、中小・零細企業の稼ぐ力の底上げが求められる。

中小、賃上げ余力高まる
稼ぐ力向上、労働分配率70%に低下

(日経新聞 2024/3/5 朝刊記事)

中小企業の「賃上げ余力」が高まっている。企業の利益などが賃金に回る割合を示す労働分配率は足元で70%前後と1992年以来の低水準が続く。経常利益など企業の稼ぐ力が伸びて分配率を下押しした。賃上げ機運の中小への波及が期待できる一方で、経営体力が弱い零細企業の生産性を向上できるかが残る課題になる。

日経新聞 2024/3/5 朝刊記事

労働分配率は経常利益や人件費、減価償却費、支払利息などの合計を分母におき、人件費を分子にして計算する。企業が生んだ付加価値のうち、給料などで従業員にどれだけ分配したかを示す。

財務省が4日に発表した2023年10~12月期の法人企業統計をもとに試算すると、中小企業の労働分配率は直近4四半期の移動平均で70.7%と、前年同期から1.4ポイント低下した。財務省は資本金1000万円以上~1億円未満の企業を中小企業と定義する。

経常利益は前年同期比で4四半期ぶりに減った。運輸・郵便業が全規模で38.5%減だったことや円安によるコスト増などが響いたとみられる。このため中小の分配率は7~9月期からは0.4ポイント上昇した。それでも92年7~9月期の69.9%以来の低水準が3四半期連続で続く。

中小企業の分配率の内訳をみると、分母に入る経常利益は新型コロナウイルス禍前の4年前に比べ13.6%伸びた。一方で分子の人件費は同期間に3.1%の伸びにとどまっており、企業に賃上げ余力が生まれている。

日本経済新聞社が民間エコノミスト10人に聞いたところ10~12月期の名目GDP(国内総生産)改定値の予測平均は前期比年率で2.4%増となった。企業業績は名目値で評価するため、値上げを伴う緩やかなインフレは業績への追い風となる。

大企業、中堅企業の労働分配率はさらに低い。資本金10億円以上の大企業の10~12月期の分配率は38.8%、資本金1億円以上~10億円未満の中堅企業は61.4%とそれぞれ前期比で0.8ポイント、0.3ポイント低下した。

今春の労使交渉で大企業では、すでに自動車大手や小売りなど幅広い業種で高水準の賃上げが固まった。ただ日本の従業員の7割は中小・小規模企業に属する。経団連の十倉雅和会長は4日の記者会見で、物価と賃金が伸びる経済の好循環のために「中小企業の賃上げをしっかり見ていく必要がある」と語った。

23年の賃上げ率は連合の集計で3.58%と30年ぶりの高水準だったものの、組合員300人未満の企業は3.23%にとどまった。物価の伸びに追いつかず、実質賃金の前年同月比は21カ月連続でマイナス圏に沈む。

今春の労使交渉で連合は賃上げ水準で5%以上、基本給を底上げするベースアップ(ベア)で3%以上を求める方針を掲げる。日本総合研究所は、中小企業の分配率が新型コロナウイルス禍前の19年平均の71.7%まで高まれば、1人当たり人件費は2%ほど底上げできると試算する。

ただ一部の企業は原材料コストの上昇や価格転嫁の遅れに苦しむ。全国商工会連合会によると、23年度に売上高2000万円未満の企業で賃上げをしたのは4割にとどまる。

資本金1000万円未満の零細企業は特に厳しい。データのある22年度の分配率は84.6%と高い。日本総研の井上肇氏は零細企業の従業員は全体の2割を占めるとして「(零細企業で)2%のベアが実現して実質賃金がプラスにならなければ、好循環が日本経済全体に定着しない」とみる。

井上氏は零細企業で1人当たり人件費が3%、借入平均金利が2%上昇すると、経常利益は66.4%減るとみる。中小企業でも経常利益は35.1%下押しされる。生産性や稼ぐ力の向上が伴わない無理な賃上げは長続きしない。公正な取引慣行の徹底や省力化投資などを通じて、中小・零細企業の稼ぐ力の底上げが求められる。

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