大学発スタートアップの現状について
産学官連携オープンイノベーションに係る業務について4年、まさに現状は下記記載のとおりだと感じる。
日本の大学は研究成果をビジネスにつなげる専門組織や人材が少なく、せっかくの種を開花できない。
国の支援を研究現場だけでなく、事業化への仕組みづくりにも回し、眠る富を経済成長に生かす必要がある。
自分としては、これから、特許やビジネス戦略の専門人材のひとりとしてスタートアップ起業支援に貢献していきたいと強く思っている。
大学、生かせぬ「富の元」
日米特許収入の格差50倍 起業支援、整備欠く
(日経新聞 2024/3/3 朝刊記事)
大学の「知」が埋もれたままだ。日米の有力大学の特許取得数は2倍も差がないのに、特許から得る収入は米国の方が50倍多い。日本の大学は研究成果をビジネスにつなげる専門組織や人材が少なく、せっかくの種を開花できない。国の支援を研究現場だけでなく、事業化への仕組みづくりにも回し、眠る富を経済成長に生かす必要がある。
「大学内で特許戦略を立案できる人材が圧倒的に足りていない。研究成果を商品にできるか検証するための資金も数百万円しか下りない。これでは起業しようにもできない」。新薬の開発でスタートアップ企業の立ち上げを準備する岡山大学の教授はため息をつく。
過去に勤務していたドイツの大学と連携する研究所では知的財産の専門人材が学内から有望なシーズ(種)を探し出し、市場調査をしたうえでビジネスモデルも立案。研究結果が事業化できると判断してから特許を出願していた。商品化に向けた検証で得た資金は数億円にのぼる。日本とは何もかも桁違いだった。
日本の大学が研究成果を稼ぎにつなげられない。
内閣府によると、東京大学や京都大学など特許収入の多い上位10大学の合計額は年平均24億円(2017~21年)にとどまる。ノースウエスタン大学など米国の上位10大学(1178億円)の49分の1だ。特許の取得数は1320件と米国(2347件)の半分超あるのに稼ぐ力では大差がつく。
1件の特許を取得するのにかかった研究費は日本の10億円に対し、米国は12億円弱とほぼ差はない。特許収入は企業からのライセンス料などが多く、同じコストをかけているのに日本の大学は成果をビジネスにつなげることができていない。東京医科歯科大学の飯田香緒里教授は「国内の大学の特許で企業に活用されているのは20%に満たない」と指摘する。
知財で稼ぐには大学内に専門の人材や組織、施設が必要になる。文部科学省によれば全大学のうち研究者の起業を支援するプログラムがあるのは8%、特許の専門家である弁理士を配置しているのも5%に過ぎない。
都内の私立大学の准教授は「起業について相談できる専門家が学内にいない。研究と起業準備の両立が大変だ」と明かす。知識不足で大手企業に特許料を安く買いたたかれた研究者もいる。
米欧の有力大学では特許やビジネス戦略の専門人材がそろう。起業支援の施設も充実している。
研究者が特許の書類や論文を書く前に専門家が競合する特許を分析し、ビジネス化するにはどの特許と組み合わせたら最適か知財戦略を立てることが一般的だ。ベンチャーキャピタル(VC)が投資の判断をしやすく、スタートアップも立ち上げやすい。
人工知能(AI)や宇宙など先端技術分野のユニコーン(企業価値10億ドル以上の未上場企業)が米国は534社と日本の100倍に達するのは大学の知の生かし方にも原因がある。あずさ監査法人の阿部博パートナーは「博士課程の研究者に起業のノウハウを教えるなど日本も技術とビジネスの双方に精通する人材を増やす必要がある」と語る。
国の大学への支援は研究現場に重点を置く。成果を稼ぎにつなげる仕組みづくりには十分に資金が回っていない。研究現場には文科省の予算で年数千億円の助成がある一方、事業化に投じるのは200億円程度にとどまる。知の種を生む研究開発への支援は欠かせないが、今後は花を開かせる事業化への支援も手厚くする発想転換が重要になる。