アップルWatchの知財

アップル、知財リスクが影 「ウオッチ」米で販売再開
特許侵害認定ならヘルスケア注力戦略見直しも

(日経新聞 2023/12/29 朝刊記事)

米アップルが次の成長の柱とするヘルスケアサービスに黄信号がともっている。27日に腕時計型端末「Apple Watch(アップルウオッチ)」の販売を再開したが、米企業との特許紛争は解決していない。

ウオッチの部品原価率はスマートフォン「iPhone」の半分程度とされ、収益性が高い。知財リスクの解消に時間がかかれば、戦略見直しを迫られる。

「新年を迎える前に、アップルウオッチの全ラインアップを戻せることをうれしく思う」。アップルは21日から順次販売を取りやめていた新製品「シリーズ9」と高機能機種の「Ultra2」について、27日に店頭での販売を再開した。

ウオッチを巡っては、血中の酸素濃度を測る機能が米医療器具メーカーのマシモの特許を侵害しているとして、米国際貿易委員会(ITC)が10月、アップルに対して生産国からの輸入禁止命令を出した。

米政権が12月26日にITCの決定を覆すことを見送るとアップルは米連邦巡回控訴裁判所に不服を申し立てた。法的手続き中は禁止措置を停止するように主張した。同裁判所は27日、アップルの主張を認め輸入禁止命令を一時的に差し止めた。

だが全面解決ではない。アップルが裁判所に提出した資料によると、同社は当該機能の設計を変更し、米税関当局が2024年1月12日にも特許侵害に当たらないかどうかを判断する。認められなければ、再び販売停止になる可能性がある。

「手続き中も禁止措置が続けば、取り返しがつかない損害を被る」。アップルがそう強調する背景には、ウオッチの高い利益率がある。

ウオッチは心拍数などを計測する機能を強みとして、腕時計型端末で世界シェア首位。ウオッチを含む周辺機器部門の23年9月期の売上高は398億4500万ドル(約5.6兆円)で全体の1割にすぎないが、部品ごとに価格を積み上げた推定部品原価率はiPhoneの5割程度とされる。世界のスマホ市場が低迷するなかで、収益性の高い周辺機器で稼ぐビジネスモデルを育ててきた。

サービスへの影響も大きい。ウオッチを軸にしたヘルスケア関連サービスは、アップルが金融と並んで新たな柱に据えている分野だ。ティム・クック最高経営責任者(CEO)は決算説明会などで「機械学習を活用したウオッチの転倒検知機能や心電図アプリで、多くの人の命を救ってきた」とアピールしている。

ヘルスケアや腕時計型端末は競争が激しくなっている分野でもある。アップルはウオッチやワイヤレスイヤホンなど、近年の新製品は後発としての参入が目立つ。それでも製品の完成度を高めることで世界シェアを高めてきたが、優秀な人材の採用や類似技術の開発で後手に回ると、今回のような知財紛争に発展するリスクもある。マシモはアップルが主要技術者を引き抜いて技術を盗んだと主張している。

アップルは24年に発売する初のゴーグル型端末「Vision Pro(ビジョンプロ)」では、約10年間に関連特許を5000件以上申請した。独自の技術を開発し、消費者に新たな価値を提供することこそがアップルの今後の成長を左右する。

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