DAC(Direct Air Capture) 大気中からの直接的CO₂回収
DACって何?
ダイレクトエアキャプチャー(以下DAC)、その名前を聞いてもピンとこない方が多いかもしれません。私たちの日常生活ではあまり耳にしない名前ではありますが、近年研究が進んでいる技術で、大気中のCO2を回収するというもの。回収したCO2に変換器を通してエネルギーと物質を加えれば、炭素系の違う物質に変換させ、保存・活用することができます。地球温暖化が深刻化する中で、大気中のCO2を削減するDAC技術、そしてその有効活用は各国・各機関で注目を集めているのです。
その革新技術の活用事例を挙げてみましょう。たとえば、アイスランドやカナダの施設ではCO2を回収し、地中に送り込み鉱化させて地中に戻す取組みや、スイスの施設ではCO2を回収し炭酸飲料を製造し提供するといったプロジェクトなどが世界中で行われています。このDACはCO2の排出量を減らすだけでは到底追いつかないカーボンニュートラルの目標に、明るい兆しを見せる技術として注目を浴びています。
しかし既存のDAC技術を活用した施設にも幾つかの課題があります。大気中から特殊な液体や吸着剤にCO2を吸収させるため、大掛かりなシステムになってしまい建設場所が限られてしまうことや、そこに掛かるコストも増大してしまうということ。もうひとつは、液体や吸着剤に吸収させたCO2を回収する時に大量のエネルギーを必要としてしまうといった点でのエネルギー効率性の問題です。
MOZES
Moonshot for beyond Zero-Emission Society
地球温暖化を抑制するため、CO₂を始めとする温室効果ガス削減が急務となっています。パリ協定で掲げられた2℃目標の達成には、従来の排出源対策だけでは不十分であり、既に大気に拡散してしまったCO₂を削減する技術(ネガティブエミッション技術)に基づく温室効果ガス対策が不可欠です。この観点から、日本発の破壊的イノベーションの創出を目指し、従来技術の延長にはない、より大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発(ムーンショット)を推進するものとして、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)において、「ムーンショット型研究開発制度」が創設され、2020年7月に7つのムーンショット目標が決定されました。
これに対し九州大学では、カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所(I²CNER)において、CO₂の排出削減とともに、非化石燃料によるエネルギーシステムを構築するための基礎科学の創出によって、環境調和型で持続可能な社会の実現を目指す研究を実施してきました。ここでは、研究の一つの柱としてCO₂をより効率的に回収する技術、そして回収したCO₂を有用物質に変換する、Carbon Capture and Utilization(CCU)に関する研究を進めてきました。
これらの実績を踏まえ、令和2年8月、大気中からの直接的CO₂回収とその資源転換技術の開発を行うため、本学が代表提案機関を務める「“ビヨンド・ゼロ”社会実現に向けたCO₂循環システムの研究開発」の提案研究がムーンショット型研究開発事業として採択されました。この事業では、独自開発の革新的な分離ナノ膜を出発点とし、極めて高いCO₂選択・透過性を有する分離膜型のCO₂回収ユニットを開発します。これと同時に、回収したCO₂を高効率で炭素燃料に変換するユニットも開発します。この二つのユニットを連結し、大気からのCO₂回収から炭素燃料変換までを一貫して行う「Direct Air Capture and Utilization (DAC-U)システム」の創製を目指します。このシステムは、相互連結による高い拡張性を持ち、小規模から大規模まで、条件に合わせて対応可能なものにします。これにより、地上に遍く存在する大気から、多様な場所でのCO₂回収・変換を実現する、我が国独自の革新的なDAC-Uシステムを創出し、気候変動問題の解決と新しい未来社会構築に貢献したいと考えております。
この研究プロジェクトでは、大気中に拡散しているCO₂を人工的に直接回収(Direct Air Capture,DAC)し、回収したCO₂を有益な資源に転換する、革新的な技術開発を行います。2050年までに、開発するDACとCO₂転換技術の世界普及を目指し、その実用化に向けてさまざまな技術の開発も進めて行きます。