YouチューバーVチューバーBiz 3社の明暗
Vチューバー、知財で稼ぐ
動画も「タイパ」、広告低迷 カバーとANYCOLOR、グッズや投げ銭に軸足
(日経新聞 2023/09/07 朝刊記事)
ユーチューバーなど動画共有サイトで活動する人々をプロデュースするビジネスが変化している。上場企業3社では、UUUM(ウーム)の収益力が低下する一方で、カバーとANYCOLOR(エニーカラー)の業績が拡大。再生回数を伸ばし広告収入を得る仕組みが曲がり角を迎え、物販や知的財産権(IP)の活用で稼ぐビジネスに軸足が移り始めた。
8月24日、東京・六本木のイベントホールで開催されたUUUMの株主総会。「TOB(株式公開買い付け)成立後にヒカキンやはじめしゃちょーのようなトップクリエーターが移籍する可能性はないのか」。出席した株主からは、2週間前に発表されたフリークアウト・ホールディングス(フリークHD)によるTOBの影響についての質問が多く出た。
UUUMに逆風
広告関連システムを手掛けるフリークHDは、顧客に最適な広告枠を押さえて商品を買いそうな閲覧者に集中的に配信するといった「アドテク」と呼ぶ分野に強みを持つ。最大97億円を投じ、9月8日までにUUUMの株式の65%を上限に買い付け、同社を連結子会社化する予定だ。
8月10日のTOB発表に合わせて、UUUM側もこれに賛同する意見を表明。東証グロース市場への上場は維持するが、フリークHDの傘下でビジネスモデルの再構築に取り組むことになる。
ユーチューバー事務所として先駆けだったUUUMはここ数年、主力の「アドセンス」事業の低迷に悩んできた。主に所属クリエーターの動画の再生回数に応じて広告料を得る事業で、同社の売上高の4割弱を占める。
かつては成長の原動力だったアドセンスだが、「私にもできそうな仕事」としてユーチューバーになる人が増えたことで、視聴者の奪い合いが激化し、再生回数を減らす所属クリエーターもでてきた。さらに、視聴者が時間効率(タイムパフォーマンス=タイパ)を重視する姿勢を強め、TikTok(ティックトック)のような数十秒の短い動画が人気になったことが追い打ちをかけた。
ユーチューブが日本では21年に始めた「YouTubeショート」は最大60秒の縦型動画で、現在、若者を中心に投稿・視聴が急増している。相対的に数分~数十分の動画は見られなくなっており、人気のないユーチューバーが「失業」に追い込まれる事態が今春から目立ってきた。ショート動画に参入するユーチューバーもいるが、広告収入の分配単価は長尺動画より大幅に低い水準とみられ、大多数が稼げない状況になった。
こうしたユーチューブの構造変化を受け、UUUMの2023年5月期の連結業績は売上高が前の期比2%減の230億円となり、連結最終損益は10億5300万円の赤字(前の期は4億4800万円の黒字)になった。今後、広告やマーケティングで高度なノウハウを持つフリークHDの協力を得て、収益力の回復を急ぐとみられる。
対照的に快走するのが、今年3月に東証グロース市場に上場したカバーだ。23年4~6月期単独決算は、税引き利益が前年同期比2.3倍の6億2100万円、売上高は43%増の51億円と過去最高になった。
同社のビジネスはバーチャルユーチューバー事務所の運営とされるが、谷郷元昭社長は「ユーチューバー(の文字が入る表記)はミスリードで、Vチューバーが正しい」と話す。売上高の内訳は、所属Vチューバーのグッズなどの販売が全体の4割、動画への「投げ銭」やユーチューブの有料会員制度などで視聴者から料金を得るのが3割。動画再生回数を伸ばし広告収入を稼ぐ従来の「ユーチューバー型ビジネス」には依存していない。
二次元と好相性
岩井コスモ証券の饗場大介氏は「VチューバーはIPを有効活用しやすい」と話す。生身のクリエーターが全面に出るユーチューバーに対し、Vチューバーは二次元または三次元にデザインしたキャラクターを用いる。配信では、クリエーターの表情や動きを専用のアプリでキャラクターと連動させるため、視聴者はアニメやゲームの登場人物と時間を共有するような感覚が得られる。こうした特徴がIPビジネスの展開のしやすさにつながっているとの指摘だ。
実際、カバーは、Vチューバーの誕生日の記念グッズやキャラクターの声といったコンテンツを電子商取引(EC)サイトで販売している。他社が手掛けるゲームの中にVチューバーを「出演」させたり、イラストとしてIPを貸し出したりする事業も好調だ。
Vチューバーグループ「にじさんじ」を運営するANYCOLORも、IPを活用した物販やライブ配信で業績を伸ばしている。24年4月期の単独業績は、売上高が前期比30%増の330億円、税引き利益は34%増の90億円の見通し。株式公開から1年たった今年6月、東証グロース市場からプライム市場への上場変更が承認された。
Vチューバーは長時間の生配信が活動の主体で、視聴者のタイパ志向が強まることへの懸念もある。ただ、配信を短くまとめて投稿する「切り抜き動画」の文化が浸透しており、ユーチューバーほど打撃は受けていないもようだ。
海外展開のしやすさもVチューバーの強みだ。日本のアニメ人気という下地があるためで、カバーは英語圏とインドネシアで事業を展開。英語圏のVチューバーの総視聴回数は3月時点で17億回を数える。ANYCOLORも英語圏や韓国などで需要を開拓している。
カバー所属のVチューバーが東京都の観光大使に任命されたほか、ANYCOLORのVチューバーがテック企業とコラボするといったIP活用の裾野も広がっている。
ユーチューブ関連ビジネスは産業史のなかでは極めて新しい領域だが、変化は激しい。企業の対応力が問われる。