政府の「骨太原案」、6月中に閣議決定

骨太原案、「分厚い中間層」再構築
構造的賃上げ・少子化対策軸に、成長戦略は力不足

(日経新聞 2023/06/08 朝刊記事)

政府は7日、経済財政運営と改革の基本方針の原案を公表した。賃上げ促進と少子化対策を軸とする「分厚い中間層」の再構築を掲げた。家庭の資産運用を後押しするのと併せ、成長と分配の好循環を実現する狙い。脱炭素やデジタルなどの成長投資は新味に乏しく、経済の底上げには力強さを欠く。

原案が示された7日の経済財政諮問会議で、岸田文雄首相は足元の賃上げなどに触れ「今こそこうした動きを力強く拡大すべく(看板政策の)新しい資本主義の実現に向けた取り組みをさらに加速させていく」と語った。6月中に閣議決定する見通しだ。

<日経新聞 2023/06/08 朝刊記事>

日本経済は長引くデフレ圧力で国内の需要停滞や労働者の賃金抑制などが続いてきた。原案は悪循環を断ち切り「分厚い中間層を復活させていく」と盛り込んだ。

柱となる賃上げ促進では転職を促す労働市場改革を盛った。終身雇用を前提とした退職一時金の税制優遇見直しで転職の壁を取り払う。ジョブ型雇用の浸透でデジタルなど成長産業に人材を誘導し、賃上げにつなげる。最低賃金を全国加重平均で1000円に引き上げる目標も掲げた。

少子化の具体策は原案に盛らず、政府の別の会議で方針を決めてから追加する。これまでに2030年代初頭に4.7兆円のこども家庭庁予算を倍増する方向性が固まった。所得制限撤廃など児童手当の拡充や育児休業給付金の増額で子育て資金に厚みを持たせる。

家庭に経済的な余裕を持たせる施策も進める。24年から少額投資非課税制度(NISA)を拡充して資産所得を倍増させる。資産運用業の参入促進に向けた政策プランを年内にまとめる。

家計所得は長期低迷が続く。経済財政白書によると、19年の世帯所得の中央値は課税後ベースで374万円と94年から25%減った。賃上げや資産運用など複数経路で家計を支援し、消費や設備投資の伸びを下支えする。

財政政策では新型コロナウイルス禍や物価高対策で膨らんだ歳出を平時に戻す方針を明記した。一方で少子化や防衛分野での歳出圧力は強く、財政健全化は見通せない。

原案全体を見ると、成長につながる投資は新味に欠ける。脱炭素投資は22年の骨太方針で示した10年で官民150兆円の投資計画を引き継いだが、制度設計の途上だ。「半導体・デジタル産業戦略」では21年以降、累計2兆円の予算を確保したが、その後の追加計画はない。

米国では22年夏に成立したインフレ抑制法で環境・エネルギー分野への巨額投資に動き、多くの企業をひき付ける。半導体関連でも22年に5兆円強規模の基金を設けた。

きょうのことば骨太の方針 予算・政策の方向性示す

▽…正式名称は「経済財政運営と改革の基本方針」。年末の予算編成に向けた基本姿勢や、政権として力を注ぐ政策の方向性を示す。毎年6月ごろに閣議決定する。首相が議長を務め、関係閣僚や日銀総裁、企業経営者や学識者らが加わる経済財政諮問会議で策定作業を進める。

<日経新聞 2023/06/08 朝刊記事>

▽…2001年の小泉純一郎政権が初めてまとめ、歴代の政権が重要政策の道筋を示すために活用してきた。小泉政権では郵政民営化や不良債権処理、国と地方の税財政改革など看板政策を進める原動力とした。岸田文雄政権が初めて策定した22年は防衛力の抜本強化などを打ち出した。

▽…18年の安倍晋三政権は基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)黒字化目標の25年度への先送りを、21年の菅義偉政権ではデジタル庁を通じた国と地方の業務効率化を盛り込んだ。負担を伴う財源の確保について踏み込みが不足しているとの批判もある。一部は成長戦略を議論する「新しい資本主義実現会議」や少子化対策を議論する「こども未来戦略会議」など他の会議のとりまとめを反映している。

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