2022年大学発スタートアップは3700社超え

大学発スタートアップ、年間477社増 過去最多
首位は慶応 経産省調査

(日経新聞 2023/05/17 朝刊記事)

大学発スタートアップの裾野が広がっている。経済産業省の2022年度調査によると、1年間に過去最多の477社増え、合計で3700社を超えたことが分かった。増加数の首位は慶応義塾大で、ベンチャーキャピタル(VC)と連携した支援拡充が奏功した。東京大なども盛り返した。有望な研究成果の事業化が進めば、日本が課題とする産業の新陳代謝につながる可能性もある。

<日経新聞 2023/05/17 朝刊記事>

調査は大学の研究成果を生かしたり、学生が立ち上げたりしたスタートアップを集計した。合計社数は22年10月時点で3782社。1年間の増加数は前回調査(400社増)を上回った。新設が約240社で、過去の設立を新たに把握した分が約350社。一方、解散などで約120社減った。

首位の慶応大は61社増えた。公認VCの慶応イノベーション・イニシアティブ(KII)が主導し、起業のタネの発掘や経営人材の獲得、資金調達などを一括で支援する。IT(情報技術)や創薬、再生医療といった領域のスタートアップを多く生んでいる。

KIIの山岸広太郎社長は21年から大学のイノベーション推進本部スタートアップ部門も率いる。「専門的な知見を持つ常勤スタッフを雇い、起業家へのノウハウ提供を拡充した」(山岸氏)

22年末には転職支援のビズリーチ(東京・渋谷)と連携し、起業を志す研究者と経営のプロ人材をマッチングする取り組みを始めた。研究者に不足しがちな財務やマーケティングに関する専門知識を補い、26年までに300社の創出をめざす。

東大盛り返す

2位の東大は42社増と前回調査(6社増)から盛り返した。合計社数は長く国内トップを走る。ただ「世の中にインパクトの大きい課題にチャレンジする骨太の起業はまだ少ない」(産学協創推進本部の菅原岳人ディレクター)。

19年には起業をめざす卒業生向けのプログラム「FoundX」を始めた。最大9カ月間をかけて事業アイデアの作り込みを支援し、資金調達を支援する。このプログラムをきっかけに、22年は体重測定できるバスマットを手掛けるissin(イッシン、東京・文京)などが創業した。

民間VCだけではまかなえない資金供給の体制整備も急ぐ。10年間で600億円規模を投資する新ファンドを立ち上げる計画を21年に打ち出した。30年までに合計社数を700社と現状の約2倍に増やす目標だ。

4位の早大は資金支援を拡充した効果が出た。22年に独自VCの早稲田大学ベンチャーズを立ち上げ、現在は84億円のファンドを運用する。量子コンピューター関連など3社に投資した。

地方大も活性化

増加率では地方大が上位に並んだ。2位の秋田大は83%増。秋田銀行と連携して教員の研究を分析し、事業化を見込めるタネを探している。23年4月には外部有識者9人を客員教授などとして迎え、起業家教育を担ってもらう体制を整えた。

56%増だった高知大は22年1月に、高知銀行などとファンド「高知県発ベンチャー投資事業有限責任組合」を設立した。地域連携を担当する石塚悟史副学長は「エコシステム(生態系)が徐々にでき始めている」と手応えを語る。

22年創業の海の研究舎(土佐市)は高知大の研究室が持っていたノリ養殖技術を活用する。近年は四万十川の水温上昇でスジアオノリの不作が続く。陸上養殖の需要が高まるとみて、コンサルティングや養殖に使うタンクの販売を手掛けている。

活性化する大学発起業には課題もある。研究成果を生かした先端技術(ディープテック)系のスタートアップは事業化や社会実装に時間がかかるケースが多く、VCなどから大型の資金調達をしにくい。米欧を中心とした利上げに伴う資本市場の変調も逆風となる。

政府が22年11月に打ち出したスタートアップ育成5カ年計画は、1大学あたり50社の起業を目標に掲げる。スタートアップを取り巻く環境が急速に変化するなか、産官学の連携の深化と進化が求められる。

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