働く高齢者の家計調査 2022年

2人以上世帯で世帯主が65歳以上で働いている世帯 <総務省の2022年の家計調査>
 ・収入:          45万5千円/月(勤め先からの収入が27万7千円)
 ・消費支出+税・社会保険料: 5万2千円/月
 ・黒字額:         10万2千円/月(手持ちの現金などを加えた貯蓄に充てた額は11万3千円)

65~69歳の就業率 <総務省の労働力調査、2021年>
 ・50.3% ←2012年は37.1%

健康寿命 <厚生労働省、2019年時見積もり>
 ・男性: 72.68歳
 ・女性: 75.38歳

働く高齢者の貯蓄増加 消費・投資へ施策必要
昨年は月平均11万円、10年で3倍

(日経新聞 2023/05/02 朝刊記事)

働く高齢者の賃金が貯蓄に回っている。総務省によると65歳以上の勤労者世帯(2人以上)が2022年に貯蓄に回した額は月平均11万円と、10年前の3倍超になった。金融資産は60歳以上が全体の6割超にあたる1200兆円を抱える。高齢者に消費や世代間の移転を促す施策が欠かせない。

総務省の22年の家計調査によると、2人以上の世帯のうち世帯主が65歳以上で働いている世帯の収入は月45万5千円だった。そのうち勤め先からの収入が27万7千円を占めた。

消費支出と税・社会保険料の支払いを合わせた額は35万2千円だった。黒字額は10万2千円で、それに手持ちの現金などを加えた貯蓄に充てた額は11万3千円にのぼった。12年の3万2千円から3.4倍に増えた。

世帯収入が増加

12年の統計と比べ、世帯収入も5万円あまり増えた。勤め先収入は3万円弱増え、受け取る公的年金も2万円ほど多くなった。この10年間で支出はおおむね変化がなく、収支は改善したことになる。

パートやアルバイトで働く配偶者が増えるなどして世帯収入が増えているようだ。

総務省の労働力調査によると65~69歳の就業率は12年の37.1%から21年に50.3%まで上昇した。厚生労働省は19年の健康寿命は男性で72.68歳、女性で75.38歳と見積もる。健康寿命が伸びて高齢者が働きやすい環境は整ってきた。

高齢者が長く働き社会で活躍することは望ましい。一方で65歳以上の世帯の貯蓄増に伴って個人の金融資産は高齢者に偏りつつある。

日銀の資金循環統計によると現在、家計の金融資産残高は2000兆円を上回る。そのうち家計の預貯金は1000兆円ほどになる。

総務省の全国家計構造調査や家計調査をもとに、家計の預貯金について21年時点での世帯主年齢別の保有額を推計すると、70歳以上は350兆円超、60~69歳は260兆円超となり、60歳以上で600兆円を上回る。預貯金全体に占める割合も64%に達する。

高齢世帯が貯蓄を増やそうとするのは自身の選択だが、日本経済全体でみたときに資産が動きにくくなる点が問題となる。

たとえば高齢世帯の預貯金が投資に向かう動きは鈍い。家計調査をみると、1世帯あたりの貯蓄に占める有価証券の割合は21年時点で60歳代が16%、70歳以上が17%にとどまる。普通預金や定期預金が全体の6割強を占め、10年前とほとんど変わらない。

高齢者自身の消費意欲も弱い。23年4月時点で消費者態度指数は60歳代が33.1、70歳以上が34.1で、29歳以下の39.8や30歳代の38.3を下回る。

新型コロナウイルスの感染への不安が原因との見方もある。感染症法上の位置づけの5類への移行に伴い、感染への不安を抑えながら消費を喚起できるかが注目される。

若者移転進まず

高齢者から若い世代への資産の移転もなかなか進まない。高齢化が進むなかで亡くなった高齢者の相続相手もまた比較的高い年齢層という構図になりつつある。

財務省によると財産を残して亡くなった被相続人が80歳以上だった割合は19年で72%まで高まった。相続したのは50歳以上が多いとみられる。相続した財産価額のうち有価証券と現金・預貯金は20年分で8.5兆円で、10年前の4.1兆円から倍増した。

金融資産が一定以上の高い年齢層の間で環流し続ける限り、若年層には行き渡らない。

状況を是正するには高齢者の貯蓄が消費や投資に回るような環境づくりが不可欠だ。生前贈与を促す税制の見直しや、負担できる能力が高い高齢者の資産を若年層に再分配するような税制や社会保障のあり方を考える必要がある。

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