新入社員向け決算書の読み方 株価純資産倍率 PBR
PBR、1倍割れは成長への黄色信号か 東証市場の5割超に
よくわかる企業財務④
(日経新聞 2023/04/22 朝刊記事)
「日本企業のPBR(株価純資産倍率)は低い」。最近ニュースなどで目にする機会が増えたフレーズだ。これが意味するのはズバリ、日本株に対する投資家の評価が低調ということだ。
「PBR革命にぜひ取り組んでもらう」。東京証券取引所などを運営する日本取引所グループ(JPX)の前最高経営責任者(CEO)、清田瞭氏は3月末、最後の定例会見で経営者に呼びかけた。「PBR1倍割れ」企業が東証市場(プライムとスタンダード)で5割超と、米国の5%や欧州の24%を大きく上回り、改善の余地が大きいと判断したためだ。
PBRは適正な株式価値を判断する指標で、株価を1株純資産で割って算出する。目安は1倍だ。1倍は会社解散時に株価と同等の純資産が株主に戻ってくる、つまり、純資産の価値通りの評価を得られている状態を示す。PBR1倍超は解散時に株価に見合う資産が戻ってこない恐れがあるが、成長性が評価されている状態にある。
逆に1倍割れは成長性が認められていないことが多い。「解散したほうがまし」と考える投資家すらいる。潜在的な成長力があれば「割安株」として見直されることもあるが、本来なら1倍割れは異常事態のため注意が必要だ。
東証は1倍割れ企業が日本で多いことを危惧。3月に市場運営者自らが、企業に改善策の開示や実行を求めるという異例の行動を起こした。
PBRはどうしたら上げられるのか。端的にいえば、分子の株価を上げるか、分母の1株純資産を減らすかだ。
PBRが長らく0.5〜0.8倍台で推移していた大日本印刷は3月、上限1000億円の自社株買いの実施を公表した。自社株買いには純資産とほぼ同義である自己資本を減らす効果がある。大日印の場合、上限まで買うと2022年末ベースの純資産は単純計算で1割弱減る。
自己資本の減少は投資家が注目する自己資本利益率(ROE)の改善にもつながる。同発表で株価は急騰し、PBRは一時0.94倍に上昇。純資産が実際に減ればさらに上向く可能性がある。
PBRが低いと、株主から思わぬ圧力を受ける場合もある。例えば宝飾品大手のナガホリ。今年6月の株主総会では、現在の筆頭株主である投資会社から取締役4人の選任に関する株主提案を受けている。投資会社に株を買い進められた当時のPBRは0.3倍前後だった。
株価指標には、株価を1株純利益(EPS)と比較するPER(株価収益率)、1株配当を株価で割って算出する配当利回りなどもある。損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)などの財務諸表も組み合わせると、株価の現状や今後をより分析しやすくなる。