新入社員向け決算書の読み方 貸借対照表 BS
貸借対照表、財務を確認 楽天はモバイル事業で負債拡大
よくわかる企業財務②
(日経新聞 2023/04/20 朝刊記事)
企業がある一時点でどう資金を調達し、土地や機械などの資産をどのくらい持っているのかを示したのが貸借対照表(バランスシート、BS)だ。それぞれ金額ベースで示されており、企業が安定的に事業活動を続けられるのかなど財務の安定性の把握に役立つ。
「かなりの資金を楽天モバイル事業に投入し、金融事業も巨大になった」。2月の2022年12月期の決算説明会で楽天グループの三木谷浩史会長兼社長は有利子負債が膨らんだ背景を説明し、負債削減を急ぐ構えを示した。モバイル事業で携帯電話の通信網をつくる基地局関連などに年間3000億円規模の設備投資をしてきた。
有利子負債とは返済義務のあるお金の「負債」のなかで金利を支払う必要があり、少ない方が健全性が高いとされる。銀行からの借入金や社債などが当てはまる。
楽天グループは設備投資を主に社債発行や借り入れで賄い、22年12月末時点の金融事業を除く有利子負債は前年比3割増の1兆7607億円まで膨らんだ。携帯電話事業に本格参入する前の20年3月末(9854億円)からは8割増えた。
貸借対照表の読み方の解説に戻ろう。資金の調達元を示す「資本」を右側に、資金を運用して得た「資産」を左側に書く。資産には現預金のほか、工場やソフトウエアなどが計上される。資本は負債と資本金や過去の利益が積み上がった「純資産」に分かれる。有利子負債は負債の部に計上される。右側の負債・純資産の合計額と、左側の資産の額は一致する。
純資産は通常プラスとなるが、赤字が続いて蓄えを食い潰すとマイナスになる。負債が資産より多くなり、すべての資産を使っても借金が返済できない。企業の存続が難しくなる危機的な「債務超過」の状況だ。日本では1年以内に解消できない場合、東京証券取引所はその企業を上場廃止とし、金融機関の融資が受けにくくなる。
財務状態を確認する代表的な指標が総資本のうちの自己資本の割合を指す「自己資本比率」だ。金融機関が融資の審査をする時に重視する。値が低く、財務の健全性が低いと判断されると融資を受けられない可能性もある。
設備投資が重荷となり、楽天グループの22年12月期の連結決算(国際会計基準)は4期連続の最終赤字だった。過去の利益の蓄積が減り、22年12月末の自己資本は前年比26%減の8137億円だった。自己資本比率は4%と前年から2ポイント以上低下した。財務体質の悪化で、同社への格下げが相次いだ。米格付け会社S&Pグローバルは22年12月に同社の長期発行体格付けを「ダブルB」に1段階引き下げた。
楽天グループは楽天銀行や楽天証券ホールディングスの上場で資金調達し、有利子負債残高の削減を急ぐ方針だ。楽天銀行は21日に東証プライム市場へ上場する。
他にも貸借対照表を使った分析手法は様々ある。有利子負債が自己資本の何倍に当たるかの「負債資本倍率(デットエクイティレシオ)」は利払い負担の増加に耐えられるかを示す。値が小さいほど財務の安全性が高いと判断する。損益計算書に計上される純利益を総資産で割る総資産利益率(ROA)を見れば経営の効率性が分かる。