JSTの大学10兆円ファンドに10校申請
東大、脱炭素を強化 東北大は量子技術
10兆円ファンド、10大学申請
(日経新聞 2023/04/05 朝刊記事)
文部科学省は4日、政府が創設した10兆円の「大学ファンド」の支援対象に10校が申請したと発表した。東京大は脱炭素、東北大は量子技術などの研究に力を入れる計画だ。各大学は認定によって成長分野を強化し、国際競争力を高める狙いがある。
永岡桂子文科相は4日の記者会見で「多くの申請があり、大学ファンドへの大きな期待を感じる」と述べた。文科省幹部は「世界と肩を並べるハードルは高く、申請は5校程度と見込んでいた。競争が大学全体の改革に波及してほしい」と期待する。
大学ファンドは公募で選んだ数校を「国際卓越研究大学」と認定し、株式や債券の運用益で助成する。運用益の目標は年3000億円で、仮に5校に分配すれば年間の支援額は1校あたり600億円になる。助成の期間は最長で25年間とした。
公募期限の3月末までに申請したのは国立が東京科学大(東京工業大と東京医科歯科大が2024年度中をめどに統合)、名古屋大、京大、東大、筑波大、九州大、東北大、大阪大の8校、私立は早大と東京理科大の2校だった。
東大は21年度の収入が国からの運営費交付金や授業料などで2887億円だった。認定校になれば事務体制を拡充。脱炭素やバイオの研究成果につなげ、支援するスタートアップ企業の数を10年後をめどに10倍に増やすという。「東大の強みである物理や天文学とともにレベルを高めたい」(太田邦史副学長)
東北大は次世代放射光施設「ナノテラス」を拠点に半導体や量子、材料科学に力を入れる。東京科学大は統合する両大学の強みを生かした「医療工学」による高齢化社会の課題解決を掲げる。
東京理科大は「未来都市」「未来生活」に関する拠点を創設し、分野横断型の研究を発展。データサイエンスを基盤とした都市防災や先端医療などに注力する。
文科省は強化する分野の具体例として人工知能(AI)やバイオ、量子技術などを示している。応募した各大学も経済成長につながる理系分野が念頭にあるとみられる。
審査は文科省が設ける専門家組織が担う。23年秋にも選ばれる最初の認定校は1~2校にとどまるとの見方もある。これまでの研究実績だけでなく「意欲的な財務戦略」を重視。認定校は大学の支出額ベースで年平均3%程度の規模拡大が求められる。
ポイントになりそうなのが外部資金の獲得方法だ。海外の有力大は独自基金の運用益を活用し、成長分野に投資している。米ハーバード大は4.5兆円規模の基金があり、収入の4割を運用益が占める。
日本では比較的規模の大きい慶応大でも20年度の独自基金は870億円。大学ファンドによる助成を成果につなげ、外部資金を呼び込む好循環を実現する必要がある。
日本の研究力低下は深刻さを増す。文科省科学技術・学術政策研究所によると、他の論文に引用される注目度の高い論文数は1998~2000年は世界4位だったが、18~20年は中国やインドに抜かれ12位に落ちた。デジタルやAIなど成長分野での出遅れは大きく、認定校を中心に挽回できるかが問われる。
▼大学ファンド 国内トップクラスの大学を支援するため科学技術振興機構(JST)に設けられ、財政投融資を主な財源とする。運用は外部の専門機関に委託する。研究力を高め、技術革新を強化する狙いで2020年12月の追加経済対策に盛り込まれた。
助成金は翌年度への繰り越しが可能で、強化計画の進捗状況は文部科学省に毎年報告する。6〜10年ごとに支援継続の可否が評価され、巨額の助成に見合った成果が得られていないと判断されれば支援が打ち切られる。