EVA と ROIC

いまどきEVA一本やりで経営判断を行ってきたことにまず驚いた…

EVA：Economic Value Added、経済的付加価値
EVA＝税引き後営業利益（NOPAT）－株主や債権者の要求リターンである資本コスト
プラスであれば価値を生み出し、マイナスなら価値を毀損していることを示す

ROIC：Return On Invested Capital、投下資本利益率。
企業が事業活動のために投じた資金を使って、どれだけ利益を生み出したかを示す指標
ROIC＝（営業利益×（1－実効税率））÷（株主資本＋有利子負債）

ROICとEVAとは率で出すか金額で出すかの違いが大きく、基本的な考え方は同じだ

花王、背水のEVA経営　原材料高・資本コスト増重荷
ROIC併用、改革急ぐ

（日経新聞　2023/03/04　朝刊記事）

花王が苦境に立たされている。2022年12月期（国際会計基準）の連結純利益は860億円と前の期に比べて22%減り、期初の増益予想を4年連続で達成できなかった。原材料高の価格転嫁が遅れた。看板だったEVA（経済的付加価値）の経営指標の運用を見直しROIC（投下資本利益率）と併用にするなど聖域を設けず改革に乗り出すが、成長軌道を取り戻せるか見通しにくい。

「（4期連続の計画未達に対して）責任を深く感じている。経営改善を進めてきたが経営を取り巻く変化に対して改革のスピードが追いついていない」。2月2日の決算説明会で長谷部佳宏社長はこう述べた。経営責任を明確にするため、自身の月額基本報酬の30%を3カ月間返納する。

値上げで補えず

落ち込みが鮮明なのがEVAだ。前期は前の期比67%減の147億円と過去10年で最低水準だ。EVAは税引き後営業利益（NOPAT）から株主や債権者の要求リターンである資本コストを引いて求め、プラスであれば価値を生み出し、マイナスなら価値を毀損していることを示す。

悪化した要因はまず、NOPATが前の期より269億円減ったことだ。洗剤や紙おむつなどの値上げ効果が105億円にとどまり、原材料高による消費者向け製品の減益要因（350億円）を補えなかった。

資本コストが36億円増えたことも要因だ。製品在庫など棚卸し資産や生産設備など固定資産が増えたが、それに見合った収益を得られていない。22年12月期の棚卸し資産回転率は6.13回と17年12月期よりも2.40回、固定資産回転率は2.70回と1.19回それぞれ低下した。

成長軌道を取り戻すため、聖域を設けず改革に乗り出す。その一つがROICの導入だ。各事業の位置づけと目指す方向を定め、ポートフォリオ管理を徹底。事業ごとに算出したROICを基に採算管理し、現場に改善を促す。「資本コストを意識して在庫削減や商品開発などに取り組むよう、社員一人ひとりに浸透させる」（同社）

味の素の知見

ROICは事業活動に投じた資金を使ってどれだけ利益を上げたかを示す。EVAとは率で出すか金額で出すかの違いが大きく、基本的な考え方は同じだ。とりわけ花王は1999年に日本で初めて導入したEVAにこだわってきた。

それでも花王がEVA一本やりからROICとのハイブリッド型に修正するのは、事業をきめ細かく運営する必要に迫られているためだ。ROICは要素ごとに分解でき、EVAよりも現場に落とし込んで運用しやすい。根来昌一専務執行役員は「事業が広がるなかで事業別管理の弱さが反省点だった。事業別ROICを日々のマネジメントに導入し、資本コストを抑制してEVA改善を目指したい」と話す。

人事でも新しい風を取り入れる。3月24日付で社外取締役に味の素の西井孝明前社長を招く。西井氏は味の素でROICを活用した構造改革を進めた。花王は西井氏について「味の素の企業文化変革と持続的な企業価値向上にリーダーシップを発揮された。（花王の）事業別ROICの活用でも知見に基づく助言・監督を期待している」と話す。

当面の課題は値上げの浸透と不採算事業の構造改革だ。23年12月期は原材料高で120億円のコスト増を見込む。前期に国内のコンシューマープロダクツ事業で18%の品目にとどまっていた値上げ対象を、今期はすべての品目に拡大する。「小さい値上げ幅で広範囲に実施することで生活防衛意識が高まる市場に受け入れられる」（根来専務執行役員）ようにする。

不振の紙おむつ事業「メリーズ」は抜本的に見直す。長谷部社長は「過去に花王の成長をけん引した分野だったが、今後のあり方を考え今期中に決着をつける」と強調する。大和証券の広住勝朗氏は事業別ROICの導入で「紙おむつなど不採算事業の撤退基準が明確になり改革が進むことを期待している」と話す。

株価は低迷している。改革を着実に進められるか、市場は見極めようとしている。