脱炭素発電の切り札「核融合」と日本の状況
核融合の特徴は、
- 水素とトリチウムの燃料1グラムで石油8トンを燃やしたときと同等のエネルギー
- 資源量も実質的に無尽蔵
- 緊急時に運転がすぐ止められるので安全性が高い(v.s. 原子力発電)
- 高レベル放射性廃棄物にあたるものが生じない(v.s. 原子力発電)
「磁場方式」:燃料である水素のプラズマ(電離気体)を磁場で閉じ込める
「慣性方式」:レーザーなどの作用で閉じ込める
があるが、実用化に向けては磁場方式が先行している。
「ITER」 :日米欧ロ韓中印の7極協力で仏南部で建設中の国際熱核融合実験炉
「CFETR」:ITERよりも一回り規模が大きく発電能力を備えた中国の原型炉、2030年代の運転開始を目指している
核融合の特許、中国首位 競争力調査
「画期的成果」の米は2位、日本4位 「脱炭素発電」に期待
(日経新聞 2023/02/23 朝刊記事)
次世代のエネルギー技術として2040年代以降の実用化が期待される核融合の研究で中国の存在感が高まっている。有力な特許を集計すると中国が首位で、米国(2位)と日本(4位)を上回った。核融合は再生可能エネルギーとともに脱炭素の切り札になる可能性もある。22年末には米国で実用化に向けた大きな進展があった。未来のエネルギー源を巡る国際競争が激しくなっている。
核融合は太陽と同じ反応を再現することから「地上の太陽」と呼ばれる。水素の仲間同士の原子核がぶつかる際に発生するエネルギーを発電に利用する。理論上は1グラムの燃料から石油8トン分のエネルギーが出る。
発電時に二酸化炭素(CO2)を出さず、燃料の供給をやめれば反応が止まるため原子力発電に比べて安全上のリスクも低いとされる。燃料となる重水素やトリチウムは海水などから生産できることもあり、実用化できればエネルギー源を一変させる可能性もある。
22年12月には発生したエネルギーが投入量を上回る「純増」を初めて実験で達成したと米国が発表。日米中などが参加する国際熱核融合実験炉(ITER)など国際プロジェクトも進んでいる。
調査会社のアスタミューゼ(東京・千代田)が日米欧中など30カ国・地域で出願された関連特許を集計した。11~22年9月までに公開された1133件について実現性や権利の残存期間など特許の競争力を点数化(スコア)して順位付けした。
出願している企業や研究機関の国籍別では中国が首位(出願件数も首位)だった。15年以降に有力な特許を大幅に増やして米国を逆転した。中国科学院が持つ核融合炉の内壁に使う特殊なセラミック複合材料の技術は企業や研究機関など組織別の上位20社の特許の中で最も評価が高かった。
核融合は炉などの部品を超高温にしても壊れないように冷やしたり、狙った場所に原子核をぶつけたりする必要があるなど多くの技術を組み合わせないと実現できない。中国は国全体の特許が炉など同じ分野でつながっていることが多く、実用性の高い特許が多いのが特徴だ。組織別でも中国科学院が2位につけた。
2位は米国(出願件数も2位)だった。組織別の20位以内に最多の7社・機関が入った。スタートアップなど民間主導で技術開発が進む。12位のヘリオン・エナジーは核融合の反応から電気を効率よく得る技術などの特許を持つ。グーグルも18位につけ、核融合の反応速度を高めるための装置や構造について研究しているようだ。
米国は00年代まで特許数などで他国を圧倒していた。近年では中国に急速に追い上げられている。バイデン政権は民間企業の商用化を後押しするため22年9月に5000万ドル(約67億円)の資金支援を実施する方針を打ち出すなど、国家として技術開発の支援体制を強化している。
日本は4位だった。浜松ホトニクスが組織別で5位、トヨタ自動車が7位につけた。浜ホトは米国で昨年末に純増を達成したレーザーを水素の仲間の原子核に照射する技術に強い。レーザーを制御し、核融合に不可欠なエネルギーの密度を高める特許の競争力が高い。トヨタは関連特許13件のすべてが浜ホトとの共同出願で、浜ホトと組んで研究を進めている。
アスタミューゼには日本経済新聞社が出資している。
核融合、発電実証も中国先行へ
国際実験超える能力、日本に問われる本気度
(日経新聞 2023/02/23 朝刊記事)
地球温暖化問題を根本解決する可能性を秘めた核融合技術で、後発だった中国が急速に追い上げていることが特許出願傾向から明らかになった。中国は日米欧などと核融合実験炉の国際プロジェクトに参加するとともに、発電実証を目的にした開発計画でも先行する。日本も発電炉開発を急ぐことが求められる。
磁場で閉じ込め
核融合は複数の方式があり、燃料である水素のプラズマ(電離気体)を磁場で閉じ込める「磁場方式」と、レーザーなどの作用で閉じ込める「慣性方式」に大別される。米エネルギー省傘下の研究所が2022年12月に「エネルギーの純増」という成果を発表したのは慣性方式の代表格であるレーザー核融合の実験施設だ。
ただ実用化に向けては磁場方式が大きく先行している。今回の米研究所の発表内容に相当する成果は、四半世紀前の1997年に当時の日本の実験装置「JT-60U」が重水素を使った実験で理論上は達成済み。磁場方式の核融合は、発電を実現するためのエンジニアリング開発に重点が移っている。
その象徴が日米欧ロ韓中印の7極協力で仏南部で建設中の国際熱核融合実験炉(ITER)だ。2025年に完成し、発電は行わないものの、5万キロワットの加熱で10倍の50万キロワットの熱出力を得るのを目標にしている。
ITERとは別に、存在感を高めているのが米コモンウェルス・フュージョン・システムズ、英トカマク・エナジーなど核融合スタートアップだ。ITERと同じ方式の小型炉を目指しているところが多いが、専門家の間では「高性能プラズマなど特定の要素技術を開発している段階。小型炉がITERより先に行くシナリオは考えにくい」(岡野邦彦慶応義塾大学訪問教授)との見方が多い。
30年代運転目標
ITERの参加国・地域は国際プロジェクトで得た知見をもとに、次の発電プラントの開発にそれぞれ取り組むが、最も積極的なのが中国だ。ITERよりも一回り規模が大きく発電能力を備えた原型炉「CFETR」の2030年代の運転開始を目指している。
1月初め、ITER機構長のピエトロ・バラバスキ氏はメディアに対し、ITERのスケジュールが年単位で遅れる見通しを示した。もしそうなれば、日本のようにITERの進捗に連動した現状の国内計画のままだと、中国の先行を許す可能性が一層高くなる。
核融合発電はエネルギー事情を大きく変える可能性を秘める。重水素とトリチウムの燃料1グラムで石油8トンを燃やしたときと同等のエネルギーを生み出す。資源量も実質的に無尽蔵とされる。
発電時に二酸化炭素(CO2)を出さないのは原子力発電と同様だが、緊急時に運転がすぐ止められるので安全性が高い。原発から発生する高レベル放射性廃棄物にあたるものが核融合発電では生じないのも利点だ。
日本はかつて欧州とITERの立地を争ったほど、核融合研究ではトップクラスの実力がある。内閣府の核融合戦略有識者会議が新たな核融合の開発計画を近くまとめるが、原型炉開発などのスケジュール前倒しを明確に打ち出せるかどうか。日本のグリーンイノベーションの本気度が試される。