ポイント経済圏 頂上決戦

・ネット通販を軸に経済圏を広げてきた「楽天」。
・コロナ給付金を活用した自治体との追加分ポイントキャンペーンによる実店舗での少額決済が強みの「PayPay」。
・「dポイント」とスマホ決済「d払い」を利用できる店舗を448万カ所に増やしているNTTドコモ。
・カルチュア・コンビニエンス・クラブの「Tポイント」は存在感が低下し、三井住友フィナンシャルグループの「Vポイント」と24年春をメドに統合する。

PayPayの今後のカギは実店舗で培った強さをネットにも広げられるか。
ZHD・ヤフーと3社合併するLINEとの連携を強化し、LINEのSNS機能を活用して個人間送金の利用を促したり、販促したりするなどシナジーが期待される。

PayPay、ポイント発行で楽天猛追
LINEとの連携カギに

(日経新聞 2023/02/16 朝刊記事)

スマートフォン決済のPayPayが、ポイントを活用して顧客を囲い込む「経済圏」づくりで楽天グループを猛追している。2023年3月期の年間ポイント発行額が約6000億円相当になる見込みで、首位の楽天に迫る。ネット通販を軸に経済圏を広げてきた楽天に対し、PayPayは実店舗での少額決済が強みだ。ポイントを巡る競争が激しさを増すなか、同じグループにありZホールディングス(ZHD)と統合する国内最大のSNS(交流サイト)、LINEとの連携が今後の成長のカギを握る。

「24年3月期にポイント発行額で首位を目指す」――。PayPayの中山一郎社長はそう公言する。一方、楽天は14日の決算で22年12月期の年間発行額が6200億円相当(前年同期は5300億円)になったと発表している。PayPayが「楽天超え」を目指すのは、ポイント経済圏の優劣がスマホ決済のみならず、ソフトバンクとZHDの成長を左右しかねないからだ。

PayPayは18年にサービスを開始した。コンビニエンスストアなどの大手小売りに加え、飲食など中小・個人店にも広がっている。利用可能な拠点数は398万(22年12月末)で利用者数は5400万人を超えた。

足元での成長をけん引するのが地方自治体との協業だ。キャンペーン期間に対象地域の店舗でPayPayを使えば、購入金額の0.5〜2%という通常のポイント還元に加え、10〜40%のポイントが追加される。国による自治体へのコロナ給付金などが追加分のポイント原資で、20年7月ごろから本格展開を始めた。

自治体とのキャンペーン回数は延べ800回(実施予定含む)を超え、9割近くでポイントに充てた自治体予算を全て消化。全国的に新規利用者の獲得につながっている。自治体のキャンペーンをきっかけにPayPayを導入する地方の個人商店も多いという。

一方、先行する楽天の発行額も拡大している。02年からの累計発行額は3兆3000億円を超えた。楽天はクレジットカードや携帯電話など自社サービスを複数使うとネット通販「楽天市場」などのポイント還元率が高まる仕組みで顧客の囲い込みを進めている。

楽天によると楽天モバイルの携帯契約者のネット通販購入額は契約前と比べて年間49%上昇した。楽天グループのサービスを利用する月間3900万人を自社サービス内で回遊させネット通販の収益性を高めている。

こうしたポイント経済圏づくりの競争は激しさを増している。NTTドコモは「dポイント」とスマホ決済「d払い」を利用できる店舗を448万カ所に増やしている。再編の波も押し寄せ始めた。草分け的存在だったカルチュア・コンビニエンス・クラブの「Tポイント」はここ数年、加盟店が減少するなど存在感が低下し、三井住友フィナンシャルグループの「Vポイント」と24年春をメドに統合する。

台風の目となったPayPayだが、業績は赤字が続く。22年3月期は600億円の最終赤字だった。赤字幅は縮小傾向だが、利用者拡大を優先しておりポイント還元を含む販促などへの投資が重荷となっている。

ソフトバンクの宮川潤一社長は「目先の黒字化を急ぐよりも、将来の成長への種まきをすることが重要」と強調する。PayPayを使って傘下のサービスで連携を強化していく構想を描く。既にソフトバンクの携帯事業などと共同で販促を展開している。

今後のカギは実店舗で培った強さをネットにも広げられるかだ。22年5月にはアマゾンジャパンのネット通販でもPayPayが利用可能となった。焦点となるのがLINEとの連携だ。LINEの親会社ZHDは2日、23年度中にヤフーと3社合併する方針を発表した。ZHDもPayPayも親会社はともにソフトバンクだ。

LINEは9000万人超の利用者を抱える。PayPayとIDを連携させるなどして利用者を送客し合うことが想定される。ZHDの川辺健太郎社長は「PayPayの利用者を9000万人まで引き上げられる」とみる。

ZHDは21年3月にLINEと経営統合し、ヤフーなど傘下のネットサービスの底上げを狙った経緯がある。だが融合は進まず広告やネット通販などが伸び悩む。親会社のソフトバンクからは「そろそろ結果を出すべきだ」(宮川氏)との声が強まっている。

PayPayとLINEの連携を強化し、ポイント経済圏をネット空間に拡大してZHDをテコ入れすることが一つの解となりそうだ。LINEのSNS機能を活用して個人間送金の利用を促したり、販促したりすることが可能になるとみられる。ヤフーとLINE、PayPayで、PayPayのポイントと交換できる新たな共通マイルのサービスを23年3月から始めるなど連携を強めている。

ZHDを巻き込んだLINEとの連携によってPayPayの成長をネットでも加速させられるか。楽天との「頂上対決」が始まる。

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