ソニー、新カルテット運営
最大の注目点は副社長人事。
ひとりは、御供 CSO(最高戦略責任者)。不在だったCSO役職の復活。エンジニアでもない財務でもない知財IPのエキスパート。
もうひとりは、北野 CTO(最高技術責任者)。人工知能(AI)で世界的に有名。
「クリエイティビティー」と「テクノロジー」の力のかけ算の経営をの真価が試される。
ソニーG、戦略責任者復活 パーパス経営へ知財が要
コンテンツ創出・活用、一段と
(日経新聞 2023/02/04 朝刊記事)
ソニーグループは2日、十時裕樹副社長兼最高財務責任者(CFO)が4月1日付で社長兼最高執行責任者(COO)兼CFOに昇格する人事を発表した。同時に公表した新しい役員人事をつぶさに見ると、吉田憲一郎会長兼社長最高経営責任者(CEO)が最も重視するパーパス(存在意義)経営の実現に向けた布陣が整ったことがうかがえる。要は知的財産(IP)だ。
「最大の注目点は副社長人事ではないか」。2日、あるソニー関係者はつぶやいた。御供(みとも)俊元執行役専務が4月から副社長CSO(チーフ・ストラテジー・オフィサー、最高戦略責任者)に就くことだ。
不在だったCSOの役職を復活させる。CSOはこれまでも経営に「新風」を吹かせたい時に用いる要職だ。2013年にソネットからソニーに復帰した吉田憲一郎氏も当初はCSOの立場だった。十時氏にも一時期この役職が付いた。
御供氏は1985年のソニー入社以来、40年近く知財部門に携わるエキスパートだ。スタートアップへの投資戦略の責任者でもある。そんな知財を知り尽くした人物が副社長として戦略責任者を担うことになる。
エンジニアでもない財務でもない知財の専門家が、グループ戦略の司令塔になる。この人事から十時体制ではグループ横断の連携に一段と踏み込む考えが読み取れる。
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」。ソニーが最も重視するパーパスだ。クリエーターの創造力の産物であるコンテンツ、創作を支えるテクノロジーなど、ソニーが抱えるIPを生かすも殺すも戦略次第となる。
ソニーはクリエーターに寄り添い、創作活動をテクノロジーで支援したり、創作物を管理したりすることで、継続的に収益を稼ぐ「リカーリングモデル」をグループ全体で推し進めている。
成長領域とするモビリティーもそうだ。ソニーが目指すのは電気自動車(EV)をつくる「車屋」ではない。車内を「感動空間」と位置づけてそこで映像や音楽、ゲームなどの新たなエンタメ体験をつくり、世界の自動車に提供していくことが目的にある。提携先はホンダだけに限らない可能性もある。重要なのはどれだけ良質なコンテンツのIPを抱え、提供先を広げるかになる。
IPを担う御供氏のCSO就任で、パーパスの実行力を高める布陣は整う。先行して22年には人工知能(AI)で世界的に有名な北野宏明執行役専務が最高技術責任者(CTO)に就いた。
吉田氏と十時氏の2トップの下、クリエイティビティーとテクノロジーの力を左右する御供氏と北野氏の両翼が権限を持ち、カルテット体制でグループ横断の連携を強めていくシナリオだ。
「GAFAM」に象徴される巨大プラットフォーマーに真正面から対抗するのは容易ではない。プラットフォームは時代によって栄枯盛衰が繰り返されるが、良質なコンテンツはいつの時代も求められ続ける。GAFAMと異なる土俵で強力な成長モデルを築けるか。新たな経営体制ではクリエイティビティーとテクノロジーの力のかけ算の経営を掲げるソニーの真価が試される。