今日の日経新聞ピックアップ(2023/1/26)
- CO2貯留を実用化 政府30年度目標
伊藤忠や出光、3連合始動 候補地・コストが課題
・二酸化炭素(CO2)を回収して地下に貯留する技術の2030年度の実用化に官民が動き出す。伊藤忠商事や出光興産、ENEOSなど3つの企業連合が事業化に向けた調査検討に入る。経済産業省は30年度に石炭火力発電所3基分のCO2排出量に相当する最大年1200万トンの貯留をめざす。50年の排出実質ゼロに欠かせない技術として法整備や補助金で支援する。
・CO2の地下貯留は「CCS」と呼ぶ。海外では実用化済みで、日本は北海道苫小牧市で試験的に貯留した例がある。
・伊藤忠は三菱重工業やINPEX、大成建設と船でCO2を国内貯留地まで運ぶ事業の共同研究を始める。出光興産は北海道電力や石油資源開発(JAPEX)と組み、苫小牧を拠点にCCSやCO2再利用事業の検討に入る。
・ENEOSはJパワーとグループ会社のJX石油開発との共同で調査会社を2月に設立する方針だ。30年の貯留開始をめざして西日本で適地の選定準備に入る。ENEOSやJパワーの製油所や発電所から出るCO2を貯留する構想だ。
・環境整備として経産省はCCS事業法を新法として制定する方針だ。次の国会での法案提出を想定する。経産相が貯留を担う企業に事業の許可を出す。CO2が漏れるなどした場合に企業が際限なく責任を負うことがない仕組みとする。貯留後のモニタリングの年限も規定する考えだ。
・経産省は有識者やエネルギー関連企業で作る検討会を26日に開き、実用化の工程表をまとめる。30年度に600万~1200万トンの貯留を始める目標だ。通常の石炭火力1基で年40億キロワット時を発電する場合、CO2を370万トン排出する。貯留目標量は2~3基分に相当する。
・大規模化やコスト低減につながる3~5プロジェクトを選び、23年度中に支援を始める。欧米では初期投資から操業後まで政府が補助金や税額控除で後押ししている。経産省も同水準の支援をめざす。各企業連合の構想も有力な候補になる。
・日本のCO2を海外に運んで貯留する事業も推進する。東南アジアなどを念頭に交渉を進める。石油を取り出した後の地層にCO2を入れることができるため、産油国は適地を見つけやすい。
・油田などが乏しい日本は適地探しから始める必要がある。経産省によるとこれまでの調査で国内に適した地層を11地点で見つけ、160億トン分の貯留が可能とみる。掘削工事が必要なうえ、漏洩がないか数十年間、監視する。地域住民の理解を得る作業が欠かせない。
・CCSは他の排出削減策より割高で、現時点では経済合理性に乏しい。地球環境産業技術研究機構の試算では、回収・輸送・貯留のコストは1トンあたり1万3000~2万円ほどかかる。欧州連合(EU)の排出量取引の相場より高い。経産省は50年までにコストを現状の6割以下にするよう技術開発を促す。
・鉄鋼業や石油化学業など一定のCO2排出が避けられない産業は残る見込みで、CCSなどで実質的に排出ゼロにすることが不可欠だ。
CO2の地下貯留 米欧先行の排出削減技術
▽…二酸化炭素(CO2)を回収し貯蔵する技術は、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と呼ばれる。大気中へのCO2放出を回避し温暖化対策になる。CO2を通さない地層の下の隙間が多い場所まで井戸を掘り、気体のままCO2を封入する。経済産業省が北海道苫小牧市で実施した大規模試験事業では2019年までに30万トンを貯留した。
▽…米国は原油が埋まる地層にCO2を注入して原油を押し出し、回収率を高める手法で実績をあげてきた。世界で進行中の大規模プロジェクトは約200件あり、このうち約60件が22年に新たに発表された。欧米を中心に官民で急ピッチで事業計画が進む。日本は後を追う状況だ。
▽…水素、アンモニアの活用などで排出削減を進めても、CO2発生を完全になくすのは難しい産業もある。回収して地下貯留することで実質ゼロを目指す。今は高コストでも脱炭素実現の最終段階になるほど必要性は高まる。経産省は50年時点の想定で年1.2億~2.4億トンの貯留量になるとの目安を示している。2.4億トンの貯留には専用の井戸480本分の掘削が必要で少なくとも2.4兆円の費用がかかる。 - サイバー、10~12月最終赤字50億円
アベマW杯配信投資重く 視聴者倍に、定着焦点
・サイバーエージェントが25日発表した2022年10~12月期の連結最終損益は50億円の赤字だった。四半期で過去最大だ。同社のインターネットTV「ABEMA(アベマ)」はサッカー・ワールドカップ(W杯)の無料配信で週間利用者を2倍超の約3400万人に増やした。だが、同サービスを含むメディア事業の営業損益は93億円の赤字で業績の足を引っ張った。巨額の放映権に先行投資して広告収入や課金サービスの拡大を目指すものの、W杯目当ての利用者を定着させられるかが焦点となる。
・「アベマの潜在的な価値は大きく向上した」。サイバーエージェントの藤田晋社長はW杯の効果をこう評価した。アベマは22年11~12月にW杯カタール大会の全試合を無料配信した。それまで1500万人前後で推移していた週間利用者数はW杯期間中に過去最高の3409万人と2倍超に跳ね上がった。日本代表がグループリーグを戦った3日間の累計視聴者数は4000万人を超えた。
・動画配信サービスの勢力図にも影響を及ぼした。データ分析のヴァリューズ(東京・港)によると、月間でもアベマの利用者数は12月にW杯前の約2倍となった。それまで首位だったアマゾンジャパンの「プライムビデオ」や民放テレビ各社の「TVer(ティーバー)」を上回った。
・一方、スポーツ専門配信のDAZN(ダゾーン)は同期間に約7割減らした。ヴァリューズの担当者は「アベマが他の動画配信からスポーツファンを奪った」と分析する。
・だが、22年10~12月期のアベマを含むメディア事業の営業損益は93億円の赤字で四半期では16年のアベマ開局以来最大となった。金額は非開示だが「70億~80億円程度」(国内証券)とみられる放映権料が重荷となった。
・アベマへの巨額投資をネット広告配信事業やスマートフォン向けゲーム事業が支えきれなかった。連結では売上高が前年同期比2%減の1675億円、営業損益は12億円の赤字だった。ネット広告事業の売上高は956億円と9%増となったが、事業拡大に備えた人員増加などでコストがかさみ営業利益は13%減の50億円となった。ゲーム事業は主力タイトルの人気が一巡し、売上高は30%減の409億円、営業利益は70%減の52億円となった。
・アベマの収益源のひとつは広告だ。メディア事業の売上高はW杯期間に広告掲載による収入が増えたことで34%増の334億円となった。赤字の拡大は想定済みで、利用者を増やし広告単価を高めるための先行投資との位置づけだ。藤田社長は「あくまで一過性のもの。第2四半期以降は通常に戻る」と話す。
・ただ、W杯目当ての利用者をどこまで維持できるかは未知数だ。W杯開催後の週間利用者数はピークから5割弱減り、1800万人程度で推移している。藤田社長は「当初目標を上回って利用者が残ってくれている」と話す。岡三証券の奥村裕介氏は「2000万人以上を維持できるかに注目している」と指摘する。
・サイバーは番組ラインアップの拡充を進める。W杯では視聴者の過半数を35歳以上が占めた。これまでは若年層を狙ったバラエティー番組などが中心だったが、22年11月には80年代など一昔前のアニメを配信するチャンネルを開設。担当者は「W杯で獲得した利用者層をつなぎ留める狙いだ」と話す。W杯に先行してサッカーの英プレミアリーグの配信も始めている。
・収益源の多様化も急ぐ。会員数は非開示だが、月額960円を払えば限定コンテンツの視聴などができるサブスクリプション(定額課金)サービスはW杯を機に「順調に伸びている」(サイバー)という。格闘技の試合など番組ごとに視聴チケットを販売する「ペイ・パー・ビュー(PPV)」や、競輪・オートレースの車券販売サービス「WINTICKET(ウィンチケット)」も手掛ける。アベマとウィンチケットなど周辺事業の売上高は43%増の217億円に伸長した。
・藤田社長は「今回の大会の成功が業績につながるのはこれから」と、アベマ黒字化の見通しは示していない。22年11月にはユーロ円建て新株予約権付社債(転換社債=CB)の発行で400億円を調達すると発表。アベマへの先行投資を続ける構えだ。
・Zホールディングス傘下の「GYAO!」が3月末でのサービス終了を発表するなど動画配信は消耗戦の様相を呈している。先行投資を続けつつ、利用者を定着させる仕組みも同時に確立することが必要になっている。