「常時接続」時代のPDCA

この興味深い記事を見て、今まで登場人物の名前くらいしか知らなかった名作童話「鏡の国のアリス」を図書館で借りて読んでみることにしました!

今日の日経新聞ピックアップ(2023/1/24) Deep Insight

2023年の半導体の世界出荷額は業界の見通しによると4年ぶりに前年水準割れになるという。品不足が一部で続くが、IT(情報技術)機器やデータセンター向けの落ち込みが大きい。

物価高や金利上昇で需要が縮小するのに加え、弱気になった経営者がDX(デジタルトランスフォーメーション)投資を手控える動きも広がるようだ。

だが、短期の予測はさておき、経営のデジタル化はこれからが本番であり、コンピューティング(計算)能力を拡張する投資も早晩、増加に転じるのは間違いない。

ダイキン工業は空調を遠隔管理する米ITサービス企業をこのほど買収し、ANAホールディングスは現実と仮想空間がシンクロする旅行事業を近くはじめる。トヨタ自動車は7年も前から、自前のデータセンターを構えるべく投資を続けている。

日経新聞(2023/1/24)

製造・サービス企業が情報基盤のクラウドを使う機会は猛烈な勢いで増え、例えばトヨタは18年以降、乗用車のすべてをインターネットとつながるコネクテッドカーにしている。SUBARU(スバル)も主要市場で8割がそうだ。

製品やサービスが当たり前のように「常時接続」される時代だ。車でいえば、24時間365日、スマートフォンのようにネットにつながり、エッジ側の車載端末であれ、クラウド側のデータセンターであれ、膨大なデジタルデータがコンピューター上に次々と蓄積されていく。

米インテルは常時接続されるヒトやモノが増えることで、コンピューティング能力が今より1000倍必要になると試算する。クラウドの業界は米「GAFA」などによる寡占化が進み、料金が高止まりしているが、トヨタのようにクラウドの自前化へ巨額投資をする動きも増えるはずだ。

では、常時接続された時代はどんな可能性が開けるのだろう。

ヒントの一つは、152年前に書かれた名作童話「鏡の国のアリス」にありそうだ。鏡をすり抜けて迷い込んだ、不条理に満ちたチェス盤の世界での話だ。

主人公アリスは当初、歩兵(ポーン)として旅をはじめるが、高圧的な女王(敵側)、不機嫌な卵などとの駆け引きや試練を経つつ、最後は女王に「成る」。女王とは大人のアナロジー(類比)だ。鏡の世界とは現実に先駆けて、「少女から大人への一歩を試すことができる成長の場」という解釈ができるだろう。

一方、現実世界にも鏡の国と似た世界が最近は広がる。「ミラーワールド」といわれる技術の空間だ。ゲームエンジンを使い、現実の製品や都市などをデジタルツインやアバターの形で仮想空間に再現する。

現実世界より速く、安く、ダイナミック(動的)に製品開発や建設現場の管理、新技術の社会実験ができるので、自動運転や空飛ぶクルマの様々な実証実験、スマートシティの設計開発にも今や不可欠な存在だ。要は、現実に先行して、ありうるべき未来の姿を試し、成長の場にできるのがミラーワールドである

重要なのは、開発段階だけではなく、クルマが売られたり、スマートシティが実用化されたりした後かもしれない。クルマでいえば、道路上の常時接続車は1台1台が搭載カメラなどの装備で刻々と変わる現実をリアルタイムにスキャンして、クラウドに送り込む「センサー」になる。

センサーは自動運転技術を試し、ダイナミックマップといわれるデジタル地図を作製する際に貢献する。構図としては、道路状況に関する最新の情報を集める(センシング)→クラウド上にミラーワールドとして再現する(モデル化)→AIを使い、解析する(シミュレーション)→クルマ、都市を動かすアルゴリズムに結果を反映する(フィードバック)――という4つの循環をもたらす。

日経新聞(2023/1/24)

経営でよく使われるPDCA(計画、実行、点検、修正)と似ている。違うのは現実と仮想空間を行ったり来たりする点であり、企業はそれによって未来の探索と成長の模索を永遠に繰り返す。データドリブン(データを生かす)とよばれる経営だ。

VUCA(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性)の時代といわれる。そこでミラーワールドを使いこなし、未来を探索することは不測の時代を読み、羅針盤をえることにもなりうる。

野村総合研究所の此本臣吾社長は「人口減が進む日本の企業にとって市場が縮小し、売上高が増えなくても大きな利益をあげる高付加価値型の経営にもつながる」と指摘する。人口減少下の生産性革命が「常時接続」から始まるとすれば、DXの意味合いも、つながる先でいかに4つの循環を確立するかにかかっている。

アリスの物語で最後に用意されるのは「夢を見たのはどっち?」(角川文庫、河合祥一郎訳)という章だ。物語は現実のアリスがみた夢か、チェス盤の一方の王(敵側)がみた夢(アリスは夢の登場人物)だったか。作者は問う。

ビジネスの場合も2通りのケースがありうる。ゲームや旅行のように、仮想空間(ソフトウエアやサービス)で稼ぐために現実(ハードウエア)が存在する。車や航空機のように現実で稼ぐために、仮想空間を不可分な存在として育てる。いずれにしても「鏡の国での夢」が企業の競争力を左右する時代が到来する。

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