今日の日経新聞ピックアップ(2023/1/10)
- 「V2H」元年、EVを電源に
パナ参入、ニチコンは増産 家庭で非常用に活用
・パナソニックやオムロンが2023年に電気自動車(EV)を家庭の電源として使う「ビークル・ツー・ホーム(V2H)」システムに相次いで参入する。EVの普及や補助金を背景に、蓄電容量の大きいEVの電池を非常用電源として活用する動きが広がる。先行するニチコンは約20億円を投じて京都府亀岡市に新工場棟を建設する。23年は国内市場が本格的に立ち上がる「V2H元年」になりそうだ。
・パナソニックは2月にV2Hシステムを発売する。電気工事店や住宅メーカー、工務店など約5000社の取引先を通じてV2Hシステムを提案していく。トップシェアを持つ国内EV向けの普通充電器や太陽光発電パネルなどと同じルートで販売し、25年度までに年間数万台を売り上げたい考えだ。
・V2HシステムはEVの蓄電池から電力を取り出して住宅で使用する。家庭からEVに充電する充電器に放電機能も付けた充放電器、EVから取り出した直流の電力を家庭で使う交流に変換するパワーコンディショナーなどでシステムを構成。屋根に太陽光パネルを設置している家庭では、太陽光の直流電力を交流に変換するパワコンと兼用できる場合もある。
・パナソニックはEVと家庭用蓄電池から同時に住宅に電力を供給できる機能をつけた。V2Hを導入する家庭では既に太陽光と蓄電池を設置しているケースも多いとみて、昼間に太陽光でつくった電気をEVと家庭用蓄電池に充電し、夕方などのピーク時も電力使用を賄えるようにする。現時点で割高な電力会社からの電力購入を減らし、太陽光でつくった電気の9割を自家消費できる。
・オムロンは5月にV2Hシステムを発売する。パワコンや充放電器などの関連機器の重さを25キログラムまでに抑えて、作業員1人でも設置工事ができるようにした。3年間で3万台の販売を目指す。シャープも数年内にV2Hシステムに参入する方針だ。
・V2Hの普及には日本の「チャデモ」のような充放電規格の統一やEV側の対応も必要で、海外も市場拡大はこれからだ。米テスラのEVはV2Hに対応していないとみられる。日本ではEVの普及が遅れたこともあり、21年には三菱電機がV2H市場から撤退している。ただ、22年1~6月のEVの国内販売台数は過去最高の1万7771台となり、新車販売の1%に達するなど、EVの増加が見込まれる。
・EVの充放電器の価格は百数十万円が主流で、設備代金の半額(上限75万円)を補助する制度もある。V2Hシステムを構成するためにはパワコンなど他の機器も必要になることがあるが、世界的なエネルギー逼迫による電気代の高騰などを受けて、再生可能エネルギーの利用を促進できることも注目されている。
・V2Hの利用はEVにとって充放電回数が増えるため電池劣化の心配の声もある。ただV2Hメーカーは「全く影響がないわけではないが、自動車の電池の耐久性は高く影響は軽微だと捉えている」としている。EVを手掛ける自動車メーカーも「V2Hを使用することによるバッテリーへの負荷は電池の劣化には全く問題ない」とみている。
・先行するニチコンは京都府亀岡市の工場に約20億円を投じ、V2Hシステムや家庭用蓄電池を生産する新工場棟を建設する。23年中の稼働を目指す。足元ではV2Hの充放電器の生産能力は月1000台ほどだが、既存の生産棟内にもラインを増やし、23年中に能力を2倍に拡充する。
・ニチコンは産業機器用のコンデンサーなどが主力で、12年に参入したV2Hシステムでは自社推定で約9割の国内シェアを持つという。独メルセデス・ベンツの日本法人がEVの販促用にニチコンのV2Hシステムのパンフレットを作成するなど、海外のEVメーカーとの連携も進む。新型コロナウイルス禍で世界的にサプライチェーン(供給網)が混乱した影響もあり、足元では「受注残がどんどんたまっている状態」(武田一平会長)という。
・V2Hシステムは災害時などの非常用電源としての役割でも注目されている。日産自動車の「リーフ」の上位モデルの蓄電容量は60キロワット時で一般家庭の4日分の消費電力に相当する。日産の軽EV「サクラ」の蓄電池容量は20キロワット時だが、家庭用蓄電池では容量が5~10キロワット時のものが多い。
・課題は海外展開だ。パナソニックは充放電規格の違いがあることなどから、まずは国内市場での展開を優先する。ニチコンの武田会長は「充放電の規格が明確になっていない。ルール作りから参加していきたい」と語る。