今日の日経新聞ピックアップ(2023/1/7)
- ビザスクCEO端羽英子氏、新興成長へM&A支援
合併でユニコーン誕生
・岸田文雄政権は「新しい資本主義」でスタートアップ育成を重視し、5年間で10兆円規模の資金を投じる方針だ。日本で起業の機運を盛り上げるにはどんな仕組みが必要か。ビジネス相談の仲介事業を手掛けるビザスクを2012年に創業した端羽英子最高経営責任者(CEO)に聞いた。
人材育つ経験に
――現状の起業環境をどう見ていますか。
「この10年で大きく変化した。エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)が多様化し、創業直後に資金を得やすい環境が整いつつある。会計業務や人材採用などで便利なクラウドサービスも普及し、起業のハードルは下がっている」
「起業は良い人材成長のプロセスだ。事業がうまくいかずに会社を閉じたとしても、別の会社に就職して活力を生み出す可能性がある。経験を持つ人材が増え、流動性を高めていくことは非常に意味がある」
失業手当はなく
――政府のスタートアップ育成策をどう捉えていますか。
「起業はしやすくなるが、ユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)の創出にはつながりにくいと感じる。強制的に企業を成長させるような仕組みが必要だ。たとえば、M&A(合併・買収)資金を提供し、有力なスタートアップ同士を合併させればユニコーンになり得る」
「新規株式公開(IPO)などはマクロ環境に影響されるため、長期的に増えていれば良い。施策を5年だけやって、方針を急転換されるのが最も良くない。長期的な目線でどれくらいの人が支援に関わっていくかが重要になる」
――ビザスクの創業当時に必要とした制度はありますか。
「起業すると失業手当が出なくなるのが不思議だった。初めのうちは売り上げがたたず、無収入状態だ。自身の手元資金か兼業で食べていくしかない」
――出産や育児を経て起業しました。「女性は子育てなどで退職する」という見方もされましたか。
「そういう時代もあった。私が創業した当時は『子供を抱えて大丈夫か』と言われた。米国企業を買収した際に米国人から『女性CEOはすごい』と驚かれたこともある。米国でも女性起業家は珍しい存在と見られるようだ」
「だが、資金調達を受ける女性経営者は増えており、自分の周辺は非常に変わったと感じる。投資家はリターンを上げる必要があるため、成長するビジネスに投資している。性別で差別する合理性はなく、やる気があれば男女は関係ない」
――女性が活躍しやすい環境を整え、多様性を高めるには何が必要ですか。
「性別や国籍で分けた支援はナンセンスだ。女性という理由だけで支援するようでは、むしろ女性の機会を狭めることにつながりかねない。ビジネスの本質を見て、それに合った専門家が支援すれば優秀な人材を生み出せる」 - 三井不、蓄電池で高速給電 1秒でビル・店舗へ
停電に強く 東大発新興と実証実験
・三井不動産は新型の蓄電池を活用して、乱れた電力の需給バランスを瞬時に回復しオフィスビルや商業施設などで停電を防ぐサービスを提供する。2023年夏にも千葉県で実証実験を行い、ノウハウを蓄積して他の開発エリアに順次広げる。発電量のブレが大きい太陽光など再生可能エネルギーの普及で停電リスクが高まるなか、災害に強い街づくりを目指す。
・東京大学発スタートアップで蓄電池開発を手掛けるエクセルギー・パワー・システムズ(東京・文京)と連携し、千葉県柏市の柏の葉エリアで実験を行う。同社の蓄電池は需給バランスの乱れを検知すると1秒未満で電力を供給する。大規模な電力供給について従来の蓄電池などは短くても分単位が多く、三井不によると、1秒未満の応動時間は国内で初めて。
・電力は需要と供給が一致しないと、「電気の質」である周波数が乱れて停電につながる。日本政府は脱炭素に向けて発電に占める再生エネの比率を30年度に36~38%と19年度実績から倍増させる計画だ。太陽光や風力などの利用が増えているが、再生エネは天候や時間帯で供給量の増減が大きく、需給バランスが乱れやすい。
・エクセルギー社はニッケル水素電池を使って急速充放電ができる蓄電池を開発し、20年にアイルランドや英国で電力需給調整サービスを始めた。現地の工場や大学といった大口の電力需要家を対象に蓄電池を設置し、電力供給が乱れた際、蓄電池から電力を高速で供給している。送配電事業者には電力が足りない際に、蓄電池の充放電によって電力の過不足を制御する「調整力」として電力を送るバックアップサービスも提供している。
・三井不は今回の取り組みでノウハウを蓄積し、東京・日本橋などの自社開発エリアでも同様のサービスを展開していく。系統電力が止まった場合でもオフィスビルや商業施設などの持続的な運営につなげる考えだ。同社の川瀬康司ベンチャー共創事業部統括は「安心・安全な街を住民に提供できるほか、災害に強いことで外資系を含めた新たな企業や病院、研究所などを呼び込むことにつながる」と話す。
・電力自由化で先行する欧州では、秒~数十分単位で、電力需給を制御し周波数を一定に保つための「調整力」を市場から調達する仕組みがある。日本では24年度に「需給調整市場」で秒単位の「一次調整力」の売買が始まる。対象は火力発電や蓄電池の電力。送配電会社が市場を通じて地域を超えて調達でき、調整力を提供した企業は対価を得られる仕組みだ。
・三井不はこの市場で一次調整力の取引を視野に入れている。三井不は北海道苫小牧市などに自社運営の太陽光発電所を持つ。将来は国内で保有する再生エネ施設を有効活用していく見通しだ。今回の急速充放電ができる蓄電池と組み合わせた電力需給調整ができるようになれば、事業展開の幅が一段と広がる。送配電会社にとっても外部から一次調整力を確保する選択肢が増えれば、安定供給に寄与し、脱炭素も加速できる。
・オフィスや工場など事業拠点を巡っては、外資系企業を中心にBCP(事業継続計画)対策や街のレジリエンス(強じん性)の高さを求める声が強まっている。三井不は東京駅前に建設した超高層ビル地下で都市ガスを燃料に電力や熱を作るコージェネレーションシステムも設けたが、新たな取り組みが災害への強さにつながり、都市の競争力や価値を高めると見て早期の多拠点展開を目指す考えだ。