今日の日経新聞ピックアップ(2023/1/5)
- 逆風経産省、供給網省エネに5000億円
時間要する投資を支援 中小手厚く、競争力向上
・経済産業省は供給網の省エネルギー化を進めるため、中小製造業を主な対象に3年間で5000億円の補助枠を設ける。熱効率が高い工業炉など一定の時間がかかる投資を、複数年にわたって支援する。米アップルなど世界の大手企業は取引先を含めた供給網全体の脱炭素を目指している。大企業と比べて遅れた中小企業の脱炭素を進め、供給網の競争力を高める。
・大幅な省エネを実現できる設備の導入について、年20億円を上限に補助する。空調、照明などの更新も対象になる。工業団地に発電設備を新たに導入し、発電時に生じる熱を暖房や給湯などに利用するといった投資も補助できる。
・対象には大企業を含むが、主な利用を見込むのは中小企業だ。大企業に比べると資金力が乏しく、時間をかけて設備を更新するニーズがある。
・例えば、金属を熱で加工する工業炉を更新する場合、設計から始まり、2年目で炉を製造し、3年目に据え付け工事をする。経産省は設計・製造・工事にかかる費用をそれぞれ支援する。
・複数年にわたって補助するため、予算上は次年度以降の措置を約束する「国庫債務負担行為」を活用する。2025年度までの3年間で年約1600億円ずつ確保し、このうち毎年約1100億円は翌年度から3年後までの補助分とする。
・足元では電気代やガス代が高騰し、中小企業は負担を抑えるための省エネを迫られている。生産量あたりの電力コストが21年より31%上昇したアルミ鋳造メーカーもある。ガスはより深刻で、22年10月のガス価格が21年6月から2倍以上に膨らんだ熱処理企業もあった。
・取引における温暖化対策の必要性も高まっている。米アップルは30年までに、ソニーグループも40年までに供給網全体で温暖化ガスの排出量を実質ゼロにすることを目指している。大企業の下請けとなる中小も、温暖化ガスの削減を求められる。
・中小企業の温暖化ガス排出量は年1.2億~2.5億トンと推計され、日本全体の排出量のうち1割~2割弱を占める。経産省は産業部門ではエネルギー使用量を10%前後削る余地があるとみる。
・中小企業でも意識は高まっており、22年度は専門家が企業に省エネ対策を提案する経産省の事業への申込件数が例年の3倍に急増した。
・政府が目指す50年の温暖化ガス排出量の実質ゼロには、長い期間をかけてエネルギーの構造を転換させる必要がある。複数年にわたる補助は企業にとって利用しやすいが、財政規律が働きにくい面もある。
・企業の投資を引き出すには補助だけでなく、温暖化ガスの排出量に応じて負担を求める「カーボンプライシング」の本格導入も欠かせない。 - 注目銘柄2023(1)ソニーGの稼ぐ力 半導体、ゲーム超えも
時価総額、10年で10倍超
・日本経済新聞が2022年末に実施した「経営者20人が選ぶ注目銘柄」のアンケートでは、材料高や部材不足など事業環境が激変する中、強い収益力を示した企業が上位に入った。注目銘柄の強みや課題を通じ、成長の条件を探る。初回はソニーグループ。波乱相場の影響があっても、昨年末の時価総額が13兆円弱と10年前の10倍超ある。
・「絶え間ないイノベーション推進へ互いのチームの協力を確認できた」。12月中旬、熊本県のソニーGの半導体工場を訪れた米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は強調した。
・画像センサーは11年から「iPhone」へ供給している。自らクック氏を出迎えた吉田憲一郎会長兼社長はセンサーの技術開発や活用の方向性を話し合ったという。スマートフォンが高機能化する中、高画質を実現できるソニーGのセンサーはiPhoneにとってもなくてはならない存在になった。
・世界で4割超のシェアを持つ画像センサーなど半導体事業は逆風下でも好調だ。23年3月期(国際会計基準)の営業利益は2200億円と前期比4割以上増える見通しで、20年3月期の最高益(2355億円)に迫る。ゲームや映画が大幅減益の中、全体の営業利益が1兆1600億円と4%減で済む原動力になっている。
・近年のソニーGは急成長したゲームの印象が強いが、事業別の稼ぐ力を分析すると半導体は高い。予想EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)ベースだと、主要アナリスト5人の試算値の平均で約5000億円で、3000億円台後半のゲームや音楽をしのぐ。収益性でも、今期の売上高営業利益率は15%強とゲーム(6%強)や映画(8%弱)を上回り、音楽(19%強)に次ぐ。
・それでも半導体は市場で素直に評価されていない。12月中旬、熊本での新工場建設を巡る報道が出た際も株価の反応は薄かった。時価総額は22年末まで1年間をみると5兆円超(約3割)減っている。ゲームの先行き懸念や金利上昇の影響が大きいとはいえ、十分に株価を下支えできていない。
・背景には、成長への期待値が下がっていることがある。事業価値(EV)がEBITDAの何倍かを示すEV/EBITDA倍率の市場平均は9倍にとどまり、音楽(16倍)やゲーム(12倍)に届かない。半導体業界では、競合の中国ウィル・セミコンダクター(18倍台)など10倍超の企業も少なくない。
・市場の評価を変えるには、「スマートフォン需要の頭打ちが意識されている」(SMBC日興証券の桂竜輔氏)中でも、「規模の成長」を示すことが求められる。対策の一つがセンサーの大型化や高機能化による単価上昇だ。ソニーGはスマホのセンサー市場が30年度までで年平均10%伸びると想定する。iPhone向けだけでなく他のスマホ向けを含めて、「高シェアによる価格交渉力を発揮する余地はある」(大和証券の栄哲史氏)。
・センサーのスマホ一本足からの脱却も必須だ。スマホ向けの売上高比率は8割程度とみられ高い。用途拡大へは電装化で「目」としての重要性が増す車向けがカギだ。同社は7~8年前から車向けを強める意向を示していたが、今の売上高は全体の数%にとどまるもよう。米テスラや中国向けの強化などでシェアを高められるか。
・時価総額が1兆円未満だった10年前までは業績の下方修正が目立ち、エレキやゲーム、半導体でさえ赤字や低収益だった。そこから痛みを伴う構造改革をやり遂げ、全事業で1000億円超の利益を出せる会社に変貌した。「次の10年のけん引役は何か」。23年は市場からの問いかけに応える試練の年でもある。 - 逆風テック、GXに活路 米見本市CES開幕へ
脱炭素や気候変動焦点 官主導のブーム、危うさも
・世界最大のテクノロジー見本市「CES」が米ラスベガスで5日に開幕する。景気減速がテクノロジー分野にも影を落とし投資や雇用が落ち込むなか、注目を浴びるのが日本でグリーントランスフォーメーション(GX)などと呼ぶ脱炭素に関連する分野だ。温暖化対策が喫緊の課題になる一方、官主導のブームには危うさも潜む。
・「技術革新や社会実装も景気とは無縁ではない」。CESの開幕を2日後に控えた3日、CESを主催する米民生技術協会(CTA)のバイスプレジデント、スティーブ・コーニグ氏は取材に応じてこう語った。同日発表した2023年の米消費者のテクノロジー分野への支出は4850億ドル(約63兆3000億円)と前年を下回る見通しだ。
・CTAによると、今回は約3200の企業や団体が出展し、10万人の来場を見込む。企業・団体数は22年より40%多く、来場者は2.2倍を予想するが、ともに新型コロナウイルスが流行する前の20年の実績を大きく下回る。オンラインイベントの増加などに加え、景気減速が重荷だ。
・22年は米国などで金利上昇が進み、ハイテク企業の株価が軒並み下落した。スタートアップ企業への資金の流入が急減し、人員削減によりコストを切り詰める動きが広がっている。米チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスによると1~11月の米テック企業の人員削減は8万人超に達し、過去20年で最高になった。
・事業環境が厳しくなるなか、堅調な分野のひとつが脱炭素関連だ。米ピッチブックによると、再生可能エネルギー分野の米スタートアップによる22年1~9月の資金調達は110億ドルに達し、過去最高だった21年と同水準を維持した。同社のジョン・マクドナー上級アナリストは「他分野に比べて耐性が高い」と指摘する。
・企業価値の評価が10億ドルを上回るスタートアップ、ユニコーンも増えた。米調査会社のホロンIQによると、脱炭素など気候変動対策に関連するユニコーンは22年10月末時点で47社に達し、スウェーデンの電池メーカー、ノースボルトや再生可能エネルギーで発電した電力の販売を手がける英オクトパスエナジーなどが名前を連ねる。
・こうした企業はテック企業による人員削減を採用の好機とみる。米マイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏が設立し、気候変動対策に関連するスタートアップに投資しているブレイクスルー・エナジー・ファンドによると、出資先による求人は1200人を上回る。ほかのベンチャーキャピタル(VC)も出資先の採用支援に力を入れている。
・CESでも気候変動対策を臨場感の高い仮想空間、メタバースや次世代インターネットといわれるWeb3、ヘルスケアなどと並ぶ成長分野として位置付ける。大手企業では韓国のSKグループがグループ企業や取引先の脱炭素に関連した技術をまとめて披露する場として活用するなど、「環境見本市」としての色彩が濃くなりそうだ。
・電気自動車(EV)を柱とするモビリティーの領域も存在感を増す。22年の1.5倍に当たる300社が出展し、「北米最大の自動車技術見本市になる」(CTA幹部)。独BMWのオリバー・ツィプセ社長が基調講演し、独メルセデス・ベンツグループや独フォルクスワーゲン(VW)、日本勢ではソニーグループとホンダの共同出資会社がEV関連の出展を予定している。
・ただ、こうした分野が現在、官主導のブームの様相を呈しつつあることへの注意も要る。米国では22年8月に気候変動対策を柱とする歳出・歳入法が成立した。新車に対して1台あたり最大7500ドルの税額控除を実施するEVの普及促進策などが目玉となる。
・米国では同様のブームが10年あまり前にも起きたが、有力企業の経営破綻などにより雲散霧消した。気候変動対策に関連する製品やサービスの開発には時間や費用がかかり、資金が続かなかったのが一因だ。米国では政権交代のたびに政策が大きく変わるリスクもある。いち早く民間主導の自律的な拡大サイクルに入ることが課題だ。