今日の日経新聞ピックアップ(2022/12/23)

  1. 「経営者保証」来年から不要 新興向け融資に新制度 3月開始、保証料率0.2%上乗せ
    経営者個人が会社の連帯保証人となる「経営者保証」を不要にできる制度の全容が22日、判明した。2023年3月に経営者保証が不要になる新興企業向けの融資制度を始めるほか、民間の銀行と政府系金融機関に不必要な経営者保証を外すように求める。事業再生や新興企業の育成を妨げる一因となってきた融資慣行を官民で見直す。
    ・経済産業省、金融庁、財務省が「経営者保証改革プログラム」を23日にも公表する。民間銀行だけでなく、公的機関にも経営者保証を安易につける商慣習を見直すように求める。民間金融機関の業界団体や政府系金融機関、信用保証協会などに対して「個人保証に依存しない融資慣行の確立に向けた取り組みの促進について」と題した要請文を出す予定だ。
    ・銀行だけでなく、信用保証協会など公的機関も経営者保証を求める慣行があった。万が一、倒産すれば自宅や自家用車などを差し出す必要があり自己破産に陥るケースもある。金融機関にとっては安心して融資できる一方で、創業の意欲や事業承継を妨げる一因となっていた。
    創業5年以内のスタートアップは経営者保証を不要にする新しい信用保証制度を始める。2023年3月に開始する予定だ。保証上限額は3500万円で全額保証、無担保とする。事業者は信用保証協会所定の保証料率に0.2%上乗せした保証料を負担する。
    ・スタートアップの経営者保証をなくすと融資を回収できない「焦げ付き」が発生する懸念もあるため、損失を補填するための費用として補正予算で約120億円を計上した。創業関連保証は年間約1万件の利用があり、原則的に経営者保証を求める慣行がある。起業に関心がある人の約8割が起業をためらう原因に経営者保証をあげており、保証を不要にする制度をつくりスタートアップを支援する。
    ・23年4月からは、民間金融機関が安易に保証をとる慣行も是正する。金融庁が監督指針を改正し経営者保証をつける場合にその必要性について説明義務を課す。結果を記録し、23年9月期実績から金融庁への報告が必要になる。「金融機関から経営者保証に関する適切な説明がない」など相談を受け付ける専用窓口も金融庁に設置する。問題があれば金融機関に対して特別ヒアリングを行う。
    ・24年4月からは、創業5年を超えた事業者も経営者保証の解除を選択できる信用保証制度も始める。法人から代表者への貸し付けがないことや決算書類を金融機関に定期的に提出しているなどの条件を満たし、経営状態に応じた上乗せ保証料を負担すれば解除できる。中小企業信用保険法の改正案を23年の通常国会に提出する見通しだ。
    ・中小・零細企業のなかには財務状況が悪かったり、法人と個人の資産が分離されていなかったりして経営者保証を求めざるを得ないケースもある。経営者保証解除の前提になる収益力改善やガバナンス強化への対応も求めていく。
  2. 150兆円投資 見えぬ具体策
    GX基本方針、再エネ拡大難路 脱炭素へ勝負の10年

    ・政府は22日に取りまとめたGX(グリーントランスフォーメーション)に関する基本方針をもとに脱炭素投資を加速する。今後10年で官民で150兆円超を見込む。ただ再生可能エネルギーの大型案件は乏しく、民間資金が集まるかも見通しにくい。50年の脱炭素化と足元の電力供給の安定に向けた勝負の10年となるが、大きな金額になるだけに日本の産業競争力を高める実のある投資にする必要がある。

    大型案件乏しく
    政府は150兆円超の投資のうち再生エネの大量導入に約31兆円を想定している。日本の発電量に占める再生エネは2021年にやっと20%を超えた。30年度に36~38%にする目標の達成には太陽光や風力発電を大幅に増やす必要がある。ただ、具体的な再生エネの大型案件は見えていない。

    ・景観や安全性への懸念から地元自治体が反対する事例が増えた。開発案件から撤退する大手電力も相次ぐ。再生エネも原発や火力と同じように地元の協力が欠かせないが、国のサポート体制に課題が多い。世界で再生エネの主流となった洋上風力は国土交通省、総務省、自治体などに所管が細かく分かれ、一体的な調整ができていない。
    ・基本方針では「再生エネを最大限活用」と明記した。ただ橘川武郎国際大学副学長は16日の経済産業省の有識者会議で「電力が足りないという危機になれば、主力電源の再生エネをどうするかとの話から入るのが普通だが、その話はわずかだった」と疑問を呈した。
    ・11年の東日本大震災の直後から課題を指摘されながら、ようやく着手するのが送電網の強化だ。政府は今後10年間で原発10基の発電能力にあたる約1000万キロワット分の広域送電網を整備する。
    ・官民の投資による脱炭素産業の育成も欠かせない。再生エネ技術は太陽光パネルなど日本がリードしていたものが多い。ただ開発や実用化の段階で先行しても、量産・普及段階で中国や欧州のグリーン投資で一気に追い抜かれた事例が続く。
    ・天候に発電量が左右される再生エネを生かすには蓄電池の大型化やコスト低減が欠かせない。政府は蓄電池産業の確立に官民で7兆円規模を投じる戦略を描く。
    ・政府目標では「国内マザー工場の基盤確立」といった項目が並ぶが、競争力が高まるかは見通せない。足元では蓄電池もパナソニックホールディングスより中韓メーカーの方が勢いがある。日本が開発で先行するペロブスカイト型といった次世代太陽電池も今回の投資対象だが、対応を誤れば中国メーカーなどに普及期に抜かれかねない。
    ・水素技術も脱炭素の達成には必要で、再生エネから効率よく水素を製造し、貯蔵する技術が今後のカギとなる。水素燃料を得やすくなれば航空機や船舶、製鉄など排出量の比較的多い産業の脱炭素化につながる。

    排出負担軽く
    ・ただ、企業に脱炭素を促す仕組みは遅れている。炭素を値付けして排出に負担を求めるカーボンプライシングの本格導入時期は30年代と遅く、負担も欧州などより軽い。炭素価格は高いほど排出時に負担がかかり企業の抑制意識が高まる。
    ・今回の議論では企業の負担が大きく増えないようにガソリンなどにかかる税負担が今後減る範囲内での導入にとどめた。どういったカーボンプライシングなら気候変動対策に効果的かといった本質的な議論でなく、GX債の償還財源の確保目的に終始した面もある。
    世界では再生エネが急速に普及する。国際エネルギー機関(IEA)によると22年の新規導入容量は319ギガワット。年間の新規導入容量として過去最大だった21年を超える。
    ・欧州連合(EU)は26年から炭素価格が低い国からの輸入品に対して事実上の関税をかける国境炭素調整措置の導入を決めた。日本の対策が遅れれば、欧州などで再生エネの電気を使って生産する製品との差が出て競争力に響きかねない。
    ・今回の基本方針は、中長期のエネルギー政策を数年ごとに改定するエネルギー基本計画に匹敵するほどの大きな政策転換といえる。議論が拙速で不十分な点も多いが、それらを早期に補強しながら政府や企業が対策に取り組まないと世界との差は開くばかりだ。
  3. GX移行債で調達 20兆円規模、来年度から発行
    政府は2023年度からGX経済移行債(仮称)を発行する。50年までに温暖化ガスの排出を実質ゼロにするのに必要な150兆円超の官民の投資のうち、国がGX移行債で20兆円規模を調達して支出し、民間投資の呼び水にする。関連法案の23年の通常国会への提出を目指す。
    ・GX関連の歳出入を明確にするため特別会計から発行する「つなぎ国債」にする。23年度は最大1.6兆円で、32年度まで毎年度発行する方向だ。財務省は10年債や20年債での発行を検討する。
    ・政府は国際認証をとることで「トランジションボンド(移行債)」の位置づけにしたい考えで、認められるかが課題となる。使途を脱炭素の移行に絞るもので、日本の国債では初めてとなる。一般の国債よりも投資家が資金を出しやすく、市場での資金調達を進めやすくなる可能性がある。
    企業の二酸化炭素(CO2)排出に課金して削減を促すカーボンプライシングを本格的に導入し、償還財源とする。50年までに償還を終える。
    ・カーボンプライシングの2つの手法を使う。企業が排出削減できたCO2を売買する排出量取引は26年度に本格的に始める。33年度からは電力会社が出す排出量を国から買い取ってもらう制度に移行。まとまった財源として見込みやすくなる。
    ・欧州では炭素税を組み合わせる国が多い。日本は炭素税に似た賦課金の形で電力・ガス会社や石油元売り、商社などの化石燃料の輸入企業に28年度から負担を求める。

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