今日の日経新聞ピックアップ(2022/12/2)
- 個人情報管理、脱巨大テック
大日本印刷、分散台帳で本人証明 富士通系は大学の成績をデータ化
・インターネットで扱う利用者データを個人で分散管理する技術の模索が始まった。大日本印刷はブロックチェーン(分散型台帳)を使い運転免許などに記載された個人情報を利用者自身が管理する技術を開発し、富士通子会社は大学の成績証明をデジタル化する仕組みを整える。巨大プラットフォーマーへのデータ集中を減らすことが主眼にある。
・政府が主導する「トラステッドウェブ」と名付けた事業に企業や大学など13の事業者が参加し仕組みづくりを進める。米グーグルや米メタなど巨大テック企業へのデータ管理の依存を減らそうとする動きが世界的に加速しており、日本でも個人のデータ管理といった特定の分野で独自の取り組みを進める。
・大日本印刷は利用者がオンライン上で実施した本人確認情報をスマートフォンの複数のアプリでまたいで使えるサービスを2023年度にも始める。例えば利用者が育児支援アプリを通じてカメラで撮った運転免許証などで本人確認をすると、デジタル上の証明書を発行し、別の高齢者支援アプリでその情報を転用できる。
・従来本人確認のデータは特定のサービス事業者に預けていたが、データ保存と管理を特定の企業のサーバーだけに依存しない。ブロックチェーン技術を使い、データをどのサービスでどう活用するかといった判断を利用者自身で決められる。
・富士通子会社の富士通Japan(東京・港)は大学生の在学や成績などをオンライン上で簡単にデジタルデータにして証明できるようにし、採用活動で学生が利用する仕組みを開発する。まずは関西学院大学と連携し、学生が就活やインターンに応募するのに使えるシステムを開発する。
・採用情報ではリクルートグループが内定辞退率の予測データを企業に販売するなど、収集したデータの不透明な利用につながった経緯がある。どのデータをどこに提供するか利用者自身が決めることで、こうした特定企業によるデータ乱用を防ぐことにつながる。
・消費者向けだけでなくBtoBでも特定のプラットフォーマーに依存しないデータのやりとりの仕組みづくりの模索が始まった。
・ヤンマーホールディングスはブロックチェーンを使い、機械製品のサプライチェーン(供給網)のトレーサビリティーを管理する仕組みを整える。部品メーカーなど企業間で取引データをやりとりすることで、どの部品がどういう流れで供給されたかを証明する。
・医薬品開発支援のシミックホールディングスも子会社が、医療機関と製薬会社などが治験で必要な診療データを安全にやりとりする仕組みづくりを進める。
・各企業の実証の結果をふまえ、政府は新しいネットの仕組みとして標準規格化して国内外に提案する考えだ。
・インターネットはこれまで無料サービスを前提に、個人の利用データなどをサービス企業に提供し、プラットフォーマーはこうしたデータをマーケティングやデジタル広告に活用することで経済圏を築いてきた。ただ、データ寡占が世界的に問題となり、プラットフォーマーのデータ経済圏から主導権を取り戻そうとする動きが広がる。
・欧州連合(EU)では一般データ保護規則(GDPR)で企業に巨額の制裁金を科す事例も出てきたほか、巨大テック企業に包括規制をかけるデジタル市場法(DMA)の導入に動いた。
・さらに利用者の属性情報などを本人が管理できるようにする仕組みを導入する法案を発表した。技術仕様を近くまとめる予定で、プラットフォーマーにも仕組みの受け入れを義務付ける。
・米国では米マイクロソフトなど70社以上が様々な分野で本人確認として利用できる分散型IDを構築するための業界団体を設立した。プラットフォーマーのようなID発行者に依存せず、本人確認や自分の情報を証明できるようにする。
・中国はプラットフォーマーへの統制を念頭に、「インターネット安全法(サイバーセキュリティー法)」では中国で収集した顧客データの国内保存や、海外に持ち出す際の当局の審査を義務付けた。21年に成立したデータ安全法(データセキュリティー法)ではあらゆるデータを対象とし、収集から保存、伝送などすべての過程を当局が管理しやすくした。
・東南アジアでも米テック企業などを念頭に国内でのデータ保管を義務付ける動きがあり、各国は「データナショナリズム」の様相を呈している。 - Web3の動きと連動 データ管理、各国も重視
・米巨大テック企業を中心とするインターネットのあり方を変えようとする動きでは米スタートアップを中心にWeb3が盛り上がっている。ブロックチェーン技術などを使って、データを中央集権から分散型に変えていくことが主眼にあるが、米ベンチャーキャピタル(VC)を中心に投資テーマとしてはやされてきた面もある。
・テック業界では景気減速や世界的な株安に加え、広告不振を背景に米メタなど各社のリストラが始まった。さらに、ブロックチェーン関連では大手仮想通貨交換事業者FTXトレーディングの経営破綻で逆風が吹き荒れている。Web3の動きがプラットフォーマーの寡占にどこまで食い込めるかはまだ不透明だ。
・日本が模索を始めた「トラステッドウェブ」もWeb3に似た動きといえるが、ベイカレント・コンサルティングの内田秀一エグゼクティブパートナーは「日本の開発はデータ利用時の信頼性確保を重視している点が特徴だ」と指摘する。
・活用する技術も必ずしもブロックチェーンだけにこだわらず、アプリなどでデータ管理などの機能を追加するだけで済むケースもあり、今のネットの仕組みと併存させる実用性と現実路線を重視している。
・世界各国は政府の機密データのクラウドコンピューティングの活用で米アマゾン・ウェブ・サービスなど外資企業だけに頼らず、国内企業との協業を義務づけたり、国内サーバーの利用を促したりといった動きも進めている。
・脱GAFAに向けた取り組みは現実的には難しさをはらむものの、独自のデータ管理の仕組みを整えることは国の安全保障面からも無視できなくなってきている。