今日の日経新聞ピックアップ(2022/11/30)
- JERA、電力4社と協業 水素・アンモニア調達などで
・東京電力ホールディングスと中部電力が折半出資するJERAは29日、東北電力、九州電力、中国電力、四国電力と水素・アンモニアの調達や輸送で協業すると発表した。代替燃料を使うことで二酸化炭素(CO2)の排出削減につながる。協業により製造から発電までのコストを抑え化石燃料からの代替を進める。
・JERAは国内の石炭火力発電所で2020年代後半にアンモニアを2割混ぜて発電することを目指し、27年度から40年代まで年間最大50万トンを調達する計画だ。調達のための国際入札には40社以上から供給に向けた提案があったという。
・同日記者会見したJERAの小野田聡社長は「既に10社弱のアンモニア製造者と交渉しており、確実に20年代後半に燃料を供給できる企業と契約する」と話した。商船三井や日本郵船ともアンモニア輸送で連携する。
・今後の電力需給について小野田社長は「気温が想定外に低くならない限り、現状はこの冬は乗り切れる見通しだ」と述べた。運転開始から40年以上経過し計画停止中だった姉崎火力発電所5、6号機(最大出力120万キロワット、千葉県)など5基を再稼働させ、一般家庭100万世帯分に相当する298.8万キロワットの電力を供給する。
・出資する米国の液化天然ガス(LNG)プラント「フリーポート」については火災発生で稼働を停止したが、12月中旬から生産を増やし、23年1月には生産能力の85%にあたる年1400万トン強の生産ペースを取り戻す。 - 住商、CO2海中吸収・貯留に参入 自治体の削減支援
・住友商事は二酸化炭素(CO2)を吸収して海中に貯留する「ブルーカーボン」事業にこのほど参入した。コンブやワカメといった海藻が光合成で吸収する二酸化炭素(CO2)の量を算定するなど、排出削減量や吸収量の枠「クレジット」の認証を自治体などが受けるために支援する。ブルーカーボン事業を活用して地域住民など地元との関係性をつくり、洋上風力など海上での脱炭素事業にもつなげていく。
・ブルーカーボンはマングローブや海藻などの生育過程で海中に貯留されたCO2を指す。森林などがCO2を吸収するのと同様に、気候変動対策に必要なCO2の吸収源として着目されている。
・住友商事は6月、岩手県洋野町の藻場でのCO2吸収量を測定する実証実験を同町に拠点を置く漁協などと実施した。同町では海岸沿いの岩盤に溝を掘ってコンブやワカメが育ちやすい環境をつくり、それを食べて育つウニを収穫するウニ漁が盛んだ。同町の海域に広がるコンブなどの藻場面積をドローン(小型無人機)による空撮などで把握し、5年間にわたるCO2吸収量を算定した。
・CO2の吸収を巡り、洋野町がブルーカーボンのクレジットである「Jブルークレジット」を発行するジャパンブルーエコノミー技術研究組合(神奈川県横須賀市、JBE)にクレジットの発行を申請。このほどクレジットの認証を取得した。 - 経営者保証ない融資促す 中小企業庁、金融機関に
返済能力など数値基準 起業阻む慣行見直し
・中小企業庁は「経営者保証」をつけない融資を金融機関に促す仕組みを導入する。企業の稼ぐ力や有利子負債の返済能力など具体的な数値基準を設け、経営者保証がなくても融資できるかどうかの判断材料にする。企業にとっても融資を受けられる条件が分かりやすくなる。事業再生やスタートアップの成長を阻んでいた融資慣行の見直しが進む。
・経営者保証は個人保証とも呼ばれ、高度成長期に確立された。金融機関から受けた融資の返済が滞ったときに、会社が持っている資産と個人の財産を一体で支払う仕組みで、銀行には安心して融資できる面があった。一方で経営者は銀行からお金を借りて起業することをためらったり、事業を拡大する意欲を失ったりするとの指摘も多い。
・金融庁は2023年4月から金融機関に対し、経営者個人が信用保証を負う場合、具体的な理由を説明するよう義務付け、事実上制限することを決めた。今回の中小企業庁の仕組みは、その一環となる。
・中小企業庁は30日の有識者会議で詳細を公表し、来年4月から導入する。現在のガイドラインには経営者保証をつけない融資を受けるための要件として(1)法人・個人の分離(2)財務基盤の強化(3)経営の透明性確保――の3つがある。新たにそれぞれに具体的なチェック項目を策定する。
・例えば、財務基盤の強化では、「(有利子負債がキャッシュフローの何倍あるかを示す)EBITDA有利子負債倍率が15倍以内」「減価償却前の経常損益が2期連続赤字でない」といった目安を設ける。
・経営の透明性確保については「経営者は日々、現預金の出入りを管理する。終業時に金庫やレジの現金と記帳残高を一致させるなど収支を確認する」といった趣旨の具体例を示す。
・新たなルールは強制ではなく、金融機関が使うかどうかは任意となる。ただ、これまでは経営者保証をつけるかどうかの交渉で金融機関ごとに基準が異なっていたり、基準がなかったりした。経営者はどのような点をどのくらい改善すれば、経営者保証をつけずに済むかわかりにくかった。
・経営者保証をつけない中小企業向け融資件数は全体の約3割にとどまっている。金融庁は現状の経営者保証について「合理的な理由がなく不必要に経営者保証を付けている例が多い」と指摘している。
・今回、中小企業庁が数値基準などを導入することで、経営者保証を巡る金融機関と企業の交渉の透明性が増す。銀行側は財務面だけでなく、アイデアを評価して融資するなどリスクを取る姿勢に転換できるかが今後の焦点となる。
・中小企業庁は中小企業の収益力改善やガバナンス体制を整備するための実務指針案も示す。金融機関や税理士、中小企業診断士向けで指針を活用してもらうように促す。 - VC、バイオ起業支援に的
東大系、海外経営人材を紹介 コロナで再注目 出遅れを挽回へ
・ハードルが高いとされるバイオ医療分野の起業を促そうと、ベンチャーキャピタル(VC)が動き出した。東京大学系の東京大学エッジキャピタルパートナーズ(UTEC)は、国内の研究者に海外の経営人材を紹介する取り組みを始めた。バイオ技術はスタートアップ育成に力を入れる岸田文雄政権も重視する分野の一つ。VCは開発ピッチを上げ、投資マネーの呼び込みにつなげる。
・UTECはヘルスケア産業が集積する米ボストンにキャピタリスト(投資担当者)を派遣し、経営者候補や臨床開発に携わる人材を探す。起業を検討する国内のバイオ研究者に対し、事業戦略や治験計画の立案をサポートする。起業後も最高経営責任者(CEO)や最高技術責任者(CTO)などを担ってもらう。
・ボストンは産学間の人材流動性が高く、経営経験と学術知識を併せ持つ人材が多いという。UTECの宇佐美篤パートナーは「世界標準の人材を招くことができれば、海外マネーを呼び込みやすくなる」と説明する。
・関連する研究論文や引用件数、特許情報などをまとめたデータベースも構築。これを基にUTECのデータサイエンティストが分析し、将来の起業につながるような技術の組み合わせを探す。既に候補技術を見つけ、日米の研究者と起業に向けた議論を始めている。
・バイオ医療分野の起業支援には課題が多かった。多額の治験資金を確保できなければ開発が進まず、研究段階では事業化のめどがたちにくい。VCなども投資に踏み切る判断が難しく、起業直後の「シード期」や製品開発中の「アーリー期」を待ち、少額出資をする投資家が多いという。
調達額10分の1
・経済産業省が3月に公表した調査結果によると、東京圏のバイオスタートアップの資金調達額は1980年代~2021年7月の累計で19億ドル(約2600億円)だった。ボストンの10分の1にとどまる。創業者に起業時の課題を聞いたところ、研究成果の有望性評価や予算不足を指摘する回答が多かった。
・新型コロナウイルス禍でバイオ関連企業への関心は高まっている。メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンを開発した米モデルナなどが代表例だ。調査会社グローバルインフォメーションによると、世界のバイオ技術市場は27年に8320億ドルと20年の1.8倍に拡大する見通しだ。
・成長市場を取り込もうと、VCの取り組みが広がる。バイオ分野に強い米VCの出身者などが設立したANベンチャーズは23年、国内バイオ技術への投資に特化したファンドを立ち上げる。1社あたり最大4000万ドルを投じる。
・特徴は正式な出資前に共同研究という枠組みなどで資金提供し、事業化や将来性の判断材料にする実験「キラーエクスペリメント」を求める点だ。データを基に将来性があると判断すれば、知的財産戦略の立案や海外法人の設立も支援する。
・日本では珍しいが米国では一般的な手法で、起業直後でも大型の資金調達ができる可能性を高める。ANベンチャーズ共同創業者のケン・ホーン氏は「日本は(遺伝子の働きを操作する)核酸医薬や細胞分野に強みがある」とみる。投資先の選定を始めており、ある国立大が開発する遺伝性疾患の治療技術が有力候補という。
専門部署を新設
・独立系のビヨンドネクストベンチャーズ(BNV)は9月、バイオをはじめとする先端技術(ディープテック)の起業を支援する専門部署を新設した。地方の大学を含めて事業のタネを探し、起業家教育も提供する。技術が起業の起点になることが多いが、起業に興味を持つ人材を増やすことで活性化を促す。
・BNVは直近ではインドに拠点を設立し、有望なスタートアップに投資している。現地の経営人材候補を探し、国内の研究成果とマッチングする取り組みも検討する。
・岸田政権は経済政策「新しい資本主義」でスタートアップ育成に力を入れており、バイオ技術を量子や人工知能(AI)に並ぶ重点分野の一つに据えている。VCの取り組みで支援体制の厚みが増せば、日本勢の挽回に弾みがつく可能性がある。 - CO2削減へ企業に課金 政府、GX債償還の財源に 本格導入は30年代、欧州などに遅れ
・政府は29日、二酸化炭素(CO2)の排出に負担を求める「カーボンプライシング」を2030年代に本格導入する調整に入った。排出量の多い火力発電所を持つ電力会社や、化石燃料を輸入する石油元売り会社などからお金を集め、脱炭素に取り組む企業を支援する財源にする。既に欧州は導入済みで、30年代からでは企業の取り組みの差が開く懸念がある。
・政府が29日に開いたGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で経済産業省が制度の方向性を報告し、了承された。
・政府は50年に国内の排出を実質ゼロにする目標を掲げている。それに向けて今後10年間で官民で150兆円以上の脱炭素投資が必要とみている。うち20兆円規模を新たな国債「GX経済移行債(仮称)」の発行で調達し、先行して企業の投資支援に回す。来年度の発行をめざす。
・その償還財源をカーボンプライシングで確保する。岸田文雄首相は29日の実行会議でカーボンプライシングやGX債の詳細を12月に開く次回会合で示すよう指示した。
・カーボンプライシングはCO2排出に負担をかけることで企業に脱炭素の取り組みを促す仕組みだ。世界では排出量取引と炭素税の2つが主流となっている。業界ごとに排出上限を定め、超えた分を市場で取引したり、CO2を排出する企業に税金をかけたりする。その負担を抑えようと企業は排出を減らす努力をする。
・日本もこの2つはあるが、排出量取引は試験段階で、炭素税は税負担が軽く機能していない。そのため今回の案では炭素税に似た賦課金の仕組みの導入を検討する。
・化石燃料を消費する際に発生する排出量に応じて企業に負担を求める。対象は化石燃料を輸入する電力会社やガス会社、石油元売り会社、商社などを想定する。輸入減を促す狙いがある。事業者が負担するため将来、ガス料金などに転嫁される可能性もある。
・日本の税制は与党税制調査会が主導する形で毎年、決めている。賦課金の形式にするのは税制に比べて導入が容易との見方がある。負担の比率は毎年見直していく方針だ。税率変更には法改正が必要になるとみられ、炭素税の本格導入は今回は先送りする。
・日本は化石燃料を輸入する企業が負担する石油石炭税に上乗せし、炭素税の一種である地球温暖化対策税をCO2排出1トンあたり289円課税している。欧州では1万円を超すところもある。
・政府は賦課金とともに排出量取引もカーボンプライシングの柱の一つにしようとしている。日本の排出量取引は欧州のように公的機関が各企業の排出上限を定めておらず、取引への参加も企業の自主性に委ねている。経産省は26年度から徐々に規制を強めていく。31年度以降は電力会社に対し、自社のCO2排出枠を買わないといけない制度にする構想だ。
・政府はカーボンプライシングによる負担増が経済に悪影響しないような制度を検討している。そのため本格導入の時期について石油石炭税と、再生可能エネルギー普及の原資として企業や家庭が支払っている再生エネ賦課金の負担が減るころと説明している。
・石油石炭税は20年代に減り始める可能性がある。より金額の大きい再生エネ賦課金は32年ごろに減少に転じるとみられている。そのためカーボンプライシングを20年代のうちに始める可能性はあるが、本格的には30年代になる。そこまで遅れることにリスクもある。
・EUは05年に排出量取引を導入した。中国や韓国、米国内の一部の州でも導入済みだ。欧州では排出量の多い企業に上限をかけ、各国の税制でその対象外の企業には炭素税を課す動きが広がる。導入が遅れれば日本企業が脱炭素に取り組む意欲が高まりにくい。
・EUは26年からカーボンプライシングなどの取り組みが遅れる国からの輸入品に対して事実上の関税をかける国境炭素調整措置(CBAM)を本格導入する。排出への負担が重い欧州での生産と、軽い負担の地域とでコスト競争力に差がつかないようにするためだ。欧州と同じルールが広がる可能性もあり、日本の輸出産業の競争力に影響しかねない。
・経産省はGX債の償還を50年までに終える方針を示した。仮にGX債を30年から50年にかけて20兆円を完済する場合、年平均で1兆円ずつ返済する計算になる。炭素税換算で試算すれば排出1トンあたり1000円ほどになる。欧州の10分の1程度で、排出削減を促す動機づけとしては弱い可能性がある。