今日の日経新聞ピックアップ(2022/11/26)

  1. 「新しい資本主義」実行段階
    資産所得倍増プラン28日決定 年内に予算措置・工程表

    岸田文雄政権の経済政策「新しい資本主義」が実行段階に入ってきた。政府は28日に資産所得倍増やスタートアップ育成に向けた計画を決める。人への投資や科学技術など4本柱について年内に予算措置や工程表で具体化し、成長と分配の好循環をめざす。
    ・新しい資本主義実現会議を28日に開く。少額投資非課税制度(NISA)の拡充を柱とする資産所得倍増プラン、スタートアップの投資額を10兆円規模に増やす5カ年計画を正式に決める。
    新しい資本主義は6月にまとめた実行計画で、(1)人への投資と分配 (2)科学技術・イノベーション (3)スタートアップやオープンイノベーション推進 (4)脱炭素やデジタル――を重点投資の4本柱と位置づけた。

    ・2022年度第2次補正予算案への費用計上や数年単位の計画策定に伴い、年内にめどをつけられる分野が出てきた。各府省での予算執行や法案・政省令づくりに移る。
    ・物価高を背景に賃上げが急務だ。首相は23年春の春季労使交渉で経済界に協力を要請した。物価上昇を上回る賃上げが実現しなければ新型コロナウイルス禍からの経済再生が危うくなる。
    ・首相は25日の衆院予算委員会で「人への投資を重視し、日本社会の持続可能性を広げていきたい」と述べた。「労働力が一定の分野にとどまっていては成長へ機動的に対応できない。だからこそリスキリング(学び直し)だ」と強調した。
    ・政府は総合経済対策で副業する人らを受け入れる企業への支援制度を新設し、リスキリングに取り組む企業への助成を広げると打ち出した。5年間で1兆円を投じる。22年度第2次補正予算案で一部計上した。
    ・年功序列的な職能給からジョブ型の職務給への移行なども促す。企業間や産業間で円滑に労働移動を促す指針を23年6月までにまとめる。
    ・首相は21年の自民党総裁選で新しい資本主義を掲げて看板政策にした。アベノミクスとの違いを意識し、就任直後の所信表明演説では「分配」との言葉が目立った。一方で「成長軽視」などとの批判を浴び、政策の具体化の過程で懸念の払拭をめざした経緯がある。
    ・6月にまとめた実行計画に「資本主義を超える制度は資本主義でしかない」と書き込んだ。民間企業だけでは解決が難しい気候変動や経済的格差、サプライチェーン(供給網)などの問題に国が取り組んで投資し、ビジネスの機会を生み出す絵を描く。
    脱炭素に向けた投資拡大にも重きを置く。国が先行し20兆円規模を投じて民間投資を促す。二酸化炭素(CO2)の排出量に応じて企業に負担を求めるカーボンプライシングなどの設計は途上だ。年内に工程表をつくり来年の通常国会に関連法案を提出する。
  2. 大機小機ESG投資、原理主義を脱せよ
    ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー価格が高騰して以来、ESG(環境・社会・企業統治)投資の旗色が悪くなっている。反ESG的な傾向を持つ米共和党の下院での優勢も反ESGを勢いづかせるかもしれない。
    ・米国では反ESG投資を名乗る運用機関が反ESGをテーマにした上場投資信託(ETF)も登場させている。彼らの主張の背景には、気候変動対策は一部の投資家や企業の仕事ではないという考えがある。この考えは必ずしも非合理的とは言えない。
    ・最近、あるESG投資セミナーで討論に参加した環境運動家とみられる人物が、温暖化による大雨が地滑り被害を増やしていると主張し、ESG投資の強化を訴えていた。しかし、当然ながら、地滑りに対応すべきなのは地方自治体だ。ESG投資による温暖化の低減は重要だが、長期的な取り組みで、すぐに地滑り被害を減らすことは難しい。しかも、ESG投資には経済的リターンも必要だ。環境問題では政治とESG投資の役割分担が重要だ。
    ・ESG投資における政策の影響を分析する研究も発表されている。ある研究ではマクロ経済モデルを使ってESG投資の長期的なシミュレーションで、ESG投資が企業価値の向上に資するのかどうかを検証している。ESG投資を今後30年間継続するとして、現在から30年先までのパス(経路)を確率的に多数発生させ、企業価値向上が達成されるかどうかというシミュレーションだ。企業価値向上が実現するパスもあれば、実現しないパスもある。実現するパスは地域経済の成長や外国人労働者の増加などで社会問題も改善していた。
    ・つまり、適切な政策があってこそ、ESG投資が目的を達成し、長期的な経済的リターンを生み出せるということになる。社会課題の解決において、政治とESG投資は補完関係にあるのだ。政府ESG投資家企業に求められるのは企業価値向上に結び付くパスを見つけ出し、3者がそれぞれ適切な施策を行うことである。
    何でもかんでもESG投資に結び付けるという、過剰なESG投資原理主義からはそろそろ脱却が必要である。反ESGの動きは、ESG投資の本来あるべき姿を冷静に再考するよう促している。
  3. W杯観戦、ネットで変革 好みのアングル/端末も多様
    日本戦の23日、アベマ視聴1000万人

    ・サッカー・ワールドカップ(W杯)カタール大会で、インターネットでの観戦が広がっている。仕掛けたのがサイバーエージェントのネットテレビ「ABEMA(アベマ)」だ。全試合無料生中継を売りにファンを取り込み、日本対ドイツ戦の23日には1000万人超の視聴者を集めた。好みのアングルの映像を選べるなどスポーツ観戦の楽しみ方がネット配信で変わりつつある。
    ・23日夜、東京・渋谷のサイバーエージェントのオフィス。W杯日本代表のユニホームを着た30人ほどのエンジニアがモニター画面にくぎ付けになっていた。アベマで生中継中の日本対ドイツ戦で配信障害が起きていないかを監視するためだ。後半戦、日本代表が攻めに転じると視聴者数が飛躍的に伸び、サーバーへの負荷は従来のピークの数倍に高まった。
    ・「うぉー!」。試合終盤、日本代表が逆転ゴールを決めるとフロアで歓声が上がった。だがエンジニアたちは即座に業務に戻り、システムに異常がないか確認した。
    ・この日、アベマの視聴者数は2016年のサービス開始以来で過去最高の1000万人を超えた。サイバーエージェントの藤田晋社長は「W杯は世界一のイベント。(アベマにとって)過去最大の挑戦的な取り組みだ」と話す。
    ・対ドイツ戦はNHKもネット配信サービス「NHKプラス」で地上波の生中継番組を同時配信した。NHKプラスが受信契約者向けサービスなのに対し、アベマは全試合を無料で配信している。22日のアルゼンチン対サウジアラビア戦でも多くの視聴者を集めていた。
    ・アベマはパソコンやスマートフォンのほか、ネット対応テレビでも視聴できる。W杯では視聴者が4つのカメラから好みの映像を選べるなどネットならではの機能を用意。多様な視聴環境で楽しみたいというユーザーを取り込んだ。
    ・一方、NHKが地上波で放映した対ドイツ戦の番組平均世帯視聴率は35.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。サッカーW杯における日本の初戦で比較すると1998年以降で過去最低となり、ネット視聴の拡大を印象づけた。
    ・アベマはW杯に備え、サーバー負荷の増大に伴う映像遅延やシステム障害などへの対策を念入りに実施した。米アカマイ・テクノロジーズの配信システムを活用し、映像を複数のサーバーに複製してアクセスを分散させるなどした。実際の試合と配信の時間差も約3秒程度とテレビ放送並みを目指した。事前に障害リスクを30項目以上洗い出し、各試合で20~30人のエンジニアが不測の事態に備えている。
    動画配信の競争は激しさを増している。スポーツ番組の配信ではDAZN(ダゾーン)が先行してきたが、アマゾンジャパンや楽天グループも参入している。
    課題は収益化だ。無料配信で広告収入に大きく依存するアベマは、サービス開始以来7期連続で赤字が続く。人気のスポーツイベントの放映権は高騰している。ネットでの熱狂を支える投資をどう回収するか、アベマによるW杯配信の成否が試金石となりそうだ。

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