今日の日経新聞ピックアップ(2022/10/25)
- 冬のスタートアップ2 「投資を見送らせていただく」
・「投資は見送らせていただく」。夏、学習動画配信を手掛けるSchoo(スクー、東京・渋谷)の最高財務責任者(CFO)の中西勇介は、ベンチャーキャピタル(VC)からの連絡に緊張した。
・赤字事業で債務超過のリスクを回避するため資金調達に奔走してきたが、期待するVCから断られた。「やはり来たか」。中西は厳しい表情を浮かべた。
・いつかこうした事態が訪れるかもしれない。そう察知したのは1年前だった。
・「金融環境が悪くなる」。2021年冬、中西は上場する業界各社の経営指標を分析していると、四半期ごとに悪化していることに気づいた。
・未上場企業は上場株を参考に投資してもらう。中西は「自社の評価も下がり、調達が難しくなる」と感じた。経験のない嵐が来るかもしれないと、リスクの備えにかじを切った。
・手狭なオフィスの拡張を構想していたが、思いとどまった。固定費がかかる正社員より派遣社員や業務委託の比率も高めた。足元の環境では上場は厳しいと判断し、上場準備も先送りにする方針だ。
・「冬来たらば、春遠からず」。中西は今は耐えるしかないと社員を鼓舞する。
・働き手にも冬が来ている。「ポジションを用意できない」。3月、教育系スタートアップに勤める男性(36)は、最高経営責任者(CEO)から退職勧奨を伝えられた。
・男性は1年前に就職したばかり。CEOに誘われて挑戦を決めた。ただ、資金調達が困難を極め、コスト削減で実に半数の社員が会社を追われた。
・男性は8月、安定を優先し大企業の子会社に再就職を決めた。意思決定の速さが好きで、ほかのスタートアップの採用試験を受けて内定を得ていた。
・悩んだ末、「会社が生き残れるか見極めが難しく、もはや夢を諦めた」。男性は唇をかむ。
・米調査会社のCBインサイツによれば、日本のスタートアップの1~9月の資金調達額は32億ドル(約4800億円)と前年同期比3割減となった。景気後退懸念が強まるなか、資金調達は厳冬期に入る可能性がある。
・XTech Venturesの手嶋浩己は「体力を高めるために、合併も視野に入れるべきだ」と指摘する。いつの世も厳しい試練を乗り越えたスタートアップが、社会や経済の未来をつくってきた。経営者の力量が問われている。