今日の日経新聞ピックアップ(2022/9/18)
- ユニコーン、10年目の躓き 企業価値8割減も
マネー膨張の反動顕在化
・企業価値が10億ドル(約1400億円)を上回る未上場の企業をユニコーンと呼ぶようになって10年。40社程度から1100社超に増えたユニコーンは金融引き締めの逆風を受け海外では躓(つまず)く企業も目立ってきた。大量の資金を支えに成長を最優先するスタートアップの事業モデルは転機を迎えている。
・「上場株は冬の時代だが、ユニコーンの冬はもっと長く続く」。ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は8月の決算説明会で、厳しい見通しを示した。上場株が日々上下するのに対し、未上場株の再評価は資金調達の際などに限られる。今春以降の上場ハイテク株の株価下落がじわじわと未上場株に波及するとの見立てだ。
・実際、同社の投資先では評価減が出始めている。後払いサービス(BNPL)を展開するスウェーデンのクラーナは7月、昨年より85%低い評価で資金調達した。ロイター通信によると、世界最大のユニコーンで動画共有アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する中国の字節跳動(バイトダンス)は、企業価値を3000億ドル程度と見積もり自社株買いを実施する。昨年の未公開市場での評価を最大25%下回るもよう。
・背景にはSBGや米ヘッジファンドのタイガー・グローバル・マネジメントといった「非伝統的投資家」の動きがある。低金利を背景に2017年ごろからベンチャーキャピタル(VC)の独壇場だったスタートアップ投資を加速させ、特に投資回収が近づいた企業に大量の資金を投じて企業価値をつり上げた。
・だが、足元では金利上昇などを背景にこうした仕組みの「逆回転」が目立つ。米CBインサイツによると、資金調達が5回目以降となるスタートアップの企業価値の中央値は今年1~6月に20億ドルとなり、21年の21億ドルを下回った。新たにユニコーンになる企業も減り、非伝統的投資家の姿勢の変化を裏付けている。
・ユニコーンは新たな事業環境に対応する必要がある。「ここ数年は投資家も成長を最優先してきたが、収益性が必要とされている」。大幅に企業価値を引き下げて資金調達したクラーナのセバスチャン・シェミャートコフスキ最高経営責任者(CEO)は説明する。同社は社員の1割に当たる700人を削減し、与信管理も厳格化するなど収益重視にかじを切った。
・企業価値の引き下げを余儀なくされる企業はまだ比較的少数にとどまる。米ピッチブックによると、4~6月期に資金調達した米国のスタートアップに占める割合は1割以下だった。投資家の間には「ここ数年は実力を上回る資金を簡単に集められたので、正常な状態に向かっている」(米DCMベンチャーズの本多央輔ゼネラルパートナー)といった冷静な声も多い。
・一方、評価の引き下げは創業者や初期の株主の持ち分の価値低下を招き、株式を報酬として受け取ることが多い社員の士気低下につながるのも事実だ。米投資会社、キャップチェースのミゲル・フェランデスCEOは「現在の市場環境が続けばスタートアップが高い評価を維持するのは難しくなる」と話し、今後の増加を警戒する。
・2000年代初めにドットコムバブルが崩壊した直後には米フェイスブック(現メタ)が誕生し、08年の米金融危機は米エアビーアンドビーが生まれる契機になった。強い企業が生き残る淘汰の環境は必ずしもマイナスではないが、成長と守りのバランスを問われる局面に入ったのは確かだ。ユニコーンの増加を成長戦略に掲げる日本にとっても対岸の火事ではない。 - ユニコーン 未上場で企業価値10億ドル以上
・未上場ながら投資家から高い評価を受け、企業価値が10億ドル(約1400億円)以上に達した新興企業を指す。めったに現れないという意味を込め、伝説の生き物である「一角獣(ユニコーン)」になぞらえた。ベンチャー投資家のアイリーン・リー氏が2013年に名付けたとされる。当時は文字通り希少で39社にすぎなかったが、足元では世界で1100社を超える。
・米調査会社のCBインサイツによると評価額トップは中国の字節跳動(バイトダンス)だ。起業家イーロン・マスク氏率いる米宇宙会社スペースX、衣料品ネット通販の中国SHEIN(シーイン)が続く。業種別ではフィンテックが246社と最多で、インターネットソフトウエア&サービス(228社)、Eコマース(108社)などネット関連企業が大半を占める。
・ユニコーンの数は次世代を担う新興企業が育ち、産業の新陳代謝が進んでいることを示す指標にもなる。国・地域別で641社と過半を占めるのが米国だ。中国が174社で2位。日本は6社で、アイルランドやスイスに並ぶ18位。東南アジアなどで決済基盤を提供するOpn(オープン)が今年5月の資金調達でユニコーンの仲間入りした。