今日の日経新聞ピックアップ(2022/8/16)
- 「ユニクロ柳井氏」の量産へ
・起業家を生み、イノベーションを促す手段として根づくのか。経営者をめざす個人が自分で資金を調達して中小企業を買収し、価値を高めて投資家にも報いる「サーチファンド」の活用が世界的に増え始めた。波は日本にもおよんでいる。
・サーチファンドは1984年に米国で生まれ、スタンフォードやハーバードといった有力大学が中心地だ。仕組みを教える大学は各国に広がり、ここ数年でファンド設立が増えている。
・起業家というと、何もないところから事業を編み出すゼロイチタイプを連想しがちだが、それがすべてか。既存の事業を改善・改良するのが得意な人もいる。この能力を生かす形の起業があっていい。サーチファンドの考え方だ。
・だから「買収によるアントレプレナーシップ(ETA)」とも呼ばれる。Z世代など若い層は新たなキャリア形成の方法と位置づける。情報収集や投資家との関係づくりのため、学生が「ETAクラブ」を運営する大学も目立つ。
・サーチファンドで個人は孤軍奮闘を迫られ、相当な覚悟がいるが、無謀な賭けでもない。学術的な研究が進み、買収先の見極め方などノウハウが蓄積されつつある。
・84年以降に北米でできた526のサーチファンドに関するスタンフォード大のリポートがある。内部収益率(IRR)は35%前後と、ベンチャーキャピタルなど代表的な投資領域の成績を上回る。
・日本は中小企業の後継者不足が深刻だ。企業の休廃業や解散は毎年4万~5万件ある。過半が黒字経営で、いい技術や製品を持ちながら息絶える例が少なくない。
・これまで事業承継問題の主たる解決策はM&A(合併・買収)だった。だが過去最高の2021年でも641件(レコフ調べ)にとどまる。M&Aにつきまとう負のイメージや会社を託す相手の顔が見えないことなどが浸透を阻む。
・別のアプローチを求める声は企業売買の担い手からも上がる。日本プライベートエクイティ(東京・千代田)の法田真一社長は「事業と人をつなぐエコシステムがいる。サーチファンドはひとつの形だ」と語る。
・サーチ起業家にとって買収候補が潤沢にある国。それが日本だ。
・「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長、星野リゾートの星野佳路代表が示すように「優秀な人間が何かを継いだ時の爆発力は証明されている」。両者の場合、親族内承継で大化けしたが、サーチファンドなら「全国から『柳井氏』を探せる」。広く外部人材を厳選することで成功確率が高まるとみる。
・イノベーションの先導役としての存在感を失い停滞感の漂う日本。課題が多い分、サーチファンド発祥地の米国より大きなプラス効果を引き出せるかもしれない。